第21話 オリヴィアの突然のプロポーズ
「カイ王子様、どうか私との婚約をお受けください」
隣の星の王女、オリヴィア・セリーヌ・ヴァンガード王女様が、運動会の最終競技の結果を受けて、まさかのプロポーズをしてきた。
彼女の言葉が耳に入るや否や、僕は完全に固まってしまった。
何が起こっているのか、正直頭が追いつかなかった。
オリヴィア王女様は美しく、気品に満ちていて、冷静で堂々としていた。
パイロットとしても一流であることは理解できる。
しかし、いきなりの婚約の申し出には驚かざるを得なかった。
周りも同じように驚いているようで、会場全体がざわついていた。
「隣国の王女が、僕にプロポーズ…?」
僕は混乱したまま、彼女の申し出にどう答えるべきか考えあぐねていた。こんな状況は一度も予想していなかったし、当然、すぐに返答できるようなものではなかった。
しかし、そんな僕の動揺を見透かすかのように、母上である女王がゆっくりと立ち上がってこちらに近づいてくる。
その瞬間、場の空気が変わったのを感じた。
女王の動向に集まった者たちの視線が集まっていく。
母上は、冷静な表情を保ちながらも、どこか鋭い視線をオリヴィア王女に向けていた。
「オリヴィア王女、あなたは個人競技を一つ優勝しただけです。総合優勝でもないあなたにその権利はありません」
「あら、そうですの?」
「それに、いきなりカイに婚約を申し込むとは、いささか唐突すぎるのではありませんか?」
女王の言葉は冷静でありながら、そこには隠れた強い意志が感じられた。
オリヴィア王女は、母上の威圧に対して表情一つ変えないまま、毅然とした態度を取り続けている。
「アラタ女王様、私は大会が開かれる前から、カイ王子様の技術力を聞いて調べておりました。そして、調べる内に男性でありながらも、能力に長けたカイ王子様に惹かれていったのです。私がヴァンガードとアラタの未来を共に歩むために、この婚約は必要だと考えております」
彼女の言葉には確かな信念が込められていた。しかし、女王は眉一つ動かさず、淡々と続けた。
「オリヴィア王女、そのお気持ちは理解できますが、私の息子であるカイを隣国に渡すつもりはございません。カイはアラタの未来を担う者であり、我が国の宝です。自国の者ならまだしも、隣国にこの国の未来を託すことなど、考えられません」
その瞬間、会場の空気が一層緊張感を増した。
僕は母上の言葉を聞きながら、どうすればいいのか分からず、ただ見守ることしかできなかった。
オリヴィア王女様は女王の言葉に対して、一瞬反論するように口を開きかけたが、女王の圧倒的な気迫に押されたのか、すぐに言葉を飲み込んだ。
「ですが、女王様…これを拒否する意味をわかっているのですか?」
「これは、国と国の問題です。カイはアラタの未来を守るための存在。いくらあなたが優秀であっても、個人的な感情で決めることはできません。今日はここまでといたしましょう。それとも私の優しさがわかりませんか? 同盟国として」
女王はまるで無慈悲な判決を下すかのように、そう言い放った。
その言葉は、オリヴィア王女様にとっては明らかな拒絶だった。
オリヴィア王女様の表情は少し悔しそうだったが、彼女もそれ以上は何も言わず、ただ一礼した。
「…承知いたしました。失礼します。カイ王子、またお会いしましょう」
オリヴィア王女様は冷静を保ちながらも、少しだけ寂しげな表情を浮かべて僕を一瞥し、静かに会場を後にした。
その背中を見送る僕は、何も言葉をかけられなかった。
母親の判断に異議を唱えることはできないが、それでもオリヴィア王女様の気持ちは伝わってきた。彼女が真剣であったことは分かってしまう。
「オリヴィア王女ですか…」
会場全体が一瞬の沈黙に包まれた。
僕は母上に目を向けたが、彼女は毅然とした表情のままだった。
彼女にとっては、カイ王子としての僕の未来、そしてアラタのための決断だったのだろう。
僕はその場に立ち尽くし、オリヴィア王女様の去っていく背中を見つめ続けた。
「本当に…これで良かったのですか?」
僕の中には、オリヴィア王女が強制的に退場させられたことへの違和感と、彼女の気持ちを思いやる心が残っていた。
彼女は僕に真剣にプロポーズしてきたのだ。
母親の決断は正しいかもしれないが、オリヴィアの想いを無視する形になったことに、僕はどこか心が引っかかっていた。
「カイ、優勝者の発表をしなさい。そして、あなたの専属パイロットの発表を」
「はい!」
母上は疲れた様子で、壇上を降りていった。
オリヴィア王女がいなくなり、会場は静けさに包まれたが、僕は大きな声を張り上げる。
「皆さんお疲れ様でした! 全ての結果を踏まえて専属パイロットを発表したいと思います」
会場は改めて熱気に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます