第5話 パーティー③

 お腹がいっぱいになったアユリはなんとなく風に当たりたくなりデッキに出た。


外はすっかり真っ暗で月の光が海面を照らしてきらきらと瞬いていた。風は強いが心地よく、息をすうと馴染みのある海のにおいが体を満たした。中と違ってすごく静かで落ち着ける。


カイルもなぜか着いてきていたので2人して並んでしばらく海を見ていた。


なんだか奇妙な気分だ。いつもは止まることなく嫌なことを言ってくるのに、今日はなんだか大人しいので逆に落ち着かない。格好もかっこよくきめているし。

アユリの目線はそわそわと安定しない。


「お前ってさ」


波風の音に消えそうな声だ。


「好きな奴とかいんの?」


 その瞬間空気がおかしなところに入ってアユリは咽せてしまった。

カイルの横顔は相変わらず冷たく、何を考えているの分からない。


〈この好きな奴っていうのはきっと友達のこととかではなく、雰囲気的に恋愛ってことだよね?!〉


アユリはどぎまぎする胸を抑えた。


〈ちょっと待て、もしかするとこいつあたしのことが好きなの?!〉


「あのさ、あのさ、あたしは別にあんたのことこれっぽっちもどうとも思ってないんだけど、もしかしてカイルってあたしのこと・・・」


もごもごと口から言葉を紡ぎ出すが、好きなの?が口からなかなか出てくれない。

言ってしまったら本当になってしまいそう。そうだと言われたら、困る。


一気に体が火照ってきた。


風が髪をはためかせる。その髪のわずかな隙間からちらりとカイルを見上げた。

 彼は「うげー!」というようなひどい表情でこちらを見ていた。


「えっ!カイルはあたしのこと好きなんじゃないの?!」


「なんでそうなんの?」


「だってだって!」


とアユリは興奮気味に言う。


「前にネックレスをプレゼントしてくれたでしょ?さっきも料理あたしの分残しててくれたし、なんか今日はずっと引っ付いてくるし、優しいじゃん!」


 アユリは指を曲げながら頷く。


〈振り返ってみてもやっぱりあたしのこと好きってことじゃん!確定じゃん!〉


「それは」


カイルは半笑いだ。


「お前の勘違いだ。ネックレスをやったのはたまたまお前の顔が浮かんだから。そして今日もたまたまお前が近くにいたから」


「百歩譲ってそうでもいいけどさ、じゃあさっきのあの言葉はなに?あの消え入りそうな声で言ったあの言葉は??」


 アユリが納得しない!と頬を膨らませると、カイルが一瞬きょとんとした顔をしてニヤッとしながら「ああ、あれは」と口を開いた。


 その時、変な音がした。その音はパイプが破裂する音に似ている。最初は気のせいかと思ったが、ボゴッという音がして続けてなんどもおかしな音がする。無視できない。


「中から聞こえるな」


 2人は顔を見合わせた。

 カイルがホールで何かあったのかとドアノブに手をかけると、いきなり向こう側から凄まじい勢いで人が飛び出してきた。

思わずアユリは尻もちをつき、カイルは息をのんだ。

 その人物は荒々しく息を吐きながら2人に向かって叫んだ。


「私を助けなさい!」





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