第5話 アテーナの決意

「ルシファー様が消えた! 」


 アランとフェスが泣きそうな顔をしている。

 旗艦のスカーレット・ジャスティスが、ルシファーとともにゲートに消え去り、アテーナをはじめ、精霊艦隊全員が唖然とした。


 ポセイドンが寄ってくると

「アテーナ、いったい何が起こったのだ」

「わかりません。でも、あれは異世界を繋ぐゲート。どこかの異世界に飛ばされたのでしょう」


 アランとフェスも不安そうに

「アテーナ、どうするの。ルシファー様がいないと、精霊艦隊はバラバラになって、神海も以前みたいにめちゃくちゃになるよ」

 すると、アテーナは決意を固めた様子で


「探しに行きましょう。まだあのゲートは残っています。すぐに入れば追いかけられます。消えてしまうと、手がかりが無くなります。それに、確かにルシファー様がいないと、精霊艦隊は機能しない。このオリンポスの神海、引いては神界全体を守れない」


「それよりも、ルシファーが行くと、その世界がめちゃくちゃになるぞ」

 ポセイドンが渋い顔で言うと、アテーナも

「そちらの方も心配なのですよねぇ~」


 すると、アランとフェスが思い起こすように

「そうだよね。以前に罪人が頻発する街があって、そんな罪人をのさばらしている市民が悪い、そんな市民を指導できない行政も悪い、その頂点の王も悪い。ならば全員が罪人だ。皆殺しだ、ガハハハ。と言って火山を噴火させて一国を滅ぼしたこともあったよね」


「まったく、難癖に屁理屈、まるで悪魔です。神として崇められるどころか、恐れられているのですから」


「とにかく早く行かないと見失うよ。ねえ、僕も行っていい? 」

「私も」

 アランとフェスが言うと、他の神々も行きたいと申し出たが、アテーナは


「艦隊の神々が現世に降り立てば大混乱になります。それに、ルシファー様は神海の至る所で怨みを買っているので、ここの守りも必要です。ゲートは今にも閉まりかけていますから、とりあえず、素性を隠しながら私一人で行きます。後で連絡に戻って来ます」 

 他の神々は納得するしかなく、アテーナはルシファーの消えたゲートの残照から一時的にゲートを広げて入っていった。


 その直後、ゲートは完全に消え去った。


◇ 


 ゲートを越えると、アテーナは広大な洋上に現れた。空は快晴で、波は穏やかに揺れている。

 どこまでも広がる碧海の海原を、船は滑るように進み、静かな波音だけが聞こえる。


「ここは……」

 アテーナが海風に髪をなびかせながらつぶやくと、後ろの精霊が

「おそらく、人間界かと」


「人間界……どうして。とにかく、ルシファー様の気配を追って進みましょう」

 アテーナはスカーレットジャスティスの僅かな気配を頼りに海原を進む。



 しばらくして、船底から微かな物音がする。

 アテーナに命じられて船倉に向った精霊の少女が、困惑した表情で甲板に戻ると、ためらいがちに


「アテーナ様………そのー」


「どうしたのです」

 アテーナが問いただすと、少女精霊の後ろからアランとフェスが、ヘラヘラと笑いながら顔をだしてきた。

 アテーナは、怒るよりも呆れた表情を浮かべると、ため息をついて。


「……もう、戻ることもできないし。仕方ありませんね。」


 彼女は苦笑いを浮かべ、二人を連れて行くことにした。


<プロローグ END>

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