第一章⑬

「服を変えただけなのに、そんなに嬉しいのか?」

 小屋を出て、キオへの町なかを四人で歩いていると、ヴェルチが時折、着ている貫頭衣の裾や袖を引っ張って観察している様子がみられた。その表情はやけに嬉しそうにはにかんでいる。リーレンは見ろよと、タスクの肩を小突いた。

「不思議なことに、格好が違うだけで、ラ……これまでの境遇から解き離れたように感じます」

 四人は、朝の賑やかな露店街を再び歩いている。買い物に勤しむ人々が、布の擦れ合う距離にいる今、ヴェルチが「自分はラヨルだ」などと言って、それを周囲に聞かれてしまえば、途端に大騒ぎになるだろう。ヴェルチは年端もいかない子供だが、思慮深い性格であることがわかる。

「僕は幼い頃から、その……訓練を強いられてきました。生まれた境遇には逆らえず、自分の意志など、主張することは許されませんでした。僕と同じ……えっと、訓練生は、自らの使命を疑問に思うことなく、生きていました。でも、僕は、自分の思いを殺して生きることなど、出来なかった」

 ヴェルチは、とことこと足音をたてて、タスクたちに着いてくる。足の長さが他の三人とは違うので、自然と早足になっていた。

「僕はずっと機会をうかがっていました。自分の境遇を変えるきっかけを。僕は今、その時がきたと思っています」

 人通りをかき分け、町のはずれに四人は到着した。途中、リーレンはいくつかの露店に立ち寄り、色々と買い物をしていた。ヴェルチがどうしても髪を切りたいと頑なに言ったので、理髪店に彼の身柄を預けたあと、ヴェルチの半身ほどの大きさの背嚢を買い、その中に旅に使えそうな代物を買い揃え、詰め込んでいった。しばらくして、丸刈り姿となって戻ってきたヴェルチに、「ヴェルチ、おまえは荷物持ちだ」と、ぱんぱんに膨れ上がった背嚢を背負わせると、幼い少年は、役割が持てたことを喜んだようだった。

「タスク、クリュウさんに貰った食糧も、ここに入れておくんだ」

 背嚢は、しっかりと背負うことができるように、胸の前で留めておけるような装置がついていた。リーレンはそれを、ヴェルチの胸に当てがいながら、タスクに指示を出した。


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