第9話 万事休す

 船長に腹が立った。

テロリストに屈するなんて。

でも1番許せないのはあのテロリストたち。

船員と乗客を人質に船長を脅している。

そして人を、あたしの家族たちを殺したくせに笑っているなんて。


「許さない」


⚓︎


 怒り心頭なで階段を上がり、ホールに行くふりをして部屋に戻るとユピトがベッドの上でうめき声をあげていて驚いた。


「どうしたの?!大丈夫?さっきまで元気だったじゃん!」


 思わずかけよる。カイルが隣にきて「頭痛がするらしい、きっと船酔いだ」と教えてくれた。そしてカイルは頭痛薬をユピトに飲ませた。


「それで、残念ながら船長は敵だったんだよな?」


 カイルの言葉を受けてアユリはさっきのことを話す。船長は脅されていて、救命ボートはなくなり、船はとまっている。テロリストたちはユピトを捕まえるまでみんなを船に閉じ込めておくつもりだ、と。

内容を聞くカイルの表情は暗い。アユリは嫌な想像をしていた。捕まったらユピトはきっと殺されてしまう。


「あいつら人の命をなんとも思ってないんだよ。もしこのまま1時間、2時間とユピトを見つからなかったら何をし出すか分からないよ」


「つまりこいつを引き渡さない限りみんなこのままってことか」


 2人は苦しげに頭を抑えているユピトを見た。

出会って間もないけれど引き渡す決断ができるほど2人は冷たくない。どうにかして逃がそうということになった。


 カイルがユピトをおぶって、2人は部屋を後にした。


 2人はデッキを目指した。なるべく目立たないように静かに静かに、だけど素早く。

ホールの1個下の階のデッキを目指した。そこが海から1番近いし、たしか浮き輪があったはずだ。


なんとかたどりついたドアを用心深く薄く開くと見張り役が2人いた。手にはやはり大きな銃を携えている。思わず舌打ちをした。


「武器持ちの見張りが2人もいるんだけど」


「やっぱりか、一応逆側も見てみるぞ」


 だが、やはり逆側も同じだ。万事休す、やはり引き渡すしか方法はないのだろうか。

一度トイレに隠れて状況をどうにか出来ないものかと考える。


 2人で顔を見合わせていると船内に設置されているスピーカーがアナウンスの音を出した。


「あーあー。聞こえるか?

わたしはシージャックのリーダー、マルーシ。先ほどこの船に何個か爆弾を仕掛けた。嘘ではなく本当だ。今からきっかり30分後に爆発する。そうなると船にいる奴らは全員お陀仏だ。


しかし、たった1つだけ爆弾を止める方法がある。


ユピト、お前が船長室に来ることだ。カウントダウンはもう始まっている。乗客を助けたければ今すぐ来い!!


みなさんも長い金髪、白いTシャツにジーパンの人物を見かけましたら教えてください」


 ブチンッと放送は勢いよく切れた。

 その途端、カイルの背中からユピトが飛び降りた。目がらんらんと輝いている。どうやら頭痛は治ったようだ。


「どうするの?」


「どうするっつっても行くしかねーだろ」


「でも殺されちゃうかもしれないんだよ?!」


「なんとかして切り抜ける。そのためにお前たちには協力してもらうからな」


 有無を言わせない口調で強制協力させられる。だがアユリは嫌な気持ちがしなかった。テロ集団の思い通りに動くなんてまっぴらごめんだ。ユピトをみすみす殺させるようなことはしないし、船の中にいる人たちも全員助ける!


そんな強い気持ちが伝播したのだろう。


「わかったよ」とカイルが諦めたようにため息をついた。


⚓︎


さて、そうは言ったものの3人には武器もなく時間もない。

しかし、このままのこのこと行ってしまうとユピトは捕まって、そして殺されてしまうだろう。3人は頭をフル回転させた。


〈船長室って武器になりそうなものとかあったっけ〉


よく船長室に呼び出されていたから何かあるばずだっと中を思い出す。真正面に大きなテーブル、その上にある船の模型。左右の壁にはぎっしりと詰まった本棚。ドアのすぐそばの壁には歴代船長の写真たち。そして他の何よりも存在感を放っているのは壁にはめ込まれた水槽・・・・・・。アユリははっと顔をあげた。


「カイル、そういえば船長室のテーブルの後ろにイルカとシャチを見る水槽があるじゃん」


「ああ、あるな。それがどうかしたか?」


「あの水槽ってショーのステージ内のパイプが船長室まで繋がってて、それでイルカたちは移動してるんだよね。」


 だからなんだというカイルとユピトに自分の考えを話し始める。


 アユリの考えはこうだ。


今ホールにいるイルカとシャチに船長室の水槽まで来てもらって内側から水槽を破壊してもらうのだ。そうすると船長室には大量の水が流れ込むので、テロリストを押し流しユピトを助けられる、という計画だ。


なかなかいい案じゃないか、と思ったがカイルは渋い顔をしながら


「そんな上手くいくもんなのか?水槽がイルカたちの体当たりで壊れるなんて。あのガラスはそんなショボく出来てないだろ。それにそれじゃあ爆弾問題は解決しないだろ?」


「私もそう思うぞ」


 ユピトも同意した。がっくりと落ち込んだ。やはりこのまま船と沈む運命なのか。


「だが」


 ユピトは落ち込むアユリの肩に手を回した。そして強気に口端をあげた。


「考え方はいいと思う。ベースはアユリで少しアレンジを加えればいい」


 そう言うとユピトは計画を話した。

猶予はあと15分もない。さっそく行動に移った。




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