第10話 船長室
カイルがホールに駆け込むとホールは先ほどの放送によって大混乱を極めていた。
見張のテロリストたちがホールから出ようとする人々を銃で抑えている。しかし、間を縫って何人かは逃げ出していた。
カイルはどさくさに乗じてイルカとシャチのもとへ向かった。
アユリは猛ダッシュで最下層の機関室へ向かう。普段あまり入ったことの無い場所だ。パイプやコードなどが縦横無尽に巡らされている。だが、迷っている暇はない。
「このバルブのはず・・・・・・。」
目当てのバルブをマックスにすると先ほどいた水上層に駆け戻った。
ここからのアユリの役割りは船長室を隠れて見ておくことだ。カイルの元へ助けに行きたいがアユリはイルカとシャチとの相性があまりよくない。まあ嫌われているのだ。
なので船長室の入り口見張りをする。
アユリは見張れる位置についた。するとちょうど船長室のドア前にいるテロリストの一人がユピトに気づいてドアを外に向かって開け、彼女を中に迎え入れた。ぎりぎりのタイミングだ。
あの様子だと即殺されることはないだろう。
アユリは乱れた呼吸を静める。
開いたドアの隙間からは3人ほどのテロリストが立っているのが見えた。銃を持っている。その中には武器庫にいたあのテロリストもいた。うまくいくといいのだが。
⚓︎
「来てやったぞ。爆弾を止めろ」
開口一番、ユピトは目の前にいるテロリストのリーダー・マルーシにそう命令した。巨大水槽を背に偉そうな態度で立っている。
マルーシのことはなんとなく知っていた。話したこともある。薄い頭頂部と細い目、ヘビのような男だ。
マルーシの両隣にいる男たちには見覚えがなかった。後ろで腕を組んで胸を張って立っている。軍隊のようだ。
「お前たち初めてみた。名前はなんていうんだ?」
「こいつと会話をしないように!」
「イエッサー」
狭い部屋にマルーシの声が響いた。両隣の部下は前を向いたまま返事をし、その後ろに隠れるように立っていた船長が目をせわしなくキョロキョロとさせていた。
ユピトは舌打ちした。
「まあ名前はいいか・・・・・・。それより爆弾を解除しろ。私はちゃんと来たぞ」
「良いだろう。
危なかったな。あと5分で爆発するところだった。」
そう言うとマルーシは上着のポケットから平たいリモコンを取り出し、ユピトと船長に見えるようにボタンを押してみせた。
そしてまたポケットに丁寧にしまった。
「さて、これからお前を拘束する。暴れても無駄だからな」
そう告げたとたん部下の2人がユピトを取り押さえた。彼女は抵抗する訳でもなく、大人しく手錠をかけられた。そして口には猿ぐつわをかまされた。
隙をついて逃げるような態度も見せず、口を塞がれても何も叫ばない。
そんなユピトの態度にマルーシ違和感を覚えていた。
〈もっと喚き暴れると思っていたんだが・・・。大人しすぎないか?〉
だがまあ、暴れられるよりはこの方がよっぽどいいだろう。それに何か企てていたとしても1人で何ができるというのだろうか。こちらには銃がある。いざとなったら射殺してしまえばいい。
あとは迎えのヘリコプターが来るのを待つだけである。
「よし撤収だ!」
マルーシは船長にお礼をいうために近寄ろうとして、奇妙な揺れを感じた。
それは船長も同じようで「おかしいですねっ。船はまだ止まっているんですけど」っと顔を真っ青にしている。
急いで部下を呼び止め、原因を探るように指示を出そうとすると部下が声をあげた。
「リーダー!後ろの水槽に」
ここまでだった。
いきなりマルーシは冷たい水に襲われ船長室から放り出された。洪水は勢いが凄まじく、マルーシは階段を落ちていく。部下も船長も急な水の攻撃で咄嗟の対応ができなかったようだ。同じように転がり落ちていた。
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