第8話 武器庫
足音を殺して階段を降りていると複数の人の声がして3人は階段の影に隠れた。武器庫の前に誰かいる。
アユリは顔を出してその人物を確認すると「あっ!船長だ!!」と声を出した。そのシルエットはたしかに船長だった。背が高くガタイが良く、しかし少し猫背で暗い感じが紛れもなく船長だった。
〈よかった!船長は生きてる!!〉
ユピトが「バカ!静かにしろ」と急いでアユリの口を塞いだ。しかし時すでに遅し。アユリの声はしっかりとフロアに響き渡った。
人影が振り向いた。
「その声はアユリくんか?」
声も間違いなく船長だ。アユリが勢いよく階段から姿を出そうとすると、ユピトに背中をひっぱられた。
「行くな!船長が奴らの仲間じゃないって言い切れるか?」
「船長は船長なの!あたしたちの父親みたいな人なんだよ?そんな人が犯罪集団に手をかしたりしないって!」
アユリは力強く言うとまた廊下に足を踏み出そうとした。するとまた今度も後ろに引っ張られた。
「何よ?!」
振り返ると今度はカイルが引き止めてきたようだった。アユリは体が熱くなった。
「あんたまで・・・船長を信じてないの?」
「信じてるに決まってるだろ。けど一応は用心しておいた方がいい」
カイルは落ち着いていた。隣のユピトはアユリをじっと見ている。彼女の鋭い目で見られると、背筋がさあっと冷たくなった。
今日は想像したことのないことばかりが起きる。今後も何が起きるか分からない。
「船長が本当に大丈夫だったら足で床を2回叩け。それ以外は3回叩いてくれ」
カイルの言葉に頷いてようやく廊下に出た。ゆっくり人影に近づくとやはりそれは船長だった。ほっとして駆け寄った。近くで見ると船長は顔を真っ青にしていた。
「アユリくん大丈夫か?」
「あたしは大丈夫です!よかった船長も無事で」
「船員が何人か殺されてしまった。救命ボートは全部海に落とされてしまって、今はみんなホールに集められているんだよ」
苦しそうな顔をしてなんでこんなことに、と船長は頭を抱えた。アユリは船長に協力するつもりで声を上げた。
「船長たちは武器で対抗するつもりなんですね?」
船員たちは大勢いるからやっつけられる!という気がした。
しかし、船長は青白い表情を歪めた。
「事態はそんなに簡単なことではないんだよ、アユリくん」
アユリはきょとんと目を開いた。
するとちょうど武器庫から大きな足音を立てて人が出てきた。そこで船長の言葉の意味がわかった。
扉から現れたのはあのシージャックのテロ集団だったのだ。てっきり武器庫に今いるのは船員たちだと思っていたアユリは凍りついた。
船長はヤツらの手に落ちていた。
ヤバい、と思った。アユリはユピトと一緒に逃げているところを見られている。冷や汗をかきながら素早く床を3回、足で叩いた。
トン、トン、トン。
小さな音だったが、きっと届いているはず。2人が潜んでいる階段らへんに意識を集中させるとかすかに階段をのぼる音が聞こえてきた。届いたのだ。
一瞬だけ安心できたが、事態は最悪だ。汗は止まらない。
「おや」
テロリストの1人がアユリに気がついた。毛むくじゃらのおじさんだ。分厚いベストを着ていて、腰にナイフや銃を下げている。手には武器庫で手に入れたのか大きな塊を持っていた。怖い。
「こんなところにまだ船員が残ってたのか。ホールに行っててくれないかな?」
どうやらアユリの服装がドレスからただのTシャツに変わっていたから気づかなかったようだ。テロリストは話しを続ける。
「おじさんたちはある人物を探している。そいつを見つけて、始末しなくちゃいけない。それまでの間、船長さんに協力してもらって船は止めているんだ。
けど心配はいらない、ターゲットを捕えたらみんな無事に解放する」
「なんで無関係の人たちを殺しちゃったんですか」
アユリはつい口から出してしまい後悔した。
怒らせてしまったかと思ったがテロリストはあまり気にしていない様子だ。むしろ笑っていた。
「それは本当に申し訳ないことをしたと思っているよ?
だから間違えて殺してしまわないように事態が治るまでみんなにホールで待ってもらってるんだよ」
最後にテロリストはユピトの写真を見せてきた。
「これがおじさんたちが追っている奴だ。綺麗な外見だからって油断して助けたりしないで見つけたらすぐにおじさんたちに教えてね」
どこで撮ったものなのだろうか。真っ黒な壁を背景に白いTシャツ姿をしたユピトはカメラを睨みつけていた。
見てません、っとアユリはその場を去った。吐き気がした。
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