第11話 脱出
船長室のドアが破壊されて中から大量の水が押し寄せてきた。アユリは柱に捕まってすんでのところでユピトを見つけ捕まえることに成功した。その横でテロリストたちとそして船長が水に巻き込まれて階下へ落ちていくのが見えた。
水が去った後にユピトを見ると猿ぐつわをかまされていた。驚き急いでアユリはそれを解いた。ひどい、としか言えなかった。
なんでユピトは命を狙われて、こんなことをされなければならないのか!
ユピトの腕を見ると左手に手錠がついていた。それはユピトが関節を器用に外して脱出した。
「よし、上手くいったな。ありがとよ」
「まさかほんとに成功するなんてね」
「お前たちのおかげだ。私1人じゃ到底無理だった」
そうしてユピトとアユリは走り出した。
この船から脱出するためだ。爆弾は解除されたとユピトは言っていたが、実は爆弾以外の新たなる問題が発生していた。
水没、という爆弾と変わらないぐらいの危機である。
実は、アユリは水槽の中の水の量を増やすためにバルブを開けに機械室に行ったのだが、肝心のバルブがこれだという確信がなかったのだ。もしかしたらこれはなんのバルブです、というシールなどが貼られていたかもしれなかったが慌てて気づいていなかった。
常々アユリはここぞというときにミスをしていた。今までのミスはミスでも人命に影響を与えないものだったが、今回は違う。
失敗したら1人命を失ってしまう。そう考えると余計にパニックになってしまったのだ。しかも時間にも追われていた。
そうして追い詰められたアユリは全てのバルブを開け放ったのだ。
その話をした時はユピトに殴られるかと身構えたがなぜか大笑いされた。
ホールの前まで来ると廊下とロビーはデッキに逃げる人でごったがえしていた。テロリストたちでももう抑えきれなかったらしい。アユリがバルブを全開にしたせいでホールのショーステージの水が溢れてきたのだろう。
爆弾×氾濫でパニックが加速したのだ。
流れに逆らわずに紛れているとアユリは背中を叩かれた。
いきなりのことで驚きながら振り向くとそこにはネネがいた。Vサインをして笑みを浮かべてい。
すごく久しぶりに会ったような感覚がした。
「ネネ!よかった無事だったんだ!」
「アユリ〜!船長室押し流し作戦うまくいったでしょ〜」
ネネはカイルに事情を聞いてイルカを操ってくれたらしい。そのおかげでネネの全身からは水が垂れて床には足跡を付けている。お互いに無事だったという喜びでハグをした。
ひとしきりハグしたあとでネネはアユリの隣にいるユピトに気がついた。
「あなたがユピトだね!聞いてたとおりの風貌だ〜」
「よろしく、ネネ」
軽く握手を交わすと逃げる人々に置いていかれないように着いていく。
話したいことはたくさんあるがゆっくりはしていられない。耳を済ませると下の方から大量の水が流れている音がする。
デッキに通じるドアは逃げる乗客たちによって破壊されていた。暗い外に出て海を見るとすでに20人ほどが浮いていた。
「もうすぐ30分です!みんな急いで飛び降りてください!」
船員たちが周りに響く声で残っている人たちに呼びかけていた。みんな爆弾が解除されたことをまだ知らないのだ。
飛び降りた乗客や船員たちは船から少しでも離れようと泳ぎにくいドレスやスーツで頑張っていた。
残っている人々も叫び声を上げながら柵を乗り越え海に次々と飛び込んでいった。アユリたち3人も遅れないように飛び降りた。
船のデッキから海までは5メートルは高低差がある。怖いと思いながらも飛び込むと硬い水の感触がした途端心臓が飛び跳ねた。
痺れるくらい冷たい。
今は夏といっても夜はそんなに暑くない。そんな夜に海の中に入ったら氷のような寒さだった。
隣にユピトが飛び降りてきて水飛沫が顔にかかる。それもすごく冷たかった。
「寒っ!寒いぞ!!なんとかしろ!」
「あたしだって寒いし!自分でどーにかしたら?!」
「2人とも早く船から離れなきゃっ。水没しちゃうんでしょ?」
言い合っているとネネに呆れた顔でたしなめられた。慌てて泳ぎ出す。
服がへばりついて重たく苦戦しながら泳ぐ。ネネはドレスのままなのでアユリよりさらに泳ぎにくそうである。ユピトは救命胴衣のおかげで泳ぎやすそうにしていて少しむかっとした。
船からある程度離れたときにはアユリもネネも体力の限界が近くなっていた。何かに掴まれたらそれだけでかなり助かる。
だが周りを見渡しても木の板や丸太などのちょうどよさそうなものは何ひとつ漂っていなかった。
そこで、2人はユピトを丸太の代わりにすることにした。ユピトは救命胴衣を付けているので沈む心配もせずにぼーっと星空を見上げていた。
「あんたの腕借りるから」
「ごめんね〜」
「ん〜」
さすがのユピトも文句は言わず素直に腕を出してくれた。
ユピトの腕は見た目は枝のようなのに意外としっかりしていて驚いた。皮と骨ではなく、筋肉と骨という感じだ。そんななので安心できた。
それに3人で固まっているとほんのちょっぴりだが冷たさもマシになっているような気がする。
ようやく落ち着いて船の方を見ると船はゆっくりと沈み始めていた。ほんと危機一髪だ。
乗客、船員たちはみんな逃げれたのだろうか。テロリストたちも海に飛び込んだのだろうか。さすがにこの状態では捕まらないと思うが・・・・・・。
そこまで思ってアユリは声をあげた。
「カイル!!」
カイルのことをすっかり忘れていた。
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