第11話 ジャンヌ・ダルク
「アンにジャンヌ・ダルクになってほしくない」
軟禁生活を余儀なくされたステファン王子の言葉は重かった。いくら政治に鈍感な私も、言わんとすることはよく理解できた。
「だからフィリップ、親衛隊を結成したのは良かったと思う。これからの親衛隊は、SPというかボディーガード的役割に尽力して欲しいと思う」
「お、おう」
「もしもだよ、もしもアンの身に何かあったら、国民は黙っていないだろう。革命だよ」
「はい?」
私は変な声が出てしまった。
「革命が起こらなければ、僕がクーデターを起こさないという自信がない」
私はもうたまらずステファンに抱きついた。涙も出た。
「修二くん、私、気をつけるから。ね、大丈夫だから」
「うん、うん、わかったよ」
ステファン王子はやっぱり優しかった。
「アンはこう言っているけど、みんなはこの手のアンの約束は危ないのわかってるだろう? だから頼むよ」
ステファンはとんでもないことを言っている。
「ちょっとまってよ、私が信用できないの?」
「いや、アンが嘘を言ってないというか、本気であることは信用している。だけどね、アンの判断基準がね、信用できないと言うか、一般人と異なるというか…… わかるだろ?」
わかるわけがない。
「ねえみんな、ひどくない?」
私は仲間に助けを求めた。この中でもっとも私の言う事を聞きそうなのは、そうだマルスだ。研究室の後輩だし、勉強もプライベートもいっぱい恩を売ってある。
「ねぇマルス、殿下はひどいこと言っているわよね」
目に力を入れてマルスの意見を聞いた。するとマルスは汚い手を使った。
「えー聖女様の仰ることが正しいと思うひと~」
私ははいはーいと、挙手した。私だけだった。
「では、殿下のおっしゃるとおりだと思うひと~」
手が6つ挙がった。今挙手していないのは私とステファンだけである。つまり私以外全員ステファンを支持しているわけだ。
フィリップがなだめるように言った。
「聖女様そんなぶんむくれないでよ~。今に始まった話じゃないでしょう」
私はフンッと横を向いた。
「まあまあ聖女様、ぼくらみんなでサポートしますから」
私を裏切ったマルスである。
「あんたゼミでしごいてやる。そういえば最近勉強できてないから、そろそろ勉強再開しよう。マルス、あんたも出るのよ」
「え、まじですかぁ?」
するとフィリップがマルスの肩に手をおいた。
「うん、マルスは貴重な理論屋だから。がんばろうね。僕もでるから」
マルスは涙目になっていた。ざまぁみろ。
しかしマルスは頑張った。追い詰められたマルスは、脳をフル回転させたのだろう。
「そ、そうだ聖女様、ゼミはここでやりましょう」
「え、ヤダ。だって殿下とのんびりしたいもん」
「違いますよ。ゼミとしてもう一日こさせてもらうんですよ」
「なに? うん、あんた天才」
「いやぁ、わかっちゃいます~」
「うん、よくわかった。というわけで来週、マルスからね」
「え、そんなぁ」
「大丈夫、あとで資料送る」
その日はそれで解散した。帰りの馬車でネリスが文句を言った。
「聖女様、あまりマルスをいじめんでくれ」
「そう、そんなつもりはないけど」
「だってマルスは全然勉強しとらんのだぞ、無理じゃろ」
「だからぁ、ネリスぅ、勉強手伝ってあげてよ」
この言い方で私の意図は伝わっただろうか。
「お、む、むぅ。そう言うことか。わかった」
「うん、よかった」
「しかし聖女様はおせっかいじゃの」
「あらいらないおせっかいだった? じゃ、来週私やる。ネリスは私の警備よろしくね」
「む、むぅ?」
もちろん冗談だ。
軽い冗談が出るくらい、私は天にも昇る気持ちだった。
だってステファン王子との面会が週2に増える。
さらに戦争やら戦後処理やらでかなり穴の開いていた勉強の時間を確保できる。
第三騎士団に戻る。王宮でステファンと夕食をとったからかなり遅い時間になっている。夏を迎えつつある北国は日が長く、まだ空は黒くなりきっていない。気持ちはともかく体は休ませなければならない時間だ。
「聖女様、時間は遅いけど一応ヴェローニカ様のところ寄るよ」
ヘレンの言葉に私は、
「はーい」
と言っておく。遅くなったら挨拶しなくていいとヴェローニカ様には言われていたのだが、やっぱり報告・挨拶はしておいたほうがいいのかな?
ヴェローニカ様はさすがに制服ではなかったがまだ起きていた。
挨拶もそこそこに、ヘレンが話を始めた。
「ヴェローニカ様、早急にお耳に入れたいお話がありまして」
そんなのあったっけ?
「うむ、聞こう」
「実はステファン殿下が聖女様の警備体制について懸念をしめされまして」
「殿下は現体制がご不満か?」
「そうではないのですが、今後危険が増えるだろうと」
「うむ、詳しく話してくれないか」
「はい、今聖女様の人気は絶大です。今後、当然聖女様を政治利用しようと接触してくる人がでるでしょう。中には聖女様と考えが合わず敵対的になるものも出るでしょう」
「出るだろうな」
「ですから今のうちから対策を取っておいて欲しいとのことでした」
「なるほど了承した。第三騎士団としては、聖女様の警護についてゼロから構築し直す。フィリップ殿には親衛隊の件があるからなるべく早く第三騎士団まで来てもらおう」
「女ばかりですが、よろしいですか?」
「うむ、警護については秘密主義で行く。うち以外の各騎士団は有力貴族の子弟も多い。ヘレン、連絡をたのむ」
「承知いたしました」
私がなにか口を出せる雰囲気ではなかった。
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