第十話 皇帝陛下との対面

 ロズバード王太子殿下は怒ってたわよね。まぁ、無理もない。


「まんまと騙された! 一国の王太子を騙すなど、とんでもない話だぞ!」


 テーブルを挟んで対面に座った私をエメラルド色の瞳で睨んで凄んだ。私は恐縮するしかない。私の隣に座っているガーゼルド様が私を抱き寄せて庇う。


「政治も戦争も騙し騙されだ。騙された方が悪い」


「そんな事は分かっておる。分かってはいるが、このような小娘にしてやられたかと思うと悔しくてならんのだ!」


 ロズバード様は腕組みをして天を仰いだ。


「まぁ、ルシベール皇太子殿下は『エベロン大王のルビー』の返還を約束してくれた。それで由としよう。あの御仁はなかなか話が分かる」


 皇太子殿下はロズバード様と会談なさって詳しい事情の説明と、将来的な大王のルビーの返還を約束し、和解したらしい。皇太子殿下は結構人望も交渉力もある方みたいね。


「私も伝説のルビーの話だったので頭に血が上った。考えて見ればもう少し穏当な交渉を試みるべきであった。それは反省している」


 そうね。いきなり相手国に自ら乗り込んでくるなんて、外交交渉としては悪手も良いところだ。それに気が付いて反省出来るところはさすがは大国の王太子よね。


「それにしても、何をどうやってあのような事を考え付いたのだ。単に大王のルビーがスピネルだというだけではあのような状況にはなるまい。ブルクス男爵が『昔はスピネルはルビーに含まれていたのだ!』と主張したらどうするつもりだったのだ?」


 私は首を傾げる。


「殿下は宝石商人を甘く見すぎです。宝石商人が最も大事にするのは顧客です。ブルクス男爵にとってはロズバード王太子殿下とフレッチャー王家ですね。その大事な顧客の顔を潰すような事は絶対にしないという確信がございました」


 フレッチャー王国の国宝であり、王家が長年探し求めていた秘宝である。その価値を下げるような事をすれば、フレッチャー王家の面目は丸つぶれになってしまうだろう。そんな事になればブルクス男爵は最重要顧客を失ってしまう事になる。


「もしもブルクス男爵がルビーの鑑定をした時にあれがスピネルだと気が付いたとしても、絶対に口には出さなかったでしょうね」


 そして私が「エベロン大王のルビー」はレッドスピネルなんですよ、なんて言わずに「このレッドスピネルはエベロン大王のルビーではない」と主張したのもフレッチャー王国の面目を潰さないためだ。


「それが分かっているからロズバード殿下も抗議を取り下げたのではないですか?」


 こちらが配慮しているのに、更に騒ぎ立ててそれを台無しにすれば、今度はフレッチャー王国が帝国の面目を潰す事になる。そうなれば今度はフレッチャー王国が責められる側になるだろう。


 ロズバード様はうーむ、と唸って沈黙した。暫くして、ガーゼルド様に向けて言う。


「いったいこんな人材を何処で見付けてきた?」


「やらんぞ」


「まぁ、女っ気がなかった其方にようやく出来た愛人を奪うような事はせぬが……。うむむむ……」


 いや、愛人ではありません。とは言えない。ガーゼルド様が守護してくれないと、私は王太子殿下とお話が出来る身分ではない。そもそも私は王太子殿下と次期公爵に奪い合われるような人材でも無い。


