第3話 国王ご夫妻
今日は王宮で国王陛下とお会いする日だ。陛下には週に1回会うことになっている。仕事上の連絡のためだ。陛下は定期的に顔をあわせて打ち合わせしないといけないとおっしゃっている。王妃殿下も同席なさる。私の前に聖女代理として活躍されたジャンヌ様は、国王陛下とはたまにしか打ち合わせしなかったし王妃殿下も同席されなかったと言っていた。
なお、ジャンヌ様は私が聖女であることを公表した際、普通の女神官にもどりたがったが私は強引に聖女代理にとどまってもらった。彼女の能力、経験、立ち居振る舞いは、私には聖女として理想的に見える。
「国王陛下、王妃殿下、本日もお忙しい中ありがとうございます」
王宮の一角のとある会議室に行くと、お二人はすでにお待ちだった。毎回こうなので私は恐縮してしまう。
「いやいや、王など飾りだよ」
国王陛下はそうおっしゃるが、嘘だとしか思えない。
「アン様、きょうは新しいお茶が入ったのよ」
「王妃殿下、あまり聖女様を甘やかさないでくだされ」
私に同行するのはいつもどおりフローラ、ヘレン、ネリスだが、これはネリスの発言だ。
「うふふふふ」
王妃殿下はそんな事を気にせず、手ずからお茶とお菓子を配ろうとなさる。いつものようにヘレンが手伝いに行く。
「ヘレン、聖女様のお仕事も大切だけど、私の侍女にならない? 聖女様との連絡係もかねてどうかしら」
「は、はあ」
「本当なら王族のだれかの妃にしたいところだけど、フィリップがいるでしょう。フィリップから引き離したら、聖女様の呪いを受けそうだから、せめて私の近くにいてくれないかしら」
王妃殿下はなにか誤解をされてそうなので、私ははっきりさせておく。
「王妃殿下、私の呪いなんかよりも、ヘレンの怒りのほうが怖いです」
「聖女様、それはないでしょ」
「いやヘレン、ワシから見てもお主は怖いぞ」
「ネリス、あんたに言われたくない」
「いやいやヘレン、聖女様のお怒りは具体的に聖女様の魔力が発揮されて被害が出るが、ヘレンの怒りは被害が出る前にすでにまわりを恐怖に陥れるからな」
「それそのまんまネリスに返してあげる」
「まあ怖い」
王妃殿下はわかっているのか面白がっているのかよくわからないので、 私も参戦する。
「本当に怖いのは、この二人を同時に怒らせたときですね。手がつけられません」
「そうでしょうねぇ、聖女様、そんなことあるの?」
「くわしくはフィリップにお聞きください。私の口からはとても……」
国王ご夫妻との打ち合わせはいつもこんな感じだ。ただちゃんと仕事もする。今日は女子大構想の内諾を得ることだ。
「陛下、実はお願いがございます」
「なにかな」
「私、この国に女子の高等教育機関をつくりたいと考えているんです」
「高等教育機関か」
「はい、男子であれば中等教育終了後、王立神学校、王立高等学校、王立医学校がありますが、女子にはありません。しかし高等教育を受けるべき女性はいるはずです」
「うむ、そうだがこれまで問題にはならなかったが」
「それは優秀な女性たちが各自努力、または我慢した結果です。少なくとも頭脳労働において女子が男子に劣るとは私には思えません。高等教育を受けるべき人材はかならず存在しています」
「それはそうだが」
「陛下、人の営みは年々進歩しています。たとえば医術の世界では、医師たちはよりよい治療法をもとめ、工夫、研究をし、以前であれば治らなかった怪我や病気が治るようになっています。同じようなことは、どのような職場でもおきているはずです。宮廷を含めた事務仕事にせよ、職人たちの手仕事、農民の農作業、どんなしごとも少しずつでも進歩しているものです。今まで女学校の6年で十分であったものが、将来もそうだという保証はありません」
「うむ」
「さらに女性の地位向上や社会進出が見込めます。それによって我が国の経済活動が活発になるのではないでしょうか」
「ううむ、王妃はどう思う」
「優秀な女性がより優秀になって困るのは、男性ではないでしょうか」
「そう言われては私に反対する理由は無い、しかし、聖女アン」
「は、はい」
陛下が「聖女アン」と呼びかける時は、王としての正式な意見やアドバイスであることが多い。
「高等教育の必要性は理解したが、具体的な構想とか、根回しとかはしたかね」
「いえ、まだこれからです」
「う、うむ。私だからいいが、神官たちは手強いぞ」
「おそれながら陛下」
フローラが発言する。
「そのような政治的駆け引きは聖女様には無理です。ある意味そのために私達やフィリップ達がいるとお考えください」
「そうだったな。聖女アンをこれからも支えてやってほしい」
「「「はい」」」
今日の打ち合わせはこれで終わり、別室に移される。本当のところ、私にとって本当の今日の目的はこちらだ。
案内された部屋には、ステファン第二王子が待っていた。
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