第3話 執念
男は、女性が居ない時間を狙って、再びユニットバスの天井裏に潜り込んだ。
穴を開ける位置は決まったのだが、その場所はとても狭い。ユニットバスと建物の壁面との隙間は僅か。これでは、穴を開けるのも困難である。
しかし、男の執念は凄まじかった。
男は再びホームセンターに行き、キリを購入する。そして、キリの先だけを強引に抜き取った。
抜き取ったキリの芯に、滑らぬよう丹念にテープを巻いていく。
男は、出来上がったキリの芯を持って、二階のユニットバス壁面と対峙する。
どうにか手は入る。男は、時間と手間を掛け穴を開けて行く。堀削りカスがユニットバス内に落ちぬよう、何度も慎重に繰り返し、掘り進んだ。そして遂に、穴は貫通した。
大きな穴は見つかり易いので、開けた穴はとても小さい。男は、手鏡を使って見え具合を探った。
鏡に映ったのは、小さな穴から僅かばかりの光が漏れているだけだった。
「やはり、これでは駄目だ」
男は、無い知恵を絞りだす。
「そうだ、超小型カメラを設置すれば良い」
男は、次の休日に秋葉原に向かった。
男は、極小カメラを購入し、嬉々として帰って来る。無線使用は使い勝手が良いが、電波使用故に何者かに感知される恐れがある。男は、敢えて有線タイプのカメラ一式にした。
レンズに対して、ユニットバスの壁に開けた穴が小さい。男は、穴を少し広げると、それにカメラをテープで貼り付けた。
USB延長コードを足し、ノートパソコンに繋げる。そして、映像を確認する。余り写り具合が良くない。
男は、何度もユニットバス天井裏に潜り込んでは調整する。
悪知恵というのは、こうも脳を活発にさせる物なのか。男の錆び付いていた頭脳が、天才の如く働いたのである。
男は、刻一刻と近づくその瞬間を、胸をときめかしながらひたすら待った。
パソコンの画面が少し明るくなった。女性が帰宅し、部屋の灯りを点けたのだ。
女性は商売柄、アルコール入り水分を良く摂る。帰宅すると真っ先にユニットバス内のトイレを使う。
男は、少々がっかりする。カメラは、後ろ向きになってショーツを降ろす姿を捉える。しかし、少しばかりお尻が映っただけで期待外れだった。
だが、当然こんな物で終わらない。入浴シーンが待っている。入浴なら、女性の体を覆う物は全て取り払われている。
男は、今か今かと女性が入浴するのを待つ。しかし、幾ら待っても女性はユニットバスには戻って来なかった。
どうやら、酔いも手伝って寝てしまったようだ。
女性は、昼過ぎ頃から活発に動き出す。その時には必ず入浴する筈。
しかし、平日の覗き男は仕事に出掛けている。次の土曜日か日曜日を待つほか無い。
遂に、待望のシーンが遣って来た。女性は全裸でユニットバスに入って来た。
初夏の季節なのでシャワーで済ますようだ。だが、残念ながら全仕草は映せない。
とにかく、人の視線の死角を狙った所に穴を開けたので、女性の裸体が映る場面はそう多くない。が、時間が男の見たい部分を見させてくれた。
大成功とは言えないが、何回か繰り返せば充分満足のいく映像を得られるだろう。
男は、今までの苦労を忘れ、録画した画像を何度も繰り返し見る。
盗撮は犯罪である。しかし、成立させるには告訴や証拠が必要。男の行為を証明する手立ては勿論、二階の住人である女性は、盗撮されている事すらも知らない。
次回の「新入居者」につづく
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