「私は多少宝石に詳しいだけです。将来的に宝石商人になるために、以前は宝石店で修行していましたので」


 という事になっている。実際、ヴェリア様の侍女を辞したら宝石商人として独立するつもりだから嘘ではない。


「ふむ。宝石全般に詳しいのか? それならちょっとこれを見てくれぬか?」


 ロズバード様がそう言ってポケットから取り出したのは指輪だった。


 多分3カラットくらいの無色のダイヤモンドがセットされたシルバーのリングだ。一見して繊細な作りの女性もの。


「これをどう思う?」


 ? 私は手を伸ばして殿下から指輪を受け取った。石の記憶から分かってはいたけど、窓の明かりに翳して見ても見事な透明度である。


「間違い無く一級品のダイヤモンドですね」


 この大きさだと一万リーダでは買えないかもね。


「そうであろう? 御用商人のブルクス男爵から購入したのだ。万が一偽物であるなどあり得ぬ」


 ふむ。ブルクス男爵はかなり良い仕入れルートを持っていると見えるわね。将来的な独立のためにその仕入れルートを教えてもらえないかしら。滞在中に一度話しをしてみよう。


「しかし、これは私の愛人から返されたものなのだ」


 ああ、なるほど。石の記憶が見える私にはその女性が、長い黒髪の美しい女性であった事が分かる。ロズバード王子は切なげに溜息を吐いた。


「突然な、この指輪を返され別れを告げられた。理由を問うと『その指輪に聞いて下さいませ』と言われた、訳が分からぬ」


 ロズバード様は大きく肩を落としてしまったわね。愛人というからには婚約者でもお妃でもないのだろうけど、よっぽど愛したお方だったのだろう。


「どうだ? 其方には分かるか? 私はあれから暇さえあればこの指輪を見ているのだが、さっぱり分からぬのだ」


 確かに、ポケットから出て来たしね。何かというと女々しく指輪を出して見ていたのだろう。私は指輪を、光を通して燃えるように輝くダイヤモンドを見る。


 ……まぁ、私には分かるけど、私が言うのはそのお方に悪いし、意味もあまりないだろう。そうね。


「ガーゼルド様、分かりますか?」


 私は隣のガーゼルド様に振った。彼は怪訝な顔をしたけど、私から指輪を受け取って太陽に透かした。すぐに口を開く。


「なんだこれは、汚れがあるな」


 ガーゼルド様の言葉にロズバード様は目を丸くする。


「汚れ?」


「ふむ。この、石の裏の所に何か黒い汚れがあって、それで光の抜けがかなり悪くなっている。せっかくの良いカットとクラリティが勿体ない」


 ガーゼルド様から慌てて指輪を受け取ったロズバード様は、指輪を窓に翳してジッと見る。


「ほ、本当だ。ポツっと黒い点のようなものが……」


「それが答えでございますよ。その点はその女性がご自分で付けて、それから殿下にお返しになったのです」


 マニキュアかなんかでちょんと押したのだろうね。ロズバード王子は呆然としていたけど、なんだか随分動揺した表情で私に問う。


「そ、それは分かったが、意味は? 意味がよく分からぬ。これにミレイユはどんな意味を持たせたのだ?」


 そのミレイユ様としては、その勘の鈍い、女心が分からない所も気に入らなかったんじゃないかと思うけどね。


「ロズバード殿下は気が付かなかったけど、ガーゼルド様はすぐに気が付きましたでしょう? ミレイユ様は殿下に、このような些細な違いに気が付くような細やかな気遣いを持って頂きたかったのですよ」


 ロズバード様はぽかんと口を開けてしまった。


「多分ですが、ミレイユ様の髪型の違いやドレスの新調、アクセサリーの組み合わせなどに気が付かなかった事が何度もあったのではないでしょうか? 女性はそういう細かな部分にまで気を遣って、恋人の前に出るものですよ」


 ロズバード様はガバッと頭を抱えてしまった。図星らしい。ガーゼルド様が仰るには、有能で決断力もあり将来の国王に相応しい王太子である反面、仕事を優先してお妃様や愛人を蔑ろにする面があるようだとの事。まぁ、逆より良いんじゃないかと思うけどね。今でさえヴェリア様を溺愛している我が皇太子殿下が、結婚したら仕事放り投げてヴェリア様の所に入り浸るのではないかと大臣達は心配しているらしいのだ。


「まさか、そんな……」


 ロズバード様は呻いて、それから私に勢い込んで尋ねた。


「で、では私がこれからは細やかな気遣いをすると言えば、ミレイユは帰ってくると思うか?」


 私は思わず半眼になってしまう。


「無理だと思いますよ。愛の証の指輪をお返しになるなんて、ミレイユ様は余程腹に据えかねたのだと思いますので」


 これを機会にロズバード様も愛人なんかに入れ込むのは止めて、お妃様を大事にした方が良いと思います。でないと終いにはお妃様にまで逃げられる羽目になりますよ。ミレイユ様のお怒りを見るに付け、絶対にお妃様も怒りを溜めているに決まってますから。


