第3話 再会

 翌日

 

 アテーナ、アラン、そしてフェスの三人は、王室の部屋を彩る観葉植物を届けるため、アリアの屋敷を訪れた。神力をほんの少し使い、執事長を籠絡して注文をとりつけたのだ。

 五度目の納品となるこの日。花を積んだ荷車を裏口から屋敷に運び込むと、出迎えに現れたのはルーシーだった。


 アテーナたちは顔を見合わせ、にやりと微笑む。

「やっと出てきた」「出てきたね」

 ルーシーはその言葉に気づくと、顔を真っ青にして引きつった表情を浮かべながら目を伏せた。


「えっと、お花は…」

 アテーナたちは彼女をじっと見定める。

「ええ、あの…なにか」

 ルーシーは視線を逸らし、横を向いて震えていた。


「ねえ、本当にルシファー様なの?」

「言葉遣いがまともだね。いつもは‘皆殺しだ’とか言ってるのに」

「人間界で腑抜けになられたのかしら」

 

 アランが前に出て

「ルシファー様、ですよね」

「なにをおっしゃいます、私はルーシーです」

 しどろもどろに答えるルーシーに、アランが突然スカートをめくりあげる!

 ひらりと、めくり上がるスカートをルーシーは押さえつけ


「何をする! 」

「ほら、太腿に十字のほくろ。やっぱりルシファー様だ」

 ルーシーは、観念したようで怒鳴り声をあげる

「いいかげんにしろ! 」

「だって、いつもいっしょにお風呂入ってたし」

 ルーシーは真っ赤になってワナワナと怒りを抑えている。


「でも、おパンツ白だった」

「うん、いつも真っ赤な紐パンで、大人の女はこれだと、自慢してたのに」

 怒り心頭のルーシーは辺りを見回し、三人を裏手に引っ張り込む。


「ちょっと、こちらへ。」 

 そして声を低め、険しい表情で言った。

「ばか者! 私が、苦労してこの館に入り込んだのが、わからんのか! 訳あって、このように猫を被っているのだ、私がルシファーであることを漏らしてはならぬぞ」

「は……はい」

 いつものルシファー口調にもどったルーシーに、アランとフェスは笑顔で

「やっぱり、ルシファー様だ」

「目立たないように行動して疲れるのだ。気を使え」

 すると、アテーナが怪訝な顔で

「目立たないですか………ちまたでは、泣く子も黙るノックアウト・ルーシーとか、猛犬ルーシーとか、ゴッドルーシー親分とか言われて、知らない者はいないくらいですよ」


 ルーシーは一瞬絶句したあと

「そっ……それは、ほんとうか」


「さすが、ルシファー様、すでに人間界でも二つ名で呼ばれているのですね」

 横からフェスが口をだすと、ルーシーはあごに手をあてて考え込み

「そうだったのか。街のために、友達を集めて自警団を立ち上げているのだが」

 するとアテーナが呆れた表情で


「あんなのと友達になってはいけません」

「だが、いい奴らだぞ」

「ああいった、ならず者は、強い物には弱く、弱い者には強くでるのです」アテーナの小言にルーシーは小さくなっている。そこで少し話題をかえ

「でも、隠密行動なんて、いつものルシファー様らしくありませんね」

「まあ、いろいろ訳アリなのだ」

 すると、アテーナが怪訝な表情をして


「訳アリ? ビーナスさんは、エクセルとかいう王子に、お姫様抱っこされ、一目ぼれして追いかけてきたのだと、言ってましたよ」

 再び、ルーシーは顔を赤く染め上げ

「ビーナスに会ったのか」


「ええ。沖で暇そうにしているので、時々遊びに行ってます。今は私の船『ベリーザ・エテルナ』と一緒にいますよ。ビーナスさん退屈していたので喜んでます」

「あいつ……いらんことを」ぼそりと呟いた後、三人に問いかけた。


「それで、お前ら、なんでここに」

 すると、アテーナは、ほっぺを膨らませ

「何ではないでしょ! いきなり私達の前から消えて、どこをほっつき歩いているかと思えば。男を追いかけて、人間界に来るとは神にあるまじき行為です」

 問い詰められたルーシーは、慌てて言い訳する。


「違う! 西のアルカディアスの脅威にさらされている、ラスタリア王国を守るため、さらにこの世界の邪悪な存在を突き止めるためだ」

 するとアテーナは「ハー」とため息をついたあと、肩を落として


「はいはい、わかりました。私も邪悪な存在を感じていました。気になるので、とりあえずは、それを突き止めましょう。それで、ルシファー様、何かわかったのですか」


「邪悪な存在は、アルカディアスのオーデルの可能性が高いと思うのだが」まだ推測のルーシーに、アテーナは

「オーデルですか………仮にも、オーデルは神ですから、邪悪な存在ではないはず。堕天したのでしょうか」


「わからない、かつてオーデルは、オリンポスを脅かそうとしたが、我らが撃退し、この人間界に逃げ込んだようだ。それが今になって、力をつけるため勢力を広げようとしているのかもしれぬ」

「それで、ルシファー様はラスタリア王国に味方するのですね」

「形上はそうなる」

 アテーナはひとまず納得した様子で頷いた。


「では、いつ帰ってくるのですか」

「うーーむ、どうも、近くオーデルが攻めてくるので、それを撃退したら戻る……つもりだ」 

 歯切れの悪いルーシーは、その後も留まりたい様子だ。

「わかりました。しばらく、私たちも王都に潜伏しておきます」

「好きにしろ」

 話が一段落したところでルーシーがアテーナ達にたずねた。


「ところでお前達はどこに住んでいる」

「十二番街の花屋です。暇があれば来てください」

「わかった。息抜きになる場所がほしかったのだ」

 しばらく滞在できるということで、アランとフェスも喜んでいる。


 そのとき、執事長から声がかかる

「ルーシー、アリアお嬢様がお呼びですよ」

 すると、突然可愛い表情になり、弾ませた声で。

「はーい、今いきまーす! 」


 かの神界最強と謳われる、精霊艦隊提督らしからぬ少女口調になるルーシーを、アテーナ達は呆れた顔で見送るのだった。



 そのころ、王宮では勢力を拡大してきたガイア教が、エクセルを始め王宮に達に対しての陰謀を企てていた。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る