第4話 パーティー②

 ホールに入るともうすでに多くの人が集まっていた。ドレスやタキシードを着ているとみんな違う人に見える。

先輩などは年上の男の船員たちに取り囲まれて高笑いをしていた。これがギャップか。


「誰が誰なのか分かんないや」


 雰囲気の違う人たちもいる。それは主催者が招いた客なのだろう。品の良さそうなおばさん、おじさん。


そして特にアユリが気になったのが船長と談笑している高そうなスーツを着たおじさん、の横に控えている美しい女の子だった。


たぶんおじさんが主催者でその娘なのだろう。

しかし、気になるのは娘の顔が全く笑っていないこともだが、服装がパーティーに合っていないということもある。彼女の服装はTシャツにジーンズだった。すごく場違いでこの空間で彼女だけがくっきり浮いている。


「この度はまことにお集まりいただきありがとうございます。

実はこの船が流児受け入れをしだしてちょうど25周年ということで、パーティーを開かせていただきました。もう25年もたったと思うととても感慨深いですね。あの頃は・・・・・・


(省略)


・・・・・・ということで大人になった方もまだ子どもの方も楽しんでください。では乾杯!!」


 おじさんの合図で音楽がなりだし、ステージでイルカたちのショーが始まる。多くの人がステージに寄っていくが、アユリは一目散に料理に駆け寄った。ネネは男の人に踊りに誘われて行ってしまっていた。


 さっそくよだれを垂らしながら悩む。ローストビーフ、エビ、ナポリタン、ハンバーグいろいろあって大変だ。ケーキまで用意されていた。全種類食べれるかどうか。


「豚が牛に進化するんじゃないか」


 カイルがいつの間にか横にいた。ムカーっとしたけれど、今日はせっかくのパーティー優しい気持ちで接してやる。


「他の人と話しなよ。こんな機会滅多にないのに」


「俺は知らない人と仲良くするのが苦手なんだよ」


「ふーん。あたしは得意だけどね」


 カイルは「かわいくねー」と鼻をならした。

内心お前は誰とでも仲良くできてねえだろ、とは思ったが「かわいくなくて結構よ」とだけ言いアユリはその場を離れた。

後ろからカイルが「食べないのか」と言ってきたが無視をした。


 カイルに言った言葉がそのまま自分にきたのだ。そうだこんな機会はもう無いかもしれないのだ。いろんな人と話して友達になってあわよくば陸に連れて行ってほしい。


 ホールをぐるっと見渡して、ちょうど会話がひと段落したようなグループを見つけた。


「こんばんは!」アユリはとびきりの笑顔で声をかけた。



「あらこんばんは〜」


 おじさんやおばさんたちは朗らかにアユリを輪に率いれた。マダムなおばさんにムッシュなおじさんたちはアユリをかわいいかわいいとひたすら褒めちぎった。ちょうど彼らの孫世代なのだろう。まんざらでもなくアユリは良い気分だ。

 しかし、


「うんたら帝国とほにゃらり国について君はどう思う」


という話題が始まってしまった。


「はい?」

「ほれ最近争いが激しいでしょう」


 いきなりでアユリには何の話か全く分からなかった。まあいきなりでなくても分からないのだが。おばさんたちはうんうんと頷いている。


「デルネール帝国の皇帝は自分のことしか考えてませんからねぇ」

「わたくしの住んでる場所も危なくなってきてて、別荘に避難よ!避難!!」


 話題は勝手にどんどん白熱しだし、先ほどの和やかな雰囲気はなんだか殺伐とした空気を纏い出していた。


 気がつくとアユリは静かにその場を離れていた。帝国とか争いとか、遠い世界の恐ろしい話を耳に入れてなんだか疲れてしまったのだ。

 しょんぼりと元いた場所に戻る。さっきの場所には変わらずカイルがいて、ケーキをちみちみ口に運んでいた。


「仲良くするのが得意じゃなかったのか」

「うーん、えへへ」

「笑って誤魔化すなよ」


 と言いながらも、カイルは料理で大盛りの皿を差し出してきた。


「ん、どうせ戻ってくると思ってたんだ」

「えっ」


 戸惑いながらも皿を受け取ってテーブルをちらりと見ると、思っていたより長いことあのグループにいたようで、ほとんど料理が残っていなかった。


〈なるほど。〉


アユリは1人で勝手に納得した。


〈つまり、カイルはそれを見越してあたしの分を取っててくれたんだ。ふーん、そうなんだ。ふーん。〉


アユリはやはりカイルは不思議な奴だ。嫌いになりきれない、とカップケーキを頬張った。


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