第16話 会社設立のいきさつ

 それでは田所西馬社長は会社名を何故「西沖電気」に改名したのか?


 西馬は1907年に千葉県○○郡○○○町の、人口9000人にも満たない町の町長の長男として誕生した。成績優秀だった西馬はT大学在学中に数々の発明を残した。


 一方太平洋戦争中に軍事技術の研究会で海軍技術将校だった沖田とは高校が一緒だった事もあり親友であった。だが、残念な事に沖田は戦死してしまった。


 二人の夢は二人で家電製品会社を設立する事だった。

 

 いつまでも親友の死を受け止めきれず、めそめそしていても始まらない。こうして西馬は「田所電気」を立ち上げた。


 だが、27歳の結婚を機に会社名を改名した。


 会社名は現在の「西沖電気」になった。その理由は妻の鶴の一声だった。


「この会社は、兄の意思も継いでいるのよ。だからあなたと兄の一字を取った名前にしましょうよ!」


 こうして西馬の名前の西と妻ユキの兄の姓沖田の沖で「西沖電気」となった。


 元来西馬は妻にはハイカラな西洋の女優さんのように、スタイル抜群の颯爽とした美人をと願っていた。それに引き換え妻ユキは決してスタイルの良くない、贔屓目に見ても決して美人とはいえない。

 

 それでは、何故自分の理想とかけ離れた女性と結婚してしまったのか?


 それは、こういう事だ。

「仕事を取るか?女を取るか?」


 西馬は迷わず仕事を取っただけの事。


 実は西馬がユキと結婚した理由は、親友清で妻ユキの兄の発明品の数々をどんな事をしても欲しかったからなのだ。


 清の発明品をヒントに電化製品の発明品を考えていたからだ。


 全くタイプでもなかった清の妹ユキだったが、会社を成長させる為には清の発明のヒントがどうしても重要だと思った西馬はユキに頼んだ。


「ユキちゃん会社の経営に携わって貰えるかい?」


「何よ。藪から棒に?」


「君と一緒に戦死した清の発明品の資料を我が社に持参して貰えると有難いんだけど……」


「それって事は、兄の資料が重要って事ね!」


「イヤ…ユキちゃんも来て貰えると有難いよ」


「良いけど……でも一つお願いが有るの。私と夫婦になって欲しいの。それだったら西馬の知らない兄の発明品の数々の資料全部持って来るわ」


 ユキも必死だ。高校時代からずっとハンサムな西馬に惹かれていたユキは、どんな事をしても西馬と一緒になりたかった。


 一方の西馬はユキは全くタイプではない。さして美人でもないユキに不満だったが、発明の為には悠長な事は言っていられない。


 本心を言えば、妹くらいにしか思っていなくて(結婚なんてとんでもない!)そう思ったが、断ったら発明資料を受け取る事が出来ないので仕方なく結婚する事にした。


 一体結婚をなんだと思っているのか?結婚軽視もいいとこだ。


 イヤイヤ…決して結婚を軽んじていた訳ではない。何より仕事が大事だという事だ。

 

 西馬と清二人は高校時代は発明で意気投合してしょっちゅう一緒だったが、その時に妹ユキもいつも一緒だった。 そんな事情もあり西馬は器量の悪いのには目をつむり結婚した。



 ☆★

 高校時代の西馬は発明オタクで高校の同級生沖田清とエジソンに傾倒してしまい、エジソンのような発明家になりたくて時間が空くと、がらくたを拾って来ては、二人でがらくたを使って海外の電化製品の真似事をして、両親から煙たがられていた。


 それでも、千葉県の片田舎の町長だった祖父だけはこんなオタク気質の変わり者、西馬の類い稀な能力にいち早く気付き能力を認め、何かの足しになるようにと小遣いをくれていた。


