第一章⑰

「それと、ランロイのリーレン」

「ランロイ……」

 言葉の意味を確かめるように、ニュートは反芻した。そしてその視線が、改めてリーレンに向けられる。

「初めまして! ぼくはランロイのリーレンと申します! 縁あって、この度タスクくんとフィルトくんの専属ランロイを務めることとなりました!」

 タスクは苦笑した。リーレンの本性に気づかない者たちは、みんなこの爽やかな笑顔に騙されるのだろう。おまけにリーレンの金色の短髪と、綺麗な水色の瞳が、彼の表向きの清爽の気を、より際立たせているのだ。

「お、おう、よろしく、な」

 にこにこと教科書のような笑みを貼りつけているリーレンから目を逸らして、ニュートはタスクに向き直った。

「ランロイが付いたということは、タスクとフィルトも、いよいよってことか」

「師匠に言われて、ヒムにやってきました」

 師匠という単語を口にした瞬間、タスクの心は、ずしりと錘が乗っかったような感覚におそわれた。ニュートは、タスクの表情に翳りがよぎったことを見逃さなかった。

「聞いたぜ、バリウのこと」

 同郷の者として、どうしても言葉が重くなる。だが、話題をそらすわけにもいかなかった。みるみるうちに、タスクの瞳には涙が溢れてきた。

「みんな、いなくなっちゃった……家も訓練場も師匠も、何もかも、燃え尽きてなくなっちゃったんだ……」

 タスクは言いながら、こぼれ落ちる涙を必死で拭った。さっきまで笑顔を見せることができていたのに、今はまるで正反対の感情が、心に渦巻いている。ちょっとしたきっかけで、封じ込めようとしていた悲しみが決壊してしまう。前に進まねばならないのに、すぐに立ち止まってしまうのだ。

 ニュートは言葉に詰まった。タスクの言葉は、彼にとっても同義だったからだ。実感が湧かない。自分の知らないところで、帰る故郷が消滅してしまったという現実に、だ。

「各地に散らばってる、バリウ出身の焼暴士の奴らには、いずれ伝わる話だろうが、それにしても、こんなにもあっけないもんなんだな」

 絞り出したニュートの声は、低く落ち込んでいた。心情が声色に表れるというのが正しいのなら、今ほどそれにたがわぬことはない。

 たった一人のラヨルに、焼暴士の村は一夜にして滅ぼされた。きっとそれは、どの歴史書にも残らぬ、大きな事件であろう。

「生きててよかった。タスクとフィルトだけでも、な」

 ニュートはタスクを引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。無骨なニュートの手のひらが、タスクの背中を撫でる。その心地よさに身を委ねていると、ニュートの肩越しに、リヒツが鋭い眼光でタスクを睨みつけているのが見えて、身のすくむ思いに囚われた。

「感傷に浸っているところ、大変申し訳ないが、私は君の足にまとわりついている小僧の素性を、明らかにせねばならん。さもなくば、君たちをこの先に通すわけにはいかぬ」

 

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