第6話 縛られ続けちゃダメなんだよ

登場人物


山西やまにし太希たいき

性別:男

年齢:26

身長:178


四条しじょう七海ななみ

性別:女

年齢:26

身長:156





圭吾けいごが帰ってから数時間。

太希たいきは魂が抜けた様にそらを見つめていた。


そんな太希の意識を現実に戻したのは

寝室から聞こえるスマホの音だった。


「…誰だよ。」


そう呟きながら太希は重たい身体を起こして寝室に向かう。


ベッドの上にあるスマホを取ると画面を確認する。


「…四条しじょうから電話?」


そう疑問に思いながら太希は電話に出る。


「…気分はどう?」


そう七海ななみが尋ねる。


その質問に太希は正直に答えた。


「最悪だよ。」


「そう。だったら、今から“昼梟ひるふくろう”に来て。待ってるから。」


そう一方的に伝えると七海は電話を切る。


「・・・勝手な奴だな…。」


そう太希はスマホを見つめながら呟くと悩む。


正直、昼梟には行きたくない。

なぜなら、あそこはあの日…水樹みずきが亡くなった日、のんきに圭吾と昔話をしていた喫茶店だからだ。


少し迷ったがそれでも太希は行く事にした。そろそろ前に進まないといけなと自分でも分かっていたからだ。

そのきっかけを七海がくれるかもしれないと思ったからだ。


「…水樹。四条と会ってくるよ。」


そう太希は水樹に声をかけるがもちろん返事など返ってこない。


静かな空気が太希に寂しさの味を感じさせる。その味を心に残したまま太希は着替えると玄関に向かう。


「行ってきます。」


そう呟いて太希は家を出る。


外は曇り空だった。

そんな空を1度、寂しく見上げたのちに太希は昼梟に向かって歩き出す。



太希が昼梟に入ると七海が手を挙げてアピールする。


太希は黙って七海の前に座る。


中星なかぼしから聞いたわよ。友情のぶつけ合いしたんだって?」


そう七海が話を始める。


「あれを友情のぶつけ合いだって言ったのか?あいつ。」


そう呆れた様子で太希は聞き返す。


「違うの?」


そう七海はアイスコーヒーを飲みながら尋ね返す。


「ただの喧嘩だよ。犬も食わないほどの醜い…な。」


そう太希は答える。


「珍しいわよね。」


「え?」


「あんた達が喧嘩するなんて。

過去にした事あるの?」


そう聞かれて太希は考える。


「あったかもしんねぇけど。

殴り合いは初めてだな。」


そう太希は答える。


「いいね。」


「え?」


「大人になって本気でぶつかり合えるの。多分、女の場合はそんな殴り合いなんてできないから。」


そう七海が優しく微笑みながら言う。


「いいもんじゃねぇよ。痛いだけだ。

殴られるのも…殴んのも。」


そう太希は寂しそうな声で言葉を返す。


「それより、お前等よく連絡とり合ってるよな。オレと水樹の同棲もお前から聞いたって圭吾が言ってたぞ。」


そう太希が話を変える。


「…ウチ等は似てるからさ。」


「なにが?」


「同じ日にした者同士。」


「は?」


そう七海の言葉の意味が分からず太希は聞き返す。


「中星が水樹の事好きだったように

ウチも好きだったんだよ。

あんたの事が。」


予想外の七海の告白に太希は言葉を無くす。


「でも…今のあんたは好きじゃない。

落ち込む気持ちは痛いほど分かるよ。

ウチだって好きな人を譲るほど大切な幼なじみが亡くなったんだから。

辛いよ…。辛いけど…縛られ続けちゃダメなんだよ。ウチ等は生きてるんだから。今日、言いたかったのはそれだけ。」


そう伝えると七海は1人、店を出て行く。


1人残された太希は小さく呟く。


「・・・どうすればいいんだ?

なぁ…水樹…。」



太希が昼梟を出ると外は雨が降っていた。太希はその雨の中、重たい足を動かして帰る。その途中、歩くのが辛くなり、地面に座り込む。


「どうかしましたか?」


そう誰かが太希に傘をかける。


太希が顔を上げるとそこには水樹に似た女性が立っていた。


その女性は優しく微笑む。


「私で良ければ、お話聞きますよ。」


そう女性は太希に優しく接する。

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