第三章①


 1


 夜が明けて、また新しい日が始まる。エマティノスの塔で一夜を過ごしたタスクたちは、久しぶりに寝台でぐっすりと眠ったこともあって、すっかり体は癒えていた。

「おはよう」

 タスクは、先に起きて、すでに身支度を整えているらしかったリーレンの背に向かって挨拶をした。

「おう、よく寝てたな」

 大の字になって、爆睡していたぞ、とリーレンは笑った。タスクは赤面する。

「フィルトは、どこへ」

「アイツなら、クソでもしてると思うぞ」

 リーレンがニヤニヤしながら、軽口を叩いた時だった。部屋の扉をノックする音がして、「入るぞー」と、ミュウキのくぐもった声が聞こえてきた。

 扉が開かれて姿を現したのは、相変わらず甲冑に身を包んだミュウキだった。手押しの配膳台を持っている。台の上には、タスクたちの朝食が並んでいる。「クソでもしている」はずのフィルトが、大きなヤカンを両手に持って、ミュウキの背後についていた。

「お前たちの飯を持ってきたぞ、遠慮なく食え」

 ミュウキはそう言って、部屋の中央に鎮座している円卓に、食事を並べていった。オートミールに、野菜のサラダ、根菜やソーセージの入ったトマトのスープ、それに、厚切りのベーコンと目玉焼き。朝から、丹精のつく量だった。

 タスクが寝台から立ち上がり、配膳を手伝おうとすると、ヴェルチが「僕がやりますので、タスク様は座っていてください」と、いそいそと料理の入った食器を並べていった。

「ありがとう」

 不意に手持ち無沙汰となったタスクは、やむを得ず、最初に席についた。鼻腔をくすぐる馥郁のせいで、タスクの腹が大きく鳴った。

「お前、よっぽど腹減ってんだな!」

 ミュウキの言葉に、一同が湧く。タスクはまた頬を赤らめて、ぽりぽりと鼻の頭をかいた。

 ヴェルチが最後に席について、食事は始まった。腹を空かしていたことを除いても、用意されたものは美味かった。タスクは普段、食事にがっつくような質ではなかったが、食べ進める手が止まらなかった。女は、食事の際は、雑談に華を咲かせることもあるだろうが、男が集まると、食べることのみに集中し、会話は殆どない。かちゃかちゃと食具の触れ合う音が鳴り、各々が汁を啜る音や、咀嚼音が聞こえてくるだけだ。

 そんな中、ただ一人、食事には手をつけていないミュウキが会話を切り出した。

「なあ、食いながらでいいから聞いてくれよ」

 一同は、もごもごと口を動かしてはいるが、一斉に視線をミュウキの方へやった。

「もうお前らも知っているとは思うが、俺はエマティノスのネイヨムとしてここで働いている。ネイヨムの業務は多岐に渡るが、昨日、俺はイロク様から直々に、ある命を受けた」

 ミュウキは、ここで一息おいて、一同の顔を見渡した。食べ物を飲み込んだのか、雰囲気に臆されたのかは定かではないが、ヴェルチがごくりと喉を鳴らした。

「ネイヨムとして、お前たちの旅に同行せよ、とのことだ」

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