第2話 ノックアウト・ルーシー
この世界には、稀に魔法を使える女の子が生まれ、善意を込めて「魔女」と呼ばれていた。
しかし、彼女たちの魔法といっても、大抵はスープ皿程度の軽い物を浮かせたり、マッチ程度の火を灯したりする手品程度のもので、実益はほとんどない。それでも珍しさから貴族や富裕層などにメイドとして雇われることもあったが、大半は魔法を使わない普通の生活を送っている。
ところが、最近、魔女やその素質を持つ女性が次々と行方不明になる事件が発生していた。誘拐の可能性が高いが、何のために魔女を狙うのかは謎だった。役立つ魔法でもないのに……。
警察も動いてはいたが、その捜査は形だけで、本腰を入れているようには見えない。この街の警察組織は、今やガイア教の影響下にあったが、なぜかガイア教はこの事件にまったく興味を示していなかった。おかげで、警察も動けないというのが実情だ。
そんな中、街の有志たちは自警団を結成して、独自に街の治安を守ろうとしていた。
その中にルーシーがいる。
「ルーシーさん、よろしくお願いします!」
大柄でいかつい十人ほどの男たちが、一斉に頭を下げた。彼らの中には顔に傷がある者もいて、見るからに「ならず者」の集団だ。だが、その彼らを統率するのが、黒のメイド服に白いエプロン、そして背中に真紅の鞘に納めた日本刀を背負ったルーシーだった。
彼女は腰に手を当てながら、毅然とした声で命じる。
「よし、これから不審者がいないか見回りに行くぞ。貴様ら、ついてこい!」
厳つい男たちを引き連れ、ルーシーは街へと歩き出した。その堂々とした後ろ姿は、見る者に妙な安心感を与えるものだった。
◇
その頃、夕暮れの街を歩いていたアラン、フェス、そしてアテーナの三人は、通りを進むルーシーの姿を見つけた。
「あれ、ルシファー様じゃないか!」アランが指さすと、アテーナも気がついて。
「ほんとだ。でも、なんであんな厳つい男たちを引き連れているの」
「気になるね。後をつけようよ」アランの言葉に、フェスとアテーナも頷く。
彼らが物陰から様子を伺っていると、前方から顔に傷のある男が駆け寄ってきた。
「ルーシーの姉御! 助けてください! ブラッドベリーのハングレが殴り込んできやした!」
「なんだ、またチンピラの抗争か。親分に頼んでおけ。今忙しいのだ」ルーシーはそっけなく答えるが、男はなおも食い下がった。
「それが、奴ら用心棒を連れてきてまして……その用心棒ってのが、あの鉄バットのゴンゾーなんです!」
「ゴンゾー……」その名前を聞いた瞬間、ルーシーの表情が一変する。
「すまないが、見回りはお前たちに任せた!」
ルーシーは自警団にそう告げると、男を連れて駆け出した。
◇
アランたちは黙ってその後を追う。しばらくして裏路地に着くと、そこには険悪な雰囲気の男たちが数十人。睨み合いながら一触即発の状態だ。
そこに、ルーシーが到着した。
「やってる、やってる! 」
嬉しそうに、割り込んでいくと、ルーシーを呼んだチンピラが前に出て吠える
「おい、この島は、ルーシー様の縄張りだ、一体何のつもりだ! 」
すると、そこにルーシーの2倍はある、ゴンゾーと呼ばれる巨漢が、バットを手に前に出てきた。
「こいつが、噂のルーシーか。ただの小娘じゃねーか。女をやるのは気が進まないが……よく見ると、かわいい娘じゃねーか。あとでかわいがってやるぜ」
そう言っていやらしい目をして舌なめずりすると、ルーシーも睨み返し
「お前がゴンゾーか。聞いていた通り岩石のような面だな」
ルーシーに煽られて、眉間にシワを寄せて真っ赤になった男が叫ぶ
「なめやがって! 女と思って容赦はしねえ! 」
そう叫んでバットを振り上げた瞬間、ルーシーは一瞬の隙きに間合いをつめた。
「なに! 」
相手は、体が大きく長いバットなので、懐に入られると対応できない。まるで、瞬間移動したように、眼下に迫ったルーシーに男は驚いた。
さらに、男を見て可愛く笑うルーシーに、ゴンゾーはドキュンとして赤くなったが、次の瞬間!
ルーシーはみぞおちにストレートを一発かまし、強烈なボディー、フック、さらに回し蹴り、飛び蹴りの連撃で一瞬にしてボコボコにした。
「あれが、噂のルーシー五重連撃、さすがノックアウト・ルーシー! 」
ルーシー側のチンピラたちは嬉しそうに、歓声をあげた。
さらに、ゴンゾーの手下数人が、ルーシーに襲いかかるが、皆一撃でたおされる。最後は、ルーシーに睨みつけられただけで縮こまり、降参した。
その後、ルーシーはゴンゾーを始め、その手下を自分の子分にしてしまった。
◇
一部始終を見ていたフェスが感心して
「やっぱりすごいね、ルシファー様。もう、この辺のチンピラをしたがえてる。みんな歓声をあげて応援してたしね」
すると、アランは茶化すように笑って
「違うよ、あれはルシファー様が回し蹴りや飛び蹴りしたきの、パンチラだよ」
「そういえば、倒れた男も、なんだかうれしそうだった………なんだか。魔女
すると先程から呆れて沈黙していたアテーナが口を開く
「とにかく、明日、会いにいきましょう」
アランとフェスは嬉しそうに頷いた。
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