 とは言えなかったけどね。


  ◇◇◇


 ロズバード様も納得した事だし、皇太子殿下とヴェリア様のご成婚に向けて障害は全てなくなった。結婚式までもう一ヶ月もない。私はヴェリア様の宝石担当の侍女として結婚式の準備に大忙しだった。


 ……忙しいのに。


 私は帝宮に呼び出された。この忙しいのに! と叫びたいタイミングだったのだけど、私は紺色のフォーマルなドレスを着て、ヴェリア様がお貸し下さったエメラルドのブローチを始めとした宝飾品をフル装備して帝宮に向かった。


 一人で馬車に乗ってね。なぜならヴェリア様のお供ではなかったからだ。私一人が帝宮に呼び出されたのである。


 帝宮の巨大なエントランスホールに入ると、ガーゼルド様がいた。彼は帝国騎士団の青い制服を着ていた。お仕事中なのかもしれない。


「よく来た。さぁ、こちらへ」


 ガーゼルド様は私の手を取ってエスコートしようとしたが、私は抵抗した。ここは帝宮。そこら中にお貴族様が歩いている。そんなところで次期公爵に男爵令嬢がエスコートされていたら変に思われるだろう。私がそう言うと、ガーゼルド様は吹き出した。


「今更そんな事を言うのか? 皆この間の謁見室での君と私を見たというのに?」


 うぐ……。それはその通りで、あの時ロズバード様が私をガーゼルド様の愛人扱いした所も皆様見ている訳である。


「とっくに皆の認識はそうなっているであろう」


「私の認識とは異なるようですけど」


「ふむ、それならそれで良いのではないか? まだ、な」


 と言いながらガーゼルド様は構わず私の手を引いて歩き出してしまった。私は溜息を吐く。確かに彼にエスコートしてもらった方が心強いのは確かである。


 何しろ私はこれから皇帝陛下にお会いするのだから。


 帝宮本館の建物を真っ直ぐに突き抜けると庭園に出る。そして庭園の中に伸びる長い渡り廊下を渡って別の建物に入った。そして左右に大きな扉のある豪華な装飾の施された廊下を延々と進み、最終的に行き止まりの大扉の前にやってきた。マホガニーに金で蔓草模様の装飾がびっしり施された大扉の前には、槍を持った守衛が二人立っていた。


 が、ガーゼルド様が笑顔で片手を上げただけで、守衛は頭を下げて畏まり、すぐにドアを引いて開けてくれた。扉が開き切るのを待って私とガーゼルド様は中に進み入る。


 厚手の複雑な文様の描かれた絨毯。金糸で装飾された白い壁紙。大きな風景画が幾つも掛かり、時折陶器や青銅の彫像が飾られていた。


 先ほどまでの本館と違って貴族の姿はなく、静かである。


 それも当然。ここは内宮で、皇帝陛下と皇妃陛下のプライベートスペースなのだ。


 ……なんで私、こんな所を歩いているのかしら……。


 実に不思議な気分だったわよね。帝宮の内宮には、ごく限られた貴族しか立ち入る事は出来ない。平民は当たり前だけど絶対に無理で、男爵でさえとんでもないと言われるレベル。高位貴族だって皇帝陛下のお許しがなければ入れないのだ。


 そんな帝国の聖域に、私はノコノコと足を踏み入れたわけである。しかしさすがに皇族の一員だけに、ガーゼルド様は内宮にも慣れているらしく、足取りには迷いがない。


 ちなみに、皇太子殿下のお住まいは帝宮の別の区画で、ヴェリア様はもうすぐそこにお入りになる。同時に私も皇太子宮殿の侍女室に引っ越す予定だ。既に侍女室には私の荷物もほとんど運び込んである。


