第3話:復活
「失礼します。」
ドアがノックされ、誰かが部屋に入ってきた。
驚いてそちらを見ると、少女をお姫様抱っこした男性がいた。
黒髪で細身、体にピッタリとした黒装束を着た若者だった。
彼は吊り上がった細い目で俺に鋭い視線を向けると、何かを確かめるように俺を見る。
そして、アルガナに興奮した口調で話しかけた。
「アルガナ様、蘇生が成功したのですね!素晴らしい偉業ですよ!」
「サイラスよ。それより薬をくれんか、発作を起こしてな・・・。」
「それは失礼しました。」
彼は血まみれの惨状に動揺することもなく、飴玉のようなものを渡していた。
老人はそれを飲み込んでしばらくすると、急に元気になり準備体操をし始めた。
いくら即効性とはいえ薬飲んだだけであんなに元気になるものだろうか?
「さて次は我が孫娘エルテナの亡骸を祭壇に。 」
「承知致しました。」
彼は抱き上げていた少女を祭壇に静かに乗せて後ろへ下がり、俺も下がるように促した。
「これから儀式を行います。音は立てないように・・・呪文詠唱の邪魔になりますから。」
静かにアルガナは祭壇の前に進み、呪文?を唱え始める。
「アルテルソ、エルシヌカ、ミリエルド・・・・」
理解が出来ないので、少なくとも俺が知っている言語ではないようだ。
呪文詠唱はなかなか終わらず、その間ずっと祭壇を観察していた。
形はT字型のゴツゴツした石の祭壇で装飾は一切なく、荘厳さや神々しさは感じない・・・祭壇自体には何の力もないのだろうか?
横たわっている少女の様子も確認してみる。
顔は良く見えないが青白く、金髪で縦ロール、フリルがついた洋服を着ていて、まるで古い西洋人形のようだった。
(それにしても長いな。ゲームと違ってこの世界ではどの魔法も長い呪文詠唱が必要なのか?それとも蘇生魔法が高位の魔法だからなのか?)
色々と思案していると、呪文詠唱が終わり場に静寂が訪れた。
俺は何か起こるのを期待して静かに待っていたが、何も起こらない。
失敗してしまったのだろうか?
そう感じた時に祭壇が振動しはじめ、音が鳴りだした。
ウィーン!ブォーン!
まるで機械の起動音のようだ。
音と振動は収まることがなく、激しくなっていく。
すると祭壇の上空の景色が歪みはじめ、黒い穴のようなものが出現した。
蘇生魔法というには何か禍々しさを感じるが、見守る事しかできない。
穴は少しづつ大きくなり、中から白いモヤのようなものが複数飛び出してきた。
何かはわからないが、もしかして・・・人魂だろうか?
人魂たちは横たわっているエルテナの近くに集まってきて、周りを回りはじめた。
やがて、その中の一つが体の中に吸い込まれていく。
それ以外の人魂は残念そうに浮遊していたが穴の中に戻っていった。
(死後の世界から魂を呼び戻す・・・なるほどこれが蘇生魔法か。もっと神々しいものを期待していたが違ったな。)
「ゴホッ・・・ゴホッ!ゴボッ!」
凄い咳き込み音がする方を見るとアルガナがまた血を噴き出していた。
俺は先ほどと違い素早く近づき倒れそうな体を支える。
「サイラスさん、また発作です。薬をお願いできませんか?」
「・・・?わかりました。」
彼は一瞬怪訝そうな顔をしたが、素早く先ほどの薬を飲みこませる。
すると、咳がすぐに治まり呼吸も安定しはじめた。
恐ろしいほどの即効性に驚いたが、これも魔法に近い力なんだろうか?
しかし先ほどと違い、彼は一向に動かない。
「アークスよ。わしの体はもう動かん・・・寿命じゃ。最後に、わしの左手にはまっている指輪を・・・着けるんじゃ・・・。」
俺は彼の左手の小指にはまっている指輪を確認する。
「わかった。他に言い残すことは?」
「孫のエテルナを頼む・・・。」
遺言を最後に体の力が抜け、急激に重くなった。
死んだ。
ゲームではこういうシーンはよくあるが実際直面すると凄い喪失感だった。
面識はないが俺の体が息子だからだろうか?
そのままへたり込んで何も思考出来ない。
その時、首筋にチクリと何かが刺さったような気がした。
不審に思って首筋に手を当てて調べようとしたが、力が入らない。
それどころか、その場に倒れ込んでしまった。
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