第6話 東京タワー
大企業のご令嬢という事もあり高級車での送り迎えだった麗香だが、おじいさまが留守の時は運転手を蹴散らし、強引に児童たちと同じ通学班で登下校をしていた麗香。
新たな世界を見つけた麗香は自分の置かれた現実に我慢が出来なくなった。
☆★
麗香とはすっかり打ち解ける事が出来たので、ある日麗香を東京タワーに誘った事があった。
どこの学校でも基本的に校則で禁止されている車での送り迎えだったが、麗香の場合は日本有数の大企業のご令嬢という事で、何かあっては危険という事で、運転手付きの黒塗りの高級車での送り迎えになったのだ。
それでも…たまには集団で登下校する事も有った。そんな時誠に有り難い事に、家の方向が一緒で同級生という事もあり、途中から私と麗香が二人きりになる時があった。
そんな時に途中の公園のブランコに二人で揺られながらほんの少しだが、話をしたものだ。
「麗香ちゃんはおうちで、何してるんだよ?」
「何してるって……習い事よ。ピアノにお習字でしょう。それにお勉強よ」
「おばあさんも亡くなっておじいちゃんと二人きりで寂しくない?」
「寂しいわよ。でも…おじいさまがペットの犬🐶や猫🐱を私の為に飼ってくれたので…今は全然寂しくないわ」
「一度友達と東京タワー🗼に遊びに行かないかい?」
「わぁ~い嬉しい😃💕おじいさまに聞いて見るわ」
こうしてある日の日曜日私は大の仲良し賢治を誘い、一方の麗香も転校して初めてお友達になったゆかりを誘って四人で、文京区からバスに揺られ東京タワーに向かった。
港区芝公園にある高さ333mの総合電波塔・東京タワー。近づくにつれ、どんどんと大きくなる姿は圧巻だ。到着したらまずは真下から見上げるのが儀式だ。
「わぁ~高くそびえ立っている。な~んか雲を突き破り天まで届きそう?」
麗香は感激して大喜びしていた。
(こんな天下の「西沖電気」のご令嬢が、高々東京タワーで感激するってどういう事?)
私は麗香を誘って本当に良かったと心からそう思ったが、半面余りの喜びように、本当にご令嬢なのか?疑ってしまったぐらいだ
1966年当時の東京タワーは250mのトップデッキにはまだ登る事が出来なかった。それでも高さ150mのメインデッキから望む東京の街並みを眺めながら大はしゃぎの麗香を見て、誘って本当に良かったとつくづく思ったものだ。
もともと250mのトップデッキは、1958年の開業当時は作業用の資材置き場だったのだが、9年後に特別展望台としてオープンした。
晴天に見舞われ空が澄んでいる日だったので富士山の姿を拝めたので尚更だった。
こうして、そろそろお楽しみのお昼だ。四人は待ってましたとばかりに、1階にある大食堂タワーレストランに直行した。
東京タワー開業と共に、営業を開始してきた、1階にあるレストランだ。
レストランに入るなり、何を食べようか考える四人。それでもあの当時東京タワーに来たら誰でも必ず注文したナポリタン。
そうなのだ。東京タワーで注文するのは、口の周りを真っ赤にして、ほお張った、ナポリタンである。
どういう訳か、あの当時は珍しいナポリタンだったからなのだろうか、皆が注文したメニュー。
東京タワーのナポリタンは多めにマッシュルーム、たまねぎ、ピーマン、それと、珍しく、小えびが入っていた。ドバドバ大爆弾ケチャップ、甘くて、クドい味わい。”芝エビ”は海岸の近くだった頃、この先の芝浦で揚がったエビが、”芝エビ”と称され名産だった。
このベタベタ感。口の周りを赤くすることによって、満足感のボルテージを、否応なしに挙げていく、それが東京ナポリタン!
「わあ~真っ赤かの口お化け。だっこちゃんみたい」
「な~にそれ?」
「ええええぇええええっ?だっこちゃんも知らないの?麗香って日本人?」
「麗香はお嬢様だから…ゆかりとはぜ―んぜん違うっつうの!庶民が!」
「ううん言ったわね💢豊こそ何よ。そのタラコのような唇💋だっこ、だっこ、だっこちゃん!」
「言ってくれたな――💢」
「ハイ!ハイ!おあいこ。おあいこ」
仲裁に入ったのは私の大親友賢治だ。すると麗香が大笑い。
「フフフ ハハハ フフフ」
そうなのだ。1960年当時大ブームとなり爆発的な人気を誇ったが、黒人差別との声が 上がり製造停止となった商品だ。
昭和35年にタカラが、南洋の現地人が木登りする姿をソフトビニールの人形にして売り出したところ、若い女性までが腕に絡めて歩くようになり、『ダッコちゃん』の愛称で爆発的なヒットをみた商品だったが、黒人蔑視の批判を受けて製造停止となった。
※「だっこちゃん」は、1960年(昭和35年)4月に「ウインキー」(価格180 円)という名称の空気入りビニール人形として発売されました。 半年間で約240万個 の爆発的大ヒット商品となり、日本中の誰もが夢中になって腕に付けたり、体に付けて 歩くファッションとして一大ブームの社会現象を巻き起こしました。
こうして何だか分からないが、四人は口の周りを真っ赤にしながら大喜びして食事の時間は終了した。
麗香はいつものお嬢様然とした殻は脱ぎ捨て素の自分に戻り、警戒が解かれたのか、ワンピースの袖のボタンを外して本来の小学生に戻り食事を楽しんだ。
私はどんなに楽しくても麗香の一挙手一投足を見逃さなかった。その時だ。私は見てしまった。ワンピースから覗いた痛々しいナポリタンの真っ赤なトマトケチャップ以上に赤々とした腕の生傷の数々を……。
一体どうしたというのか?
私は余りの事に、驚きおののいて、思わず目を下に向けて、まるで何か計り知れない事態が麗香には隠されているかも知れないと思い、スラリと伸びたカモシカのような足をも熊無くチェックした。
自分では気づいていなかったが、この頃には自分の想像以上に私の中は麗香で支配され尽くしていた。
だから…自然と大切なお友達以上の感情を持つ麗香に、想像も付かない恐ろしい何かが置き初めていると感じたので、麗香の素肌が覗く部分を隅から隅までチェックせずには居られなくなっていたのだ。
そして…その痛々しい生傷は私には到底他人事ではなくなっていた。
そこで早速帰り道心配で心配で聞いて見た。
「麗香ちゃん…僕に隠し事してない?はっきり言ってくれよ!」
「何よ…その言葉。何も無いに決まっているじゃあないの。ちゃっかりテレビも豊君のお陰で見れてるし……」
「麗香ちゃんてば!隠し事はよしてくれない。僕見たんだ。麗香ちゃんのあちこちにある傷。本当の事話してよ?」
「……もう豊君嫌い!人の事に立ち入らないで!もう豊君と一緒に帰らない!ううう。・(つд`。)・。シクシク…わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」
そう言うと泣きながら走って行った。
「待ってくれよ!ゴメン🙇💦💦ゴメン🙏💦💦立ち入り過ぎて……」
私は四年生だというのに、麗香の事を心底心配していた。あんな子供だったが、あんなに人を心配する事など私の人生で一度もなかった。
あれは…子供過ぎて分からなかったが、紛れもない真実の愛だったに違いない。
麗香が、消えてしまってからも恋愛はしたが、あれ程輝きに満ちた時間はなかった。
あの頃のドキドキ感など、あれ以来一度も感じた事などなかった。他の恋愛はただ一時の気休めにしか過ぎなかった。
「どこに消えたんだい?麗香」
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