第5話 誰も望んじゃいないよ…

登場人物


山西やまにし太希たいき

性別:男

年齢:26

身長:178


中星なかぼし圭吾けいご

性別:男

年齢:26

身長:182





水樹みずきが亡くなってから約2年の月日が流れる。



朝、太希たいきは目を覚ますと重たい身体をゆっくりと起こす。その後、誰も居ない自分の隣を寂しそうに見つめる。その瞳に生気せいきはない。


「・・・おはよう。水樹…。」


そう水樹の名前を呼んでも、もちろん返事は返ってこない。


その現実が太希の心をさらに寂しい風で包む。水樹の温度を忘れた自分の体を抱きしめながら太希はベッドから下りると

リビングへと足を進める。



リビングのソファーで座りながら太希はただボーッと天井を見上げていた。


そんな太希の心には水樹と過ごした7年間の思い出が映画のように流れ続ける。


とくに同棲をしていた4ヶ月は濃く流れた。


その幸せなはずの思い出は太希の心を黒く苦しめる。その苦しみは吐きへと変わる。


「おぇ。おぇ。おぇぇぇぇ。」


太希がトイレの便器でこみ上げる吐き気を吐き出していると家のチャイムが鳴る。


「…はぁ…はぁ…。誰だ?」


そう苦しそうに呟きながら太希はインターホンの画面を確認する。


そこに映っていたのは圭吾けいごだった。



「で?何しに来たんだ?」


そう太希は家に上げた圭吾に尋ねる。


「ん?お前の様子を見にきたんだよ。

四条しじょうから聞いたぞ。仕事やめたんだってな。」


そう答えながら圭吾は出されたお茶を飲む。


そんな圭吾に目線も向けずに太希はただ口を閉じる。


そんな太希の口が小さく開く。


「…で?ご感想は?」


「え?」


そう圭吾が聞き返す。


「オレの様子、見に来たんだろ?

その感想だよ。」


そう太希が聞くと圭吾は無言でリビングを見渡す。


そんな圭吾の様子を太希は静かに見つめる。


「そうだなぁ。想像よりは良そうだ。意外に家の中は綺麗だしな。」


そう圭吾が答えると太希は視線をらす。


「・・・ゴミ出しは…オレの仕事だったんだよ。毎週…水樹がオレを見送る時に“はい。お願いね”って言って微笑みながらゴミ袋を渡すんだよ。それを受け取って、いつものキスをしてオレを家を出るんだ。それが…4ヶ月間の…日常だったんだよ。」


そう太希は圭吾に話す。


「・・・太希。」


そう名前を呼ばれて太希は目線を圭吾に向ける。


「・・・2年だぞ?

いつまでつもりだ?」


その圭吾の言葉が太希の心に強い怒りをみ出す。


その怒りを太希は拳として圭吾にぶつけた。


「…もう2年…?

2年だよぉぉ!!」


そう太希は床に倒れている圭吾に怒鳴る。


圭吾は立ち上がるとそのまま太希を想いっきり殴る。


「・・・男の友情っていいよな。」


「あん?」


そう太希は床に倒れながら自分を見下ろす圭吾を睨む。


で殴り合えるんだから。」


そう圭吾が言うと太希は殴り返す。

それをさらに圭吾が殴り返す。


2人の殴り合いは数分間続く。


その後、圭吾は太希の胸ぐらを掴んで家の壁にしつけると大きな声で叫ぶ。


「人がものを呪いに変えんなよ!!」


その圭吾の言葉の意味が分からず太希はただ驚いた顔で圭吾を見つめる。


圭吾は太希に目線を向けないまま言葉を続ける。


「・・・今だから言うけどさ…。

オレ・・・神川かみがわさんの事、だったんだぜ?」


「え?」


そう太希が驚くと圭吾は目線を上げて太希の目を真っ直ぐ見つめる。


「だから…頼むよ。もう…彼女との日々を…呪いにしないでくれ。

彼女との日々に縛られるのはやめてくれ。・・・こんなの…誰も望んじゃいないよ…。」


そう圭吾は弱々しく伝えると太希の家を出て行く。


1人残った太希は崩れる様に腰を落とす。


「・・・誰も望んでない?

分かってるよ…そんな事…。

分かってるよ…。」


そう太希は小さく呟くと涙を流す。

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