第2話:転生
俺はなぜか硬い床で倒れていた。
胸が痛い・・・、体が重い・・・。
そんな俺を黒ずくめの集団は周りを囲み、何もせず見ている。
「お前ら、俺は大魔導士アルガナ・モーリスの息子だぞ・・こんなことをして、ダダで済むと思うなよ・・・ごぼ・・」
俺はそのセリフを喋った途端、口からゴボゴボと血を吹き出し死んだ。
◇・◇・◇
「ハッ!」
俺は飛び起きると、すぐさま胸に手を当てる。
異常はない。
体中も確認するが、痛みや傷はなく思ったように動く。
ただ、自分より大柄であきらかに違う体形だ。
(死んだかと思った・・・いや死んだのか?)
「おお、アークスよ!」
突然、誰かに抱き着かれた。
驚いて確認すると、かなりお年を召したじいさんだった。
残念ながら、美少女ではない。
「わしの事はわかるか?」
聞いた事のない言語だが、なぜか違和感なく理解できる。
そしてこのじいさんにも心当たりがあった。
「もしかして俺の父親、大魔導士アルガナ・モーリス?」
「そうじゃ!お前はわしの息子アークスじゃ!記憶もたしかなようでよかったわい!」
先ほど見た夢から予想しただけなのだが、大喜びである。
もちろん俺は彼の息子アークスではなく日本人の真中 理人(まなか りひと)である。
(俺はたしか夜道で倒れて、気づいたら白衣の男が新しい世界で・・・とか言ってたな。という事はここは異世界なのか?)
剣と魔法の世界に転生する小説のような展開だ。
にわかに信じがたいが、夢や妄想にしては現実感があり、取りあえずは受け入れるしかなさそうだ。
「どうしたんじゃぼーっとして?どこか体でも悪いのか?それとも蘇生魔法の副作用じゃなかろうな?」
「蘇生魔法?俺は死んだのか?」
「覚えておらんのか?お主は殺されたのじゃ。」
(殺された・・・たしかに夢で黒づくめの集団に殺されたな。あれがこの世界での記憶なのか?)
「まあよい、死んで生き返ったんじゃ。記憶も混乱するじゃろうて。さて、次は孫娘の蘇生じゃ。」
「孫娘?それって俺の娘?」
「そうじゃ、親族はほとんど殺されてしもうた・・・死体を回収できたのはお前と孫娘だけじゃ。」
「親族皆殺し・・・一体何があったんだ?」
「知らなくていい事じゃ。とにかく孫娘を蘇生させんとな。」
彼は近くの椅子に深く腰掛けて、黙ってしまった。
彼は親族皆殺しの事については話す気はないようだ。
「とにかくお前もこちらの椅子に座りなさい。その固い祭壇の上ではつらいじゃろう。」
「祭壇?」
どうも俺が寝ていた硬いベッドは祭壇だったようだ。
とりあえずそこから降りて椅子に座り、周囲を確認する。
祭壇を中心とした狭い部屋だ。
周りの壁にはすべて本棚が設置されており、イメージ的には書斎といったところだ。
窓も何もない部屋だが、天井には光の玉が浮いており非常に明るい。
「ここがどこだか気になっているようじゃな?」
「ああ・・・まだ記憶があいまいなのでここがどこが思い出せない・・・。」
「いや、お前が知らないのは当然じゃ。ここは悪魔の迷宮と呼ばれる場所の最深部じゃからのう。」
「悪魔の迷宮?」
「人類の敵である悪魔が作った迷宮じゃ。」
(この世界には悪魔が存在しているのか?しかも迷宮とは・・・まるでゲームのようだな。)
「とにかく、孫娘を復活させねば・・・ゴホッ、ゴホッ!」
彼は話の途中で突然せき込んだ。
床に赤いものが飛び散る。
「だ・・・大丈夫なのか?」
もちろん返答はなく、咳が止まらず苦しそうに吐血を繰り返す。
(病気?感染病なら近づいては・・・いや、高齢だから寿命なのか?)
俺は何をしていいかわからず、ただその光景を眺めているだけで何もしなかった。
やがて、咳が収まりそのままグッタリとして動かなくなった。
「死んだのか?」
余りの出来事に考えたことが声に出た。
「いや、大丈夫じゃ。これぐらいで死ぬわけなかろう。」
普通に生きてた。
ただ、服は吐血による血まみれでどう見ても大丈夫じゃない。
「年は取りたくないのう、わしも長くない。」
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