第10話 修君


 第一次ベビーブームは、1947年(昭和22年)から1949年(昭和24年)に生まれた世代で、太平洋戦争の終結後に結婚や出産が続いたことが原因で出生率が非常に高くなった。


 その為大学受験競争のピークだったのは、67年団塊世代と90年団塊ジュニア世代が受験にトライした年になる。


 非行の世代統計に注目すると,競争が激しかった団塊と団塊ジュニア世代は,非行を多く生み出した世代でもある。それだけ受験戦争とはストレスがつきものだと言う事だ。


 敗戦後暫くは貧しく、子供の僅かな収入も当てにする家庭もあったが、高度成長期に突入して豊かになった日本は、1960年代になると一般の家庭でも経済的な余裕が出来て、子供の労働収入に期待せずに親の世代が食えるようになった。


 そのため子供が優秀なら、親が低収入なら授業料がいらない国公立大学への進学ができる事になった。結果、国公立大学の受験は大激戦になり、それに押されて従来なら国公立大学に入れたエリート層の子弟が私立大学に追い出され、大激戦になった。


 昭和50年頃は同学年の生徒の間で大学に入学できるのは3割程度だった。大卒入社は企業にあって選抜組で、大企業でも、最低、課長職にはなれるような時代。このような事情から昭和40年代から受験戦争は厳しくなった。丁度麗香が中学受験当時は団塊世代の大学受験が受験戦争のピークを迎えていた時期。


 麗香も祖父で大企業「西沖電気」社長に「受験戦争をどんな事をしても勝ち抜け!」と口が酸っぱくなるほど言われていた。


 家で良い子を演じるのに辟易していた麗香は、そのストレスのはけ口を外に向かって吐き出していた。


 こうして百貨店でのウルトラセブンに必要以上に大袈裟な声援を送ったり、レストランでのクリームソ―ダかぶり付き事件に発展していった。


 クリームソ―ダをわざと下品な食べ方で食べ終えた四人は、この時代受験戦争の到来で相当のストレスを抱えていた。


 わざと下品な真似をした理由は、必要以上に勉強勉強と口うるさい教育熱心な親に対して反発出来ないので、気の許せる仲間の前では日頃の鬱憤を思い切り爆発させていた。


 特に麗香のストレスは半端なかった。当然他の三人も口うるさい両親にうんざり。四人は思い切りストレスが発散出来てスッキリした。

 

 こうして和気あいあいと男子は昼食にトンカツ定食、女子はオムライスを食べて今度は小中学生絵画展示会場があったのでぶらぶら絵画を堪能して、近くにあった椅子にもたれ、他愛ない話しを始めた。


 だが、やがて話しは尽きて沈黙が広がったと、その時だ。麗香が、私がもっとも聞きたくない、言って欲しくない事を話し出した。


「私ね!外務大臣の息子修君にコクられたの」


「どんな男子なのよ?」とゆかりが聞いた。


「嗚呼…成績優秀なんだけど…もやしのようにひょろひょろな男の子なの」


「後は麗香次第だと思うわ。どうなのよ。好きなの?」


「ぅううん…まぁとりあえず…付き合おうと思っているの」と言った。


 いつかこんな日が来るとは思っていたが、想像以上に私の心は乱れた。 私はこんな苦しい思いをして、ただただ地団駄踏んで見守って居る事はできない。麗香が他の男子と付き合う位なら、どんな結果になろうと勇気を出してコクろうと思った。


 ★☆


 私と麗香は帰る方向が一緒だったので、またしてもブランコのあるいつもの公園に立ち寄って他愛ない話しを始めた。レストランでの告白に落ち込んでいた私は寂しさと悔しさが混在して、居ても立っても居られなくなってしまった。


 そして…押さえ切れない気持ちを爆発させてしまった。


「麗香…修君て言ったよね。付き合って欲しいとコクって来た男の子。ねぇ…そんな子と付き合うの止めてくれない?」


「そんな事豊に言われる権利無いけど……どうしてそんな事言うのよ?」


「……だって…麗香は…麗香は…そんなにその男の子好きじゃないんだろう?」


「ぅううん…でもね…でもね…とっても気になる存在なのよ」


 私は「気になる存在なのよ」と言った麗香の顔を見てまんざらでもないと思っている事がよ~く分かり、益々気が動転して、どうして良いか分からなくなってしまい、頭の中が混乱してしまった。そこで最後の一手、負けを認める事がどうしても出来なくて、小さな声、聞こえないほどの声で敗れ被れで口走った。


「じゃあ…麗香はさ、僕の事はどう思っているのさ?」小さな声で言って見た。


「えええええっ?今…今…なんて言った?」


「なんでも…なんでも…ないよ」


 すると麗香が、その修君の事をまたしてもまんざらでもなさげな顔で、意外な事を話し始めた。


「こんな事豊にしか言えないけど…あのね…修君がね…私にね…えっと…突然…フフフ…あのね…フフフ…実は…フフフ…私にキス💋したのよ」


 私は頭の中が真っ白になり…麗香とその修君が思った以上に急接近している事に頭が動転して、混乱してパニック状態に陥ってしまった。


 そして…とんでもない行動に出てしまった。

 

 麗香がまんざらでもなさ気なのが分かり、更にもっと言えば自慢気にも取れて、完全に敗北を認めざるを得なくなってしまったのだが、余りの怒り💢と敗北感に思わず、恥ずかし気に後ろを向いて必死に修君との経緯を自慢気に話す麗香が許せなくなってしまい、麗香を後ろからいきなり抱きしめ、唇💋にキスをしてしまった。


「何を…何を…するのよ。豊の事は大親友だと思っていたのに…ぅうう。。゚(゚´Д`゚)゚。わぁ~~~ん😭わぁ~~~ん😭わぁ~~~ん😭大キライ」


 そう言うと猛スピ―ドで駆け出して行ってしまった。

(嗚呼…僕は…僕は…なんて事してしまったのだ‼️どうしたら…どうしたらいいんだ?)


 毎年恒例の夏休みには必ず四人で会っていたのに中学三年生の夏休みは、とうとう四人の再会は叶わなかった。

 

 本当にバカな事をしてしまった。麗香は修君と交際が続いているのだろうか?





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