「……なんで私が呼び出されたのでしょうか……」


 私が呟くと、ガーゼルド様が若干驚いた様な顔をした。


「何故分からぬ? 例の件で大活躍だった君と、どうしても会いたいと皇帝陛下が仰ったからだ」


「活躍なんてしていませんよ。その、段々胃が痛くなってきたんですけど……」


「我慢せよ。両陛下をお待たせしているのだから」


 ……帰りたい。どう考えても元々平民の私にはこんな所は場違いだ。なんだって皇帝陛下は私になんて会いたいと仰せになったのか。会って面白い女ではありませんよ。私は。


 内宮の廊下を進む事しばし。侍女が控える扉の前まで来た。優雅な彫刻が施された扉を侍女が開き、私はガーゼルド様にエスコートされて中へと入っていった。


 大きな窓から燦々と日差しが降り注いでいた。中には観葉植物が沢山置かれ、緑の匂いに満ちている。青緑色を主体としたカラーリングの応接セットが置かれていて、二つの椅子にそれぞれ男女がゆったりと座っていた。


「おお、来たのか。まぁ、座れ」


 顎髭の男性。皇帝陛下カーライル一世は実にフランクにそう仰った。でも、そういう訳にもいかない。私はガーゼルド様の手を離して跪いた。


「かしこみてジェルジュ男爵家の長女レルジェが、帝国の太陽たる皇帝陛下にご挨拶を申し上げます」


 私は事前に用意したご挨拶をしたのだが、陛下も皇妃陛下も笑いながら手を振って言った。


「いいから。そのような堅苦しい態度はなしで良い」


「膝が汚れますよ。早くお座りなさい」


 ……ビックリするほど軽い態度だった。私は迷ったのだが、ガーゼルド様は私を引っ張って、さっさと二人掛けのソファーに座ってしまった。私も仕方なく腰を下ろす。両陛下の格好は完全に普段着の室内着で、皇帝陛下の襟元は緩められ、皇妃陛下もコルセットをしていないようだった。つまり、自宅でくつろいでいるそのままのお姿で、お客を迎えるような態度ではないのだ。


 侍女が素早くお茶とお菓子を持って来た。ガーゼルド様は早速お茶に手を伸ばしていたけども、緊張している私は喉は渇いているけどお茶を飲むことなどは出来ない。しかし、私以外の三人は完全におくつろぎモードだ。


「どうなのだ。ガーゼルド。騎士団は?」


「最近入った新人が弛んでいて苦労していますよ」


「あまりしごき倒すと、親から苦情が来ますからほどほどにね? ルシベールが困っていましたよ。ガーゼルドは厳しすぎると」


 なんて私には全然関係のない親族の世話話が続く。……早く本題に入って欲しいのですけど。カチコチになっている私を見て皇帝陛下がクスリと笑った。


「この間の立ち回りは見事だったぞ。そう緊張しなくても良い。其方のおかげで我が国は助かったのだ。その礼のために呼んだのだ」


「れ、礼など……」


「勿論、単に礼を言うためでは無いがな」


 皇帝陛下はまた笑って、侍従から受け取った小箱を私の前に出した。


「見て見よ。それがなんだか分かったら、其方にそれを今回の褒美としてやる」


 ……私は黙って一礼して、小箱を開いた。


 中には青い宝石が入っていた。ルースの状態で、ラウンドのファセットカット。大きさは直系三センチくらいの大きさである。私は首を傾げる。これは……。


「触れてもよろしいですか?」


「勿論だ。存分に確かめるが良い」


 私は長手袋をしたままの手で青い宝石を手に取った。青い宝石は多くの種類がある。代表格は勿論サファイヤだけど、ダイヤモンドにも青い物があるし、トルマリン、トパーズにも青いものがある。でも、これはいずれでもない。


 ……えーと、皇帝陛下? 私は仕方なく言った。


「これを下さると?」


「そうだ。それがなんだか分かったか?」


 私は仕方なく言った。


「これはガラスでございますね。ダイヤモンドに似せた」


 すると皇帝陛下は興味深げに目を丸くした。


「なぜ分かった?」


「それは……」


 私には分かるとしか言いようが無い。ガラスからは宝石の「記憶」は見えないからだ。だから何もしなくてもこれがガラス玉である事は分かってしまう。


 皇帝陛下は皇妃陛下を顔を見合わせて、ちょっと含みのある笑いを見せていたが、私に顔を向け直すと更にこう促した。


「ふむ。しかしな。そのガラス玉はただのガラスではない。よく見てみるといい」


 ? 皇帝陛下に言われては仕方がない。私はもう一度そのガラス玉を見直す。青い輝きの宝石。これがダイヤモンドならかなりのサイズだけど、ガラスではねぇ。そう思いながら石を太陽に翳してみる。……あれ?


