第7話 避難
追手たちは大声をあげながら人混みをかき分けているので、今どれくらいの距離が空いているのかを判断できて非常に助かった。万が一のためエレベーターは使わず、階段を駆け降り3人はアユリの部屋に飛び込んだ。
全力で走った疲れでアユリはその場でひざまずいてしまった。カイルも息をきらしており額に汗を浮かべていた。
女の子は部屋の鍵を閉めると振り返った。
「これでしばらくは安全だな。お前たちには感謝する」
「どういたしましてぇ・・・・・・」
まだ息が苦しくアユリは仰向けに転がると少し気分が落ち着いてきた。
そうしていると口から勝手に言葉が出ていた。
「なんでこんなことに・・・・・・」
女の子は部屋を物色している。血まみれの手で触りまくるものだから、どんどん部屋が赤い手形でいっぱいになっていく。
「それはこの船から逃げ出してから説明する。ここもいずれ見つかるからな」
答えた女の子を見るといつのまにか救命胴衣を見つけて着始めていた。
〈それあたしのなんだけどー!!〉と思いながらも言うのは辞めておいた。アユリもドレスを素早く脱いで動きやすい服に着替える。ドレスではなかなか上手く逃げれないからだ。
いきなりのことでまだ頭は混乱している。いったいなぜこの船にテロが。女の子を狙っているらしいが彼女は一体何者なんだろう。そして代わりに犠牲になったのは誰なのか。
〈楽しいパーティーのはずだったのにどうして〉
ベッドに腰掛けて一度深呼吸した。カイルは考え込んでいるように顎に指を当てて眉を寄せていた。
追手が迫ってきていないか耳を澄ませる。静かだ。きっとこの階には誰もいないのだろう。これからどうすればいいのだろうか。
「あたしアユリっていうんだけど」
アユリは女の子に声をかけた。カイルのことも紹介する。
「あなたの名前は?今日来てた主催者の娘だよね?」
「ユピトだ」
女の子はネネの荷物をほじくり返していた。
「あの人は私の大叔父で、私は連れてこられていたんだ。
アユリたちはここの船員だよな。パーティー会場に入った瞬間分かった」
「えっ!なんで?」
「お前たちは外部の人間とは雰囲気が違うんだ」
〈たしかにあたしも船員かそうじゃないか雰囲気で分かったもんな〉
アユリはしげしげとユピトを観察してみた。腰まであるブロンドの髪、艶やかな顔面には高い鼻とぽっちりした唇がついている。そして折れそうなくらい細い脚・・・人形のようだ。
〈もしかしたらかわいい女の子をコレクションしたい人たちに狙われているのかも?
うーん。でもそうだとしたら殺しはしないか。〉
⚓︎
10分ほどたってもユピトは目ぼしいものを見つけられなかったらしくアユリの隣に勢いよく腰を下ろした。ベッドが嫌な音を立てて軋んだ。
「おい、アユリここはお前の部屋なんだよな?武器は無いのか」
ユピトは苛立って長い髪をかきあげた。せっかく綺麗な顔をしているのにこんな表情、台無しである。
武器になりそうなものは無い。あったとしてもアユリは場所を知らない。こんなことが起きるなんて考えたこともなかったから。それを伝えるとユピトは舌打ちをした。アユリは顔をしかめた。
〈こいつあたしたちが助けてあげたのに態度悪すぎじゃない?〉
だが、よく見るとユピトの顔には苛立ちに隠れて焦りと不安が感じとれた。それはそうだろう。誰だって自分の命が狙われていたら落ち着かず気がたつ、そう考え直してアユリは腹を納めた。
いつの間にか船内の地図を広げていたカイルが顔をあげた。
「1つ下の階に武器庫があるみたいだ。この船にも一応こういう備えがあったんだな」
カイルの発言で武器庫に向かうことになった。
向かう途中アユリは「ていうか、脱出ポットから逃げれば助かるんじゃない?」と思いついたが「奴らは今殺す!殺しておかないといつまでも追ってくるからな。逃げ回るのは嫌いなんだ」と却下されてしまった。
隣でカイルが「なんでこんなことに」と呟いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます