第2話壊れたモノ
亜十夢の話には理解できる点と不可解な点があった。理解できる点としては、この場所が電車の車内ではないということ。動くことなく、どこかに停車しているわけでもない。広告もどこにもなくて、路線図や目的地を告げる電光掲示板も表示画面もない。さっきから感じていたこの違和感を解消するのには、亜十夢の言う通りこの場所が「電車ではない」という結論が一番納得できる。不可解な点はというとーー。
「電車じゃないなら、ここは何なの?」
長方形の空間に、向かい合わせに設置された七人掛けの座席。細長い自動ドアには大きな窓がついて、この場所の左右に四つずつ設置されている。座席の背もたれの上には大きな窓があって、座る亜十夢の頭上には荷物が置けるよう網棚が設けられ、この長方形の空間を仕切るように、頭上には吊革が並んでいる。そう、電車によく似たこの既視感は、他の空間にはないものだった。
亜十夢は私をじっと見ると、すっとその視線を私の制服の裾へと移した。
「ポケット」
それだけ彼は呟いた。その様子に戸惑いながらも、言われた通りポケットに手をのばす。触れたのは、あのバキバキに割れて壊れてしまっているスマートフォンだった。
「これが?」
「それってお姉ちゃんの?」
「え? そうだけど」
そう、答えたものの。少なくともここに来るまでは、こんなに壊れている状態ではなかったから、念のため背面カバーを見た。一面黄色いスマートフォンの本体。透明なカバーには黒く花模様が描かれていて、スマホとカバーの間にはプリクラが一枚、寂しそうに挟まっていた。黄色いスマートフォンには大きくヒビが入っていて、三又に分かれたその先の一つがプリクラの後ろへと延びている。
「その子だれ?」
私の質問はないがしろにしたまま、亜十夢は尋ねた。
「お姉ちゃんと一緒に写ってるその子」
「え? あぁ」
「友だち?」
「まあ、そんなところ」
質問したわりに、亜十夢はふーん、と興味なさ気に返した。
「会えるといいね、ここを出られたら」
彼はニコッと笑った。『出られたら』と。暗影な笑みを讃えた。
「出られたらってどういうーー」
「この世界がどこかって聞いたね」
私の言葉の先を遮ると、笑顔を消した亜十夢はその少年らしい見た目らしからぬ口調になった。
「教えてあげるよ、ここがどこで、どうしてボクらがここにいるのか」
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