第3話 ムコイチ
精霊艦隊は横一線に広がり、一斉に突撃する。
まだ射程外のため、敵からの砲撃は散発的にしか届かない。ルシファーの横に並んで進むアラン・フェスの双子が
「ルシファー様まだですか」
早く撃ちたくて、ウズウズしている。
「まあ焦るな、一撃であの幽霊船全てを消し去るのだ。確実に当たる絶対射程内まで耐えしのげ。各艦、狙う敵船がダブらないよう、示し合わせてロックオンしろ」
「わかりましたーーー」
ルシファーの指示がとび、四十八隻の帆船が白波をたてて突き進すむ。
敵の砲弾が次々と着水し水柱を立てるが、精霊艦隊はその中を、もろともせずに快走を続けている。船と船の間隔は約30mつまり1キロ近くにわたって整列し、爆進する神々の艦隊は圧巻だ。
「なんか、すごいです」
「すごい、すごい!」
左右を見ると横一線で先を争って猛進する帆船に、アランとフェスは大喜びだ。
「そろそろ射程内だ。防御結界を張れ」
ルシファーの指示で精霊たちが一斉に船の前面に防御の結界をはると、敵の砲弾がそれて艦船の間に多数の水柱があがる。しかし、敵前に無防備に身をさらす艦隊は、被弾する船も次第に多くなるが、ルシファーは全く構っていない。
程なくして、防御結界の効かない絶対射程内に入り、そこでやっとルシファーが命令を下だす。
「全艦面舵いっぱい! 左舷側面砲列より射撃準備」
ルシファーの命令で直進していた船が一斉に面舵を切ると、大きな帆を傾けて回頭し、船の側面に並ぶ砲列が一斉に敵に向いた。
こうして水平線に四十八隻の帆船が一直線に並ぶと、アランとフェスが目を輝かせ
「なんだか、城壁みたいだ。それと、ルシファー様うれしそうたね、戦争が大好きなんだ」
すると、ルシファーは見下すような冷めた笑顔で
「何を言う! 神は戦争など愚かなことはしない」続けて、敵に目を据えると
「神が行うのは天に仇なす者への………処刑だ」
冷然と言い放つと立ち上がり、空に一本指を指すと声高らかに厳命する。
「聖なる海を汚す痴れ者に正義の鉄槌を下す! 刮目せよ、神々の斬撃! 」
「武庫川一文字! 撃てェェェーーー! 」
ルシファーの号令とともに、凄まじい轟音が鳴り響き、総数千以上の砲門が一斉に火を吹く!
太陽を直視したような光芒が周囲を包み、一撃だけの一斉砲撃が炸裂した。
アランとフェスのキャラックは、砲撃の振動波に翻弄され大きく揺れ。
「ルシファー提督の一斉射撃はすげーー! 」
船の欄干につかまりながら、アランが興奮している。
数秒あと、放物線を絵描く神々の砲弾は敵艦船の群れに着弾する、刹那!
水平線に弾ける無数の水玉のようなフラッシュアウトの閃光!
連鎖する爆光!
その凄まじい轟音と砲撃の残照の中、敵の艦隊は水平線から姿を消した。
「うわーー、きれい! 」
「皆殺しだね」
アランとフェスがはしゃぎながら声をあげている。
ルシファーは満足そうに髪をくしあげて、ノンアルコールのワインを飲み干した。
◇
しばらくして、一隻だけ残った瀕死の船が近づいてきた。
帆は折れ、船体の大部分が破壊され、なんとか浮いている船に、キャプテンコートを羽織った骸骨のゾンビが立っている。
「われは提督ネルソンだ、一騎討ちを所望する」
叫びながら近づく幽霊船に怪訝な表情を浮かべたアテーナが
「全滅で負けたくせに、虫のいいことを言いますね。ルシファー様、相手にすることはありませんよ。汚らわしい亡霊など。私の主砲で吹き飛ばします」
すると、なぜかルシファーは目を輝かせ
「いや、ゾンビといえども、あの者は勇者の英霊、受けてたとう。しかも、ムコイチに耐えたのだ。敬意を払うに値する」
「また、アニメで見た安っぽい騎士道ですか……こういうの好きなのよねぇ~」
アテーナは呆れた声でつぶやくと、放っておくことにした。
一方ルシファーは、剣の柄を握り意気揚々と。
「皆のもの、手を出すな! 」
そう厳命し、(これを言ってみたかったんだぁー)と心の中でつぶやき、一隻だけ前に出て黒の幽霊船に接舷する。
「私が精霊艦隊提督、ルシファーだ。受けてたとう」
「なに、まだ少女ではないか︙︙そうか、あなたは」
「ネルソン提督、そなたの名は聞いておる。ゾンビとなった貴殿を殺せるのは、神である私しかいない。成仏させてやる」
ルシファーは、相手の船に飛び乗り、鞘から剣を抜いた。
「その剣は……」
「日本刀だ、以前行った異世界にあったものだ。冥土の土産に、我が剣術をしかとみよ」
そう言って正眼に構えると、骸骨の艦長も剣を抜き。
「まいる! 」
二人の剣が火花をちる。
数回の打合いのあとルシファーの刀が相手の剣を払い落とし、倒れた相手の胸に切っ先を突きつけた。倒れて仰向けのゾンビは観念し
「見事だルシファー、いや、我々は今でも女神アルテミスとお呼びしています……これでやっと、眠れそうだ。礼を言う」
自分のことをアルテミスと呼ばれたルシファーは、少し目をふせて苦笑いしたあと
「最後まで一歩もひかぬ勇者よ、心から哀悼を」
止めを刺そうとしたとき、突然船が大きく揺れる
「なんだ、この神聖な一騎討ちに水を指すのは! 」
突如、ルシファーと一隻だけ前に出ているスカーレット・ジャスティスの上空に、巨大な渦を巻く暗雲のスーパーセルが出現した。周囲は夕暮れのように暗くなり、強烈な風雨が荒れ狂い、稲妻が雷鳴とともに閃光を放ち、海上も波立ち渦を巻き始める。
「なんだ! これは、まるで魔法陣のような! 」
船が渦にまきこまれると同時にネルソンは海に投げだされ、ルシファーもなんとか幽霊船にしがみついていた。
「神に仇なす不届き者め。この程度の妖術、目にもの見せてやる! 」
ルシファーが力を発動しようとした寸前、突然の横波に船が大破し海に投げ出された。一瞬焦ったが、次の瞬間、体がふわりと軽くなる。
「なんだ………」
体をやさしく包まれる感触、危機的な状況にも関わらず味わったこのない、得も言われぬ安堵感、暖かさ……ルシファーは思わぬ事態に陥っていた。
「もしかして、これは………」多くの女性が夢見るシチュエーション。
「お姫様抱っこ! 」
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