 ダイヤモンド特有のファイアという虹色の輝きが石から見えた。これはガラス玉では見られないものだ。私は慌てて石を少し傾けたり、手で光を遮ったりした。……これは、もしかして……。


「どうだ?分かったかな?」


 皇帝陛下の口調はガーゼルド様に似ていた。つまり子供っぽい好奇心丸出しのお声である。私をまんまと騙せて嬉しいのだろう。私は少し憤然とした気分で言った。


「これは、ダイヤモンドをガラスでコーティングしていますね。多分、無色のダイヤモンドに青いクリスタルガラスを被せてあるのでしょう」


 これに似た手口として貼り合わせという手法がある。ガラスと色石を接着して大きさをかさ増しするのである。イルメーヤ様のお持ちの接合ダイヤモンドほど高度な技術ではないが、よく使われる手法だ。


 この石の場合は貼り合わせではなく、ダイヤモンドの表面をガラスで完全に覆っているわけである。ガラスコーティング分大きく出来るし、色も変えられる。それでいてダイヤモンドのファイアも出せるわけで、これはこれで見事な技術だ。半端な宝石商人なら簡単に騙されてしまうだろう。


 ……というか、私が騙された。逆に。私は完全にガラス玉だと思ってしまった訳である。つまり私の能力は、宝石を直接見ないと発揮出来ないということなのだろう。今回の場合はガラスでコーティングされたせいでダイヤモンドが遮られて見えなかったのである。


 考えてみれば、今までだって箱や袋の中に入った宝石からは記憶を見る事は出来なかったわけで、ガラスコーティングされていたら分からないのも無理もないのかも知れないわね。しかし私の能力にこんな弱点があったとは。


 ちょっと唖然としてしまった私を見て、皇帝陛下と皇妃陛下は顔を見合わせて頷いていた。


「ガーゼルドから『宝石の記憶』が見えるのだと聞いた時には半信半疑だったのだが、そのダイヤモンドに騙されるという事は本当に見えるのだな」


 は? 私は驚愕する。なんで? なんで皇帝陛下が私の能力の事をご存じなの? って、犯人は一人しかいないわよね?


 私は隣に座るガーゼルド様をキッと睨む。私の企業秘密をばらすなんて何してくれているんですか! しかも皇帝陛下に! しかしガーゼルド様は肩をすくめて更にとんでもない事を言った。


「そう怒るな。それだけではないぞ。君の能力も、君が本当はジェルニア男爵の娘でないことも、本当は平民な事も、皇帝陛下はすべてご存じだ」

 

 は?


 ……えーっと。むしろそれは、どうしてガーゼルド様がご存じなの? え? どこから? なにからバレたの? いつから?


 パニックになり掛る私の手をガーゼルド様は強めに握った。


「落ち着くがいい。今はそこは誰も問題視してはいない」


「そうとも。元は例え平民でも、今回の功績は十分叙爵相当だから、気にする必要なない」


 ガーゼルド様も皇帝陛下も仰ったけど、そんな簡単な話じゃないでしょうよ! 私はガクガクと身体が震え出してしまう。


 しかし、続く皇帝陛下のお言葉で私の身体の震えはピタリと止まる事になる。


「そうか。宝石の記憶が見える者が現れたか……。七百年ぶりの事になるな」


 ……え?


「そんなに昔の話なのですか?」


「ああ、帝国創設期の伝説だからな」


 皇帝陛下はそう言うと、少し表情を引き締めて私の事を見据えた。ただ、それほど緊張している様子は無く、口調は世話話と変わらないような、何でもないような話し方だったわね。


「宝石の記憶を見える者は、帝国創設期の記録に表れる伝説だ。初代皇帝の妃、アミスフィアが、その能力を持っていたと言われる」


 ……そう切り出した皇帝陛下のお話を、私は呆然と聞く羽目になったのだった。


――――――――――――

「貧乏騎士に嫁入りしたはずが! 野人令嬢は皇太子妃になっても竜を狩りたい 」コミックス一巻が発売されます! 是非ご予約下さいませ! よろしくね!

https://amzn.asia/d/4kKDGs9

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る