巣食う。
通勤途中に突如として発生した腹痛との格闘の末、息も絶え絶えになりながらも私はなんとか駅構内のトイレにたどり着いた。
トイレに座りつつ、神様に対して憎悪とも感謝とも言えないような心持を持って気持ちを落ち着かせ続けていた。
いつもであれば既にバスを待っている時間であるが、この日は台風による気圧の影響か、はたまたここ最近私を蝕むストレスが原因か、十数分というただの腹痛を耐えるには長い時間が尋常じゃない痛みが続いた。
遂には
「全く、日頃から不摂生な生活態度がこういう時に出るんだぞ!」
と想像の中の神様から自分に対する説教すら脳内で始まってしまう始末で、それがひと段落着いた頃には1時間おきのバスはもう既に行ってしまったあとで、始業の時間にはとても間に合わない時間になっていた。
私は最早急ぐことを諦め、職場への遅刻の連絡を早々に済ませると先ほどまでの尋常じゃない痛みのことを考えながらも、とは言え抜いた朝食による空腹もなんとかせねばと近くの喫茶店へと足を運んだ。
◆
普段入らない駅近くの喫茶店。
普段入ることのない店内は外の気温との寒暖差で先ほどの腹痛を一瞬思い出すほど涼しく、また少し寒気を感じたが、窓際の席に着いて数分メニューを眺めるうちにだんだんと店内の温度にも体が慣れてきた。
周りをチラと見ると出勤前の会社員や始発を待って寝たままの大学生のグループなど、客数は思ったよりも少なくはなかった。
外の湿度と気温から冷たいアイスコーヒーでも飲みたかったが既に落ち着いていたが先ほどの痛みのことを考えると、冷たい刺激物を胃の中に入れるべきではないなと、ホットミルクとサンドイッチを注文した。
さて、次のバスが来るまでにおおよそ50分ほど。
ホットミルクで胃をゆっくりと温めた後にこれまたゆっくりとサンドイッチを咀嚼した。暖かい飲み物が体に染み込む感覚がとても心地よく、全て食べ終わる頃には先ほど目覚めたばかりなのに既に少し眠気すら感じていた。
◆
食後のバスが来るまでの残り時間、私は先ほどの痛みの原因はなんだったのだろうかと持っていたスマートフォンで調べ物を始めていた。
"ストレスや温度差などが原因で、自律神経が乱れる、食習慣などが腹痛の主な原因。"
………思い当たる節しかない…。
反省の意を込めて、3日間は健康的なもののみにしようと誓った。そんなことを考えているとふと、
"体に病が巣食う"
なんて言葉をふと頭の中をよぎった。
調べてみると悪いものなどが溜まったり蔓延ったりする事を"巣食う"というらしいが、巣を作ることという言葉が何故ネガティブな言葉として使われるのだろうか?
巣作りなんてどちらかというとポジティブな言葉として捉えられる言葉じゃないだろうか?
"家の屋根下に鳥が巣を作る"なんて平和的なイメージすら感じる。
こんな言葉がどうしてネガティブに捉えられるのだろうか…。
…よくよく考えれば、いや考えなくともそれが鳥だろうと虫だろうと勝手に巣を作られてしまっては困ることの方が多いかもしれないな。
米などの農作物が勝手に食べられてしまう事から鳥や虫憎しと生まれた言葉なのかもしれないな。
これは人間のエゴによって生まれた言葉なんだろうか…
腹痛を起こした原因は消えたようだが、そんな考えが新しく頭を巣食う最中、外にバスがついたのが見えた私は早々に会計を済ませて店内を出た。
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