第14話 不満

《side三人称》


 カイ・アラタ王子は、ある意味でアラタという星の中で十三歳になった頃、彼の技術はすでにアラタの各地で話題となっていた。


 特に、新たに開発された魔導ロボットの反射速度を5%向上させる技術は、テストパイロットであるライラ、エリス、フェイの三人を飛躍的に強化した。


 この技術のおかげで、彼女たちは戦場での生存率が大幅に向上し、その実力は既存のパイロットたちをも凌駕するほどだった。


 アラタの地は、カイ王子の周辺が平和に見えていても、一枚岩ではない。


 多くの地で紛争が続いており、パイロットたちは革命軍や、各地の魔導ロボット対戦において異常な強さを証明したのだ。


 だが、この技術がもたらしたのは、彼女たちの実力向上だけではなかった。


「聞いたか? 最近、新人の三人がまた戦場で圧倒的な成績を残したらしいわ」

「ええ、もちろん知ってるわよ。でも、あの三人だけが優遇されているなんて、おかしいと思わない?」

「そうよ! 私たちも同じように訓練を受けているのに、彼女たちだけが特別扱いされるなんて…」


 王国に既存のパイロットたちの間で、次第に不満が広がり始めた。


 もちろん敵対している組織の者たちも次第に王国の異常な戦力に恐れを抱くようになっていた。


 カイ王子が開発した新技術は、今のところライラたち三人にしか適用されておらず、他のパイロットたちはその恩恵を受けられていなかった。


 この事実が、次第に波紋を呼ぶことになる。


 特に、実戦経験豊富なベテランパイロットたちは、自分たちのプライドが傷つけられたと感じていた。


 彼女たちは何年もかけて培ってきた実力が、たった数年で成長した新人たちに凌駕されることを受け入れ難かった。


「私たちも女王様に直訴すべきよ! この技術を全員に適用するべきだわ。そうでなければ、公平じゃない!」

「そうよ! 私たちも戦場で命を懸けて戦っているのに、なぜあの三人だけが特別待遇なの?」


 ついに、数人のベテランパイロットたちが一緒に女王の元へと足を運ぶ決意を固めた。


 王宮の大広間に、王国のパイロットたちが集まり、女王に直訴を行った。


「女王様、我々はカイ王子が開発された新技術についてお話ししたく存じます。今、その恩恵はライラ、エリス、フェイの三人のパイロットだけが受けておりますが、これは全てのパイロットに適用されるべきだと考えます」


 代表の一人が、真剣な表情で訴えた。


 女王はその言葉に耳を傾け、少し考え込んだ後、静かに答えた。


「カイの開発した技術は非常に優れたものよ。しかし、今はまだ実験段階であり、全てのパイロットに適用するには準備が整っていないのです。それに、この技術はパイロットの適性や機体の特性に大きく依存します。慎重に進める必要があると考えています」


 女王の言葉に、パイロットたちは不満げな表情を見せた。


「ですが、女王様。このままでは、私たちは戦場での劣勢を強いられることになります。戦いは平等であるべきです。全員が同じ条件で戦わなければ、不公平です」


 女王はその意見に理解を示しつつも、冷静に続けた。


「その気持ちは理解しています。しかし、技術の導入には時間が必要です。カイが研究を進めている間、私たちは現状で最善を尽くしています。全てのパイロットに適用するための計画を進めていますが、未定です」


 パイロットたちはしばらく沈黙していたが、やがて一人が深く息を吐き、頭を下げた。


「分かりました、女王様。ですが、どうか一刻も早くこの技術を全員に適用していただけるよう、お願い申し上げます」


 女王は静かに頷いた。


「その願い、確かに受け取りました。カイにも伝え、できる限り早く対応できるよう進めさせます」


 その場を去るパイロットたちは、まだ完全に納得してはいなかったが、女王の言葉を受け入れざるを得なかった。


 女王はカイ王子を呼び、広間での出来事を話した。


 カイ王子はとても驚いた。


 彼の驚く姿に、女王の顔に少し影が差してくる。


「母上、僕が作った技術が問題を起こしているのは分かっています。ですが、全員にすぐに適用するのは、まだリスクが大きいと思います。正直に言えば、僕が満足できていないと言うことはもちろんですが、ずっと一緒にやってきたから三人が慣れていると言うこともあります」


 女王は優しく微笑みながら、カイ王子の肩に手を置いた。


「あなたの言う通りね、カイ。だからこそ、私はあなたに時間を与えたいと思っています。ただ、パイロットたちの不満も理解できるの。彼女たちは、あなたの技術に希望を抱いているのよ。あなたの技術があれば、戦場で生き残れる確率が高くなるの」


 カイ王子は少し考え込んだ後、決意を固めた。


「分かったよ、母さん。もっと早く、全員が安全に使えるように研究を進めるよ。だけど、そのためには、僕にもう少し時間をもらえるかな?」


 女王は静かに頷いた。


「もちろんよ、カイ。あなたが最善を尽くすために、全力で支援します。ただ、焦らずに進めましょう。アラタの未来は、あなたにかかっているのだから」


 カイ王子は女王の言葉に深く感謝しながら、これからの研究にさらに全力を尽くす決意を固めた。


 既存のパイロットたちの不満を解消し、全員が平等に戦える未来を作り出すために、彼の挑戦はまだまだ続くのだった。

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