肉のない親子丼の名前
家に着く頃には既に日付は変わっていた。
鍵を開けて靴を脱ぐと背負っていた通勤用のリュックサックも下ろさずにまずキッチンへと向かった。
16時ごろの休憩時間にに食べた遅めの昼食はとっくに胃の中から消えており、私はすぐに食べられる何かないかと冷蔵庫や棚の中を物色し始めた。
棚の奥にいつ買ったか覚えていない個包装のチョコレートを見つけ、一粒口の中に放り込み夕食の準備を始める。
フライパンに油を敷き、温め始めた後、冷蔵庫を再度物色する。
「そういえば卵が危なかったな…」
冷蔵庫の中から2つ卵を取り出すと温まったフライパンの上で殻を割り、醤油をかけて箸でぐるぐるとかき回す。
冷凍していたお米を取り出し電子レンジで温め始めるとキッチンから出てやっと背負っていたリュックサックを下ろした。
一息つくとふと今日の事を思い出した。
思い出したのは職場の図書館の入り口で見かけた親子だった。
とても仲の良さそうな家庭で子どもが両親のことを好いているのが一目見て分かった。
「今日はカレーが食べたい!」
なんて子どもの要望を聞き、どうやらこの後近くのスーパーへと買い物に行くようだ。
その時は今日の夕飯はレトルトカレーがいいな、なんて思っていたが帰ってくるとただなんでもいいから手作りのものが食べたいという気持ちに変わっていた。
そんなことを思い出していると卵が半熟に固まり始めていたため、火を止め温まったご飯の上にかけた。
テーブルへ運びテレビをつけ、名前のない夕飯にありつく。
卵丼なんてなまえをつけるほどですらない適当に作った料理だ。強いて名前をつけるとすればだが、鶏と卵の丼を親子丼というならば…。
そんなことを考えていたときに何故だかわからないが昼の出来事に私なりの解釈を示してしまった。
あの時親子を見てカレーを食べたいと思った事は嘘ではないのだろう。だが、私が本当に食べたかったのは誰かと一緒に食べる温かいご飯だったのだろうな…。
そんなことを考えながら私は1人で自分の作った"孤独丼"を口の中に掻っ込んだ。
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