 こんな変わり者西馬だったが、祖父だけはどんな時も西馬を信じて味方にのなってくれたので、それが功を奏したのか、やがて日本が誇る家電王となって行った。



 ☆★


 1920年代は日本では、冷蔵庫も洗濯機も掃除機も夢物語でしかなかった時代。海外では、現実に製品化され販売されていた。


 西馬と清は読書好きで海外の電化製品事情もいち早く知っていた。


 1920年代にはアメリカでは、皿洗い機、冷蔵庫、洗濯機、アイロン等々あらゆる製品が産み出されていた。


 朝早くから家族の為に働いてくれる祖父母と両親が、仕事がもっと短縮出来ないものか?いつも考えていた。


 海外では、移動する時のマイカーがあるのに対して、日本では馬車や牛者だ。更に洗濯板で手洗いなので洗濯に異常に時間がかかる。こんな家族を見るにつけ、海外では車があり何処にでも行けて、洗濯機というものがあり自動で洗濯してくれるものが有るというのにと、いつも疑問に感じていた西馬と清は一層発明にのめり込んで行った。


 そして、あの頃アメリカでは色んな家電製品が販売されており、日本でも何としても製品化しなくてはと夢を膨らませていた。



「これからは電化製品の時代がやって来る!発明しようではないか?」


「将来実用的な発明品を世に送り出す会社を二人で作ろう」と時間が空くと二人で話し合っていた。



 こうして、西馬と清が予想した通り時代は電化製品一色の時代が訪れ、西馬は愛する女を外に囲い。ユキは地獄の日々を過ごす事となる。


 やがて女の幸せもないまま、ユキは東京大空襲で命を落としてしまった。


 ☆★


 田所社長とお手伝いの茉莉子は15歳の年齢差があるのだが、社長は仕事仕事で殆ど家に帰って来ない。

 1950年代に入ると受注は有ったには有ったが、家電製品はまだ高額で庶民には手が届きにくい憧れの商品だった。


 それでも富裕層からの注文が徐々に増えて行き、益々会社に缶詰状態の社長西馬。


 茉莉子は思春期の息子のあの異常行動に不安を隠せない。それなのに更に困った事態が起こった。


 それは時々感じる夜中に茉莉子の部屋の前で足音が止まるという事態だ。どこからか覗かれている気配を感じるのだ。


 そんな時久しぶりに社長が帰って来た。


「社長お風呂にしますか?食事にしますか?」


「嗚呼…じゃあ食事にする。軽くて良いから……」

 茉莉子は今日は天ぷらだったので、材料が残っていたので簡単に天丼にした。


 早速天丼に味噌汁とお新香を出した。


(そうだ。忠司君の事を話さないといけない!)


 社長が食事が終わったのを見計らって話し出した。こんな状態を放っては置けないだろう。


「社長…少し…お話しが有るのですが……」


「今日は疲れている。明日にしてくれないかい?」


「あの……忠司君の話しなのですが」


「じゃあ話しなさい」


「私の下着が無くなるので不思議に思っておりましたところ……私は見てしまったのです。あの…言いにくい話しですが、私のパンティを嗅ぎながら、あの…言いにくい話しですが…マスターべ―ションを、あの……私チョッと怖くて」


「それは息子が正常に成長している証、心配する事はない!」


 するとその夜もやはりいつものように、夜中に茉莉子の部屋の前で足音が止まった。


 ☆★

 いよいよ日本は高度成長期に突入。驚異の躍進劇が始まる。


 1950年代から暮らしは大きく変わって行った。戦争後、ようやく立ち直り始めた時代。戦争で焼かれてしまった町中にも建物が立ち並び、テレビの放送が始まったり日本で最初スーパーマーケットができたりと、目まぐるしい発展を遂げて行った。


 家の中の暮らしも電気のおかげで大きく変わり始めた。1953年には冷蔵庫、洗濯機、トースターなどが次々に発売され、「電化元年」といわれるほど、家の中の道具が電気を利用した物一色になった。


 だが、この時代はまだ高額で庶民には手が届かなかった。


 やがて庶民にも手が届く時代が訪れた。 1960~80年代の日本製家電のカタログを集めた本があった。当時、オーディオ、ラジカセ、BCL、アマチュア無線等に熱中した人ならば、「あー、これ覚えてる!」と感涙にむせぶに違いない。


 こうして多種多様な製品のカタログを一度に眺めていると、当時が日本の家電産業の黄金期だったことが改めて実感される。


 アイデアがほとばしっていて、百花繚乱状態なのだ。海外の若い消費者が憧れた商品も多々あった。日本家電が輝いていた時代がまさしく1960~80年代にあった。



 だが、田所邸では次から次に不審な事件が起こる。徐々に田所邸の隠された秘密が暴き出される事になる


 実は…この豪邸には人に言えない秘密があった。


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