第4話:裏切り
(一体何が起こっているんだ・・・。)
思考は出来るのに、命令しても体は全く動かない。
先ほどの首筋の痛みが関係している事は間違いないのだが、地面にはいつくばっている状況では石畳の床しか見えない。
その時、体が仰向けにひっくり返された。
眩しい天井の光が視界を襲うが、すぐに人影が目の前を覆う。
「アークス様、どうしたのですか?そんな所で寝そべって。行儀が悪いですよ?」
それは細い目をより細めて、ニタニタとした笑みを浮かべるサイラスだった。
「生き返るとは驚きましたよ。でも嬉しいです、これであなたに恩が返せます。」
恩を返すなら今の状況を何とかしてもらいたいが、彼の態度からするとそれは絶望的な事はわかった。
「私はあなたのお父様に拾ってもらって子供の頃から育ててもらいました。私が失敗するごとに愛のムチをいただきました・・・何度も・・・何度も・・・。」
自分語りしている彼の表情はどんどん変わっていき、終わりごろになると鬼のような表情へと変化していた。
「そうそう、あなたにも色々と食べものを恵んでもらいましたね。」
彼の手には透明なグラスが握られており、その中に何か黒い物体が入っている。
嫌な感じがして、よく見ると・・・ムカデ、芋虫、ゴキブリ・・・なのかはわからないが、それに近いかそれ以上のグロテクスな虫がグラスの中でうごめいている。
(こいつ!虫を俺に食べさせるつもりだ!)
この体の主は随分と恨みと買っていたようだ。
もちろん俺がそれを受ける義理はない。
弛緩して開けっぱなしの口を閉じて阻止しようとしても、動く事はなかった。
眼前に近づいてくる虫の大群・・・・。
だが幸か不幸か、意識が遠のいていく・・・。
「これは参りました。あなたはもう死にます・・・もっと楽しみたかったのですが残念です。あなたの娘で続きをする事にしますか。」
俺はまた死ぬらしい。
しかもこいつは蘇生したエテルナにも同じ事をするようだ。
どれだけの恨みがあったのだろうか?
意識が遠のいてきた・・・ここまでか・・・。
◇・◇・◇
「ハッ!」
意識が戻った・・・まさか夢だったのか?
俺は確認するために体が動くか確認する・・・体自体がない。
ふと下を見ると、小太りのおじさんが倒れていた。
これが転生後の自分だと理解するのに少し時間が必要だった。
(まさか、これが俺の体?ということは俺は死んで幽霊になっているのか?)
死後の世界があるなんて信じていなかったが、死んでも魂は現世に残るらしい。
とはいえ魂だけでは、ただ自分の体を眺める事しかできない。
そして、今俺を殺したであろうサイラスが確認のためだろうか、体をいじくりまわしている。
(死んでまで、その後を見せつけられるなんて最悪だな。もう早く天国でも地獄でもいいから連れて行って欲しいものだ。)
すると何かに引き寄せられるような感覚があった。
(なんだこれは・・・意識が・・・。)
いよいよ本当の死が訪れたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます