第12話 フィリピン経済


 

  高度成長期真っ只中の1950年代中盤にフィリピンミンダナオ島からやむなく密航で貨物船にこっそり紛れ込み渡った青年がいる。 といっても、まだ20歳なのだが、密航の理由は国籍がないためそれを取得するためだ。


 1950年代後半当時にフィリピンバンドが日本に出稼ぎに来ていた時代があった。その多くは、ディスコやクラブでの演奏が主体であり、その流れからフィリピン人の入国は興行査証が多くを占めていた。


 二人の目的は息子オリバ―の国籍復活だったが、母ソフィアは元々フィリピンで人気のステージ歌手だったのでディスコやクラブでのショ―のための興行ビザで入国出来た。当然一番の目的は日本の外貨獲得と夫探しの為に遥々フィリピンからやって来たのだが。


 一方の息子オリバ―の方は、無国籍者の半端者かも知れないが、日本とフィリピンのハ―フで超イケメンだ。


 フィリピン人はスペインやアメリカの植民地支配が長かった為、様々な血が混在してい るので美男美女が多い国とされている。 それこそがフィリピンに美男美女が多い理由となっているのである。


 ★☆

 オリバ―はダンスが得意な上トランペット奏者でもある。 美しい容姿と数多くの才能を惜し気もなく披露するオリバーは正しく壇上のスター。たちまち人気者となって行った。


 そんな時に、ある男狂人と言っても過言ではない男に、見いられ付きまとわれ逃げて来た謎の美しい中年の女性がオリバーに話し掛けて来た。


「私はとんでもない男に付け狙われスト―カ―被害に遭っているの。助けてくれたならあなたが一番望む物を直ぐにでも差し上げる事が出来てよ!」


(この女性は一体何者?だが、この気品に満ち溢れた風貌から相当地位名誉の備わった政治家?大企業社長夫人?それか……自ら会社を立ち上げている女実業家?どうしたら良い物か?)


「僕はあなたのボディーガードにはなれませんが、あなたを守りたい気持ちだけは誰にも負けません」


「嗚呼……その気持ちだけで十分よ」



 それからというものオリバーのステージが終わると取り巻きを連れての豪勢な宴が度々行われた。


 あの謎の美しい中年女性は、きちがいじみた男に付け狙われ見いられ心底疲れ果てていたが、ある時オリバーと中年女性がたまたま二人切りだった時に、その二人の時間を見計らったようにその男が我々の前に現れ言った。


「君……その女に近付くと危険だ。その内に私が言った事が理解出来る」


「何を…何を言うの!あなたこそ危険な男。私に近付かないで!」


 一体二人の誰が正しい忠告をしてくれたのだろうか?全く分からない。


★☆

 フィリピン人音楽家の多くは得意とする音楽や踊りを披露するため、1960年代から興行ビザを取得して来日するエンターテイナーが多くなった。また国としても海外雇用を有望な産業と位置づけ、海外雇用管理局(POEA)のような機関を設けてこれを推進していた。


 このため、日本国内においてもフィリピン人は在留する外国人の1割強にあたり、中国、韓国、ベトナムに次いで多くなっている。


  興行ビザとは? 演劇や演芸、演奏、スポーツといった興行にかかわる活動、あるいはその他のさまざまな芸能活動をおこなうためのビザを興行ビザという。 この興行ビザは就労ビザのひとつで、特に外国人のモデルや歌手、俳優、ダンサー、音楽家、格闘家、タレント、プロスポーツ選手などがコンサートやTV出演、舞台出演などを目的に取得することから、エンターテイメントビザあるいは芸能人ビザ、タレントビザ、芸能ビザなどとも呼ばれることがある。


 そうなのだ。父の住む豊かな国日本に渡り舞台に立ち、兄弟たちに仕送り目的で日本に渡ったのだが、とんでもない壁にぶち当たってしまった。


 だが、その前に無国籍の現状を打破しなくてはいけない。 日本に行くまでは良い事しか考えられなかったのに、最初でこんなにつまづいてしまい途方に暮れるオリバー。



 あの頃は夢を抱いて日本に渡ったのに……。

「こんな貧乏なミンダナオ島では生活出来ない。豊かなお父さんの故郷日本に渡って戸籍復活させましょう」


「お母さんこれでやっと僕の無国籍問題解決出来るね!」


「本当にそうね。今のままでは、まともに生活出来ないものね」

 


 ★☆


 フィリピンで貧困が生まれる原因には、次のようなものがある。急激な経済成長と産業の追い遅れ、地域格差、教育の格差、 自然災害。


 このような理由により、貧富の差が著しい国家である。フィリピンは極一部の富裕層と 在外フィリピン人労働者(OFW)からの送金の影響で近年発展著しい躍進を遂げている。だが、それは極一部の富裕層が底上げしているに過ぎず、貧困の状況は今も昔も余り差はない。


 ★☆

 親が貧困だと子どもも貧困が引き継がれ、這い上がるチャンスがない。


 フィリピンミンダナオ島の田舎の人たちは 「働く場所がない」「働けても賃金が低い」「買える食べ物に限界がある」「栄養のあるものが十分に買えない」「栄養失調になる子どもが多い」そして、子どもが貧困のまま成長すると犯罪を犯すしかない。


 厳しい現実の一方で、フィリピンが発展した理由。 大きな原動力となっているのは、世界各地の出稼ぎ労働者からの送金である。フィリピンは、英語が公用語ということもあり、豊富な労働力を世界中に輸出しており、出稼ぎ労働者からの送金が国内の旺盛な消費に繋がっている。



 ★☆  

 ここに一組の親子がいる。そうなのだ。父の住む豊かな国日本に渡り、兄弟たちに仕送り目的で日本に渡ろうと考えている。だが、その前に無国籍の現状を打破しなくてはいけない。


「こんな貧乏なミンダナオ島では生活出来ない。豊かなお父さんの故郷日本に渡って戸籍復活させましょう」


「お母さんこれでやっと僕の無国籍問題解決出来るね!」


「本当にそうね。今のままでは、まともに生活出来ないものね」


 息子が無国籍なので息子だけ密航で貨物船で日本に渡り、母は現地人なのでビザがある。だから旅客船で日本に向かった。こうして日本で落ち合い父の行方を懸命に追った二人。


 ★☆


 現在ミンダナオ島は国内避難を余儀なくされている先住民もいる。 これらのさまざまな要因が重なり、結果としてミンダナオ島には1日2ドル以下で暮らしている人が40%いるとされ、字の読み書きができず、仕事がない人々の割合が他の地域に比べても高く、フィリピンで最も貧しい地域とされている。



 東南アジアのボランティア先で人気があるのはカンボジア、フィリピン、タイ、ベトナム、インド。

 そして、この中で最も貧困な国がフィリピンだ。


 世界銀行が定めた貧困の定義は1日1ドル以下で生活をしている人。フィリピンの場合、国民の2割以上がこの貧困層で、これはカンボジアなど他の東南アジアの国と比べても一番高い数字だ。


 

 ★☆

 フィリピン経済は、1960~1990年代にかけて長期低迷に陥っていたが、近年は好調であり、2012年以降の経済成長率はASEAN主要国のなかでもトップクラスである。需要面で景気拡大を牽引しているのは個人消費であり、それを支えているのが、在外フィリピン人労働者(OFW)からの送金である。


 また、フィリピンのコールセンターは、首都マニラを中心に集積している。コールセンター業務はフィリピン経済の主要産業のひとつで、2021年のGDPに占める割合は約60%だった。


 フィリピンの産業の特徴は、次のような点だ。

サービス業がGDPの約6割を占める。それが、コ―ルセンタ―業だ。そして次に鉱工業がGDPの約3割を占め、農林水産業がGDPの約1割を占めている


 コールセンターは、電話対応を中心とした顧客対応業務や営業活動の支援、業務効率化を目的としている。また業務委託も多い。


 フィリピンにコールセンターが多いのは、次のような理由が挙げられる。フィリピン人の高い英語力、フィリピン政府の支援、 若年層人口の増加。 フィリピンでは、1898年にスペインからアメリカに統治が移行したことにより、1901年から英語が教育言語として利用されるようになった。


 コールセンター業務者インドが今までは一位だったが、近年フィリピンがインドを抜いている。


 それではコールセンター産業がフィリピンで成熟した背景には、何があるのか?


「フィリピン政府の支援」、「テレフォンオペレーターの質」、「高い英語力」が挙げらる。


 コールセンター業務は世界中でBPO(業務の一部を外部委託すること)が行われているが、フィリピンコールセンターが世界一の規模となっている。 その理由としてコストパフォーマンスが良いところや、多言語に対応できるところ、顧客対応力に優れ、穏やかで忍耐強い気質があるところだ。


 それでは各国が、海外にもコールセンターを置く理由 は何なのか?


 それはコールセンターにはさまざまな言語を話す顧客から入電があるからだ。 そのため、母国語以外の言葉を話せるネイティブスピーカー人材の確保は長年課題のひとつとなっていた。 その課題を解決する手段として、海外にコールセンターを設立するという方法が普及した。


 その業務にマッチした国がフィリピンった

 

 フィリピンでは、経済規模が10年強で3倍になるほど著しい経済成長を遂げている。


 その大きな原動力となっているのは、世界各地の出稼ぎ労働者からの送金と、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)と呼ばれる新しい産業だ。 フィリピンは、英語が公用語ということもあり、豊富な労働力を世界中に輸出しており、出稼ぎ労働者からの送金が国内の旺盛な消費に繋がっている。


 一方で、国内の貧困率が上昇し続け、2021年時点で約2614万人の人々が貧しい生活を強いられているなど、貧富の差が大きいことが社会問題となっている。


 フィリピンは所得格差が大きく、所得格差縮小の糸口もつかめない状況である。また、フィリピンは、近隣諸国に比べて、海外からの製造業への直接投資流入が少ないため、雇用創出が不十分で失業率が高く、それが原因で1000万人ものOFW(フィリピン人海外出稼ぎ労働者)が海外で働かざるを得ないという構図になっている。


 フィリピンへの直接投資が少ない理由は、政治が不安定で治安が悪いというネガティブなイメージが日本企業をはじめとする外国投資家の間で定着してしまったためである。

 


 

 


 

 
















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