第12話 堅物
数日後聖女室に私たちは集まって、女子大設立にあたり女子大の授業料以外の収入源を検討していた。悩んでいる私たちにヒントをくれたのはジャンヌ様だっった。
「聖女様、宮廷教会の売店で観光客あいてにカードを売っていますよね。同様のものをお考えになったらいかがでしょうか」
私は瞬間的にいい案だと思った。前世では私自身、経験は扶桑のカステラやぬいぐるみ、札幌ではTシャツとかぬいぐるみとか持っていた。それを口にしたらマルスが、
「聖女様ぬいぐるみ好きっすね」
と言った。別に特に好きというわけではないが、思い入れはある。するとヘレンは、
「うん、ぬいぐるみ、いいね。だけどなんのぬいぐるみ?」
と聞いてきた。私はそれには即答できた。
「そんなの、ルドルフしかないでしょう」
私たちが女学校1年で卵から孵したルドルフ、そしてこないだの戦争でピンチから私たちを救ってくれたルドルフ。私たちと関係の深いものはぬいぐるみにするなら彼しかいない。
その思いはみんなにすぐ伝わったらしく、大きさがどうとか、単価がどうとかキャイキャイ盛り上がってしまった。するとジャンヌ様は、
「申し訳ありませんが、ぬいぐるみとは、なんでしょうか?」
と聞いてきた。そうだった。この国の文化にぬいぐるみというものはない。あわてて私たちはジャンヌ様に説明することになった。
そのほか収入になりそうなものの候補として、ハンカチとか名入れのペンとかが挙がった。
「とりあえずグッズの候補はわかったけど、どう売るかだね」
私がそう言うと、突如フィリップが立ち上がった。
「それなんだけどね、ツアーだよ。物販だよ」
えらい勢いである。
「どういうことよ」
「聖女様が全国をツアーするんだよ。説教でもよし、生活改善指導、農業指導、なんでもいい。で、その場で物販するんだよ」
そう言えばフィリップは、前世でメタルアイドルに入れ上げていた。アイドルはコンサートのチケット代より物販で稼いでいるらしい。
「あのさ、私アイドルじゃないんだけど」
「いやいや、下手なアイドルよりよっぽどアイドルでしょう。聖女様のありがた〜いお話で国民に知恵を与え、祝福し、国民を幸せにする。そしてその場で記念品として聖女様の祈りをこめたグッズを販売する。全員が幸せになれるよ」
「私、歌わないし踊らないよ」
「歌ってもらってもいいんじゃない?」
すると付き合いの長いフローラとヘレンが渋い顔をした。私の歌の実力を知っているからだ。
事情がわからないネリスは、
「うむ、聖女様が歌う。よいな。年齢的にも15、良いではないか」
などと言う。私は歌うわけにはいかないので、
「じゃ、ネリス、ダンサーやってよ。ヘレンとフローラもね!」
ときめつけておいた。
財源も問題だが、具体的に女子大をどうスタートさせたら良いものか、これもなかなあ議論が尽きない。来年の秋にスタートしたいが、いまだに受け入れ学生数も校舎もきまっていない。考え決定すべきことは山ほどあるのに、それに加えて小銭を稼ぐため、グッズの試作、ツアー?日程の検討も加わった。
そんなこんなでバタバタしていたら、ある日私はヴェローニカ様に呼び止められた。
「アン様、来週捕虜返還の第一陣が出発するのはご存知か?」
捕虜自体は大した人数ではないが、小出しに還して和平交渉を有利にする狙いだということは聞いていた。
「そうでしたね、そう言えばヘルムート様はどうなんですか」
そこで私は、ヴェローニカ様の顔つきがちょっと暗くなったのがわかった。
「ひどい話だ、ヘルムート殿の出身は、ご存知だろう」
「たしか、裕福でない、とおっしゃっていたような」
「うむ、ヴァルトラントからの返還要請のリストにも名がなかったから、それはそうなのだろう」
「それが何か問題でも」
「貴族のやつらはな、ま、私も貴族だが、ヘルムート殿は交渉材料にはならないから、さっさと還してしまおうと言っているんだ。要するにノルトラントは捕虜は返す。だが金がとれるところからはとる、とれないヘルムート殿はとっとと返すってことらしい」
「なんかひどいですね」
「そうなんだ、こっちの気も知らないで、あ、いや、なんでもない」
なんだか慌てた様子でヴェローニカ様は去っていった。
私は隣にいたヘレンに聞いてみた。
「こっちの気も知らないでって、なんのことだろうね」
「あ、うん、まあね」
「意味わかんない」
「聖女様にはわかんないだろうね」
「どういうことよ」
「うん、まあね」
私はなんとなく話が見えてきた。
私は色恋沙汰には鈍い。
どれくらい鈍いかと言うと、高校時代こんなことがあった。
クラスメートの一人が生徒会長をやっていた。高校になってから同じクラスになったので、優花やのぞみほど親しくはなかったが、ウマがあってよく話していた。で、その生徒会長がある時言った。
「今度ね、近くの男子校の生徒会と交流があるんだよね」
「なにそれ?」
「大したことないんだけど、うちの生徒会が向こうへ行ってね、お互いの生徒会活動について情報交換するんだ」
「ふ〜ん、だけどさ、扶桑の先生って男女関係について厳しいじゃん。なのに学校を代表する生徒会が率先して男子とあうとかって変じゃない?」
「そ、そうか、言われてみれば聖女様の言う通りね」
そのときはそれでその話は終わった。だけど何日かして生徒会長が話しかけてきた。
「聖女様の言う通り、男子校生徒会との交流、潰した」
「ほ〜、やったね」
「そうだよ、生徒会だけ男子ととかって変だよね。さすが聖女様」
そのように二人で盛り上がっていたら、優花が割り込んできた。
「あんたらさ、そうやって盛り上がってるけど、生徒会役員の気持ち考えたことある?」
「「へ?」」
「もしかしたらさ、生徒会役員の中でさ、むこうの男子と会えるの楽しみにしてた子いたかもしれないよ?」
生徒会長はそれでも言い張った。
「え、だれも反対しなかったよ」
「あのさ、あんたにそんな正論言われて、だれが反論できるの?」
「あ」
「聖女様も反省しなよ、ま、あんたら扶桑の二大堅物じゃ無理か」
私は堅物ではないと思うのだが、優花にこのての話で勝てるわけがないので、黙っておいた。
ヘレンが私にはわからないということは、きっとその関係であろう。
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