第二章⑥
「貴様共、そこで何をしている。何奴だ」
その声の主は、先ほど四人がこの部屋に入ってくるためにくぐった入口に立っていた。四人の中では一番年長のフィルトよりも、少し年上だろうか。衛兵は装甲に身を固めている。顔の周りを兜で覆い、胴を鎧で守っている。それだけでは行き届かない部分には脛当てや籠手で身を守っているようだ。
タスクが言葉を探していると、衛兵は瞬時に距離を詰め、手に持っていた槍の矛先を、タスクの胸元に突きつけてきた。
「何しやがんだ!」と、フィルトが衛兵に詰め寄ろうとしたが、「動くとこいつの心臓を貫くぞ」と凄まれ、その場に留まざるを得なかった。
「その格好、お前たち、焼暴士だな」
衛兵は、鋭い眼光をタスクに向けた。「ここはお前たちが立ち入ってはならぬ場所。何をしていた」
返答次第では、命の保証はないと、衛兵は続けた。
「し、知らなかったんです。俺たち、初めてここに来たので……」
やや上ずった声で、タスクは答えた。衛兵の持っている矛の先が、わずかにタスクの皮膚を抉る。ちくりと鋭利な痛みが胸元にはしった。
「よくもまあ、そんな戯言を」
「うるせえ! 嘘じゃねえ!」
フィルトが口を挟む。衛兵は、フィルトに冷たい視線を投げると、ふんと鼻で笑ってみせた。
「初めてここに来たとしても、この塔のことはあらかじめ聞いているはずだが」
「聞いてねえから、分からねえって言ってんだろ!」
フィルトは冷静さを欠いて、感情のままに声を荒げた。衛兵は目を丸くする。矛をタスクの体から離し、自らの体の脇に構えてみせた。
「嘘を言っているわけではなさそうだな」
タスクが、血の滲む胸元を抑えながら頷く。衛兵はそれを見て、言葉を続けた。
「本来ならば、お前たちがここに立ち入る前に、この塔の役割を知っていなければならない。それが成せていないとなれば、答えはひとつだ。お前たち、バリウの生き残りだな?」
今度は、タスクたちが目を丸くする番だった。否定も肯定もせずに言葉を失った彼らを見て、衛兵は話を続けた。
「運が良かったな、お前たち。俺の名はミュウキ。何も知らないお前たちのために、俺が、色々と教えてやるよ」
ミュウキと名乗った衛兵は、さっきとは打って変わって、態度が豹変していた。白い歯をみせて、笑っている。犬歯が尖っているのがみてとれた。
ミュウキはついて来いと言って、踵を返し、歩き始めた。タスクたち四人は無言のまま顔を見合わせて、目配せをする。突然掌を返したように愛想が良くなったこの衛兵を、信用してもいいのだろうかと、四人の誰もが思っていた。何せ、タスクたちの旅は出鼻を挫かれてばかりなのだ。
「ん? どうしたんだ?」
誰もついてこないことに気づいたミュウキが、振り返り、怪訝そうな声を出す。タスクたちはたじろいだが、ミュウキについていく以外の選択肢は思いつかなかったので、大人しく彼の後を追うことにした。
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