[番外篇]線状降水帯について私が知っていること(6)
では。
まだ予報がじゅうぶんにできないとしたら、どうすればいいか?
まず、予報(とくに「顕著な大雨に関する気象情報」……って、このネーミングもどうなの?)が出たときには、災害への備えを、避難も含めて検討する。
問題は予報が出ないばあいです。
何を見て「線状降水帯が発生するかも知れない」という警戒をすればいいか?
あくまで目安です、ということをお断りしたうえで、書いてみます。
つまり、ここに書く条件が揃わなくても線状降水帯が発生することはありますし、逆に揃っても発生しないこともあります。
そのことは頭に置いて読んでくださればと思います。
まず、前線が近くに停滞しているかどうかで、前線が停滞(何日も同じ場所からあまり動かない)しているばあいには注意しておいたほうがいいです。
ただ、前線が停滞しているだけで線状降水帯ができるわけではありません。
なお、線状降水帯は、前線の真下にできるとは限りません。今回の能登半島豪雨でも、過去の線状降水帯による豪雨でも、線状降水帯は前線の少し南側に発生することがあります(なぜなら「暖かい湿った空気」は南から入ってくることが多く、それが前線に到達する前に線状降水帯を発生させる可能性があるからです)。
だから、「前線が停滞している場所が、自分の住んでいるところより少し北側」というときも、線状降水帯が自分のところを直撃するかも知れません。
まず、停滞している前線に「湿った暖かい空気」を送り込む「何か」があるかどうかをチェックしましょう。
「湿った暖かい空気」を送り込む「何か」としては、まず、台風があります。
近くにいる台風だけが脅威というわけではありません。台風一〇号が遠いころから東海で豪雨が続いて東海道新幹線が止まったことからわかるように、台風本体は遠くても、その湿気が流れ込んでくることがあります。
とくに、台風の東側は南から北へと風が流れています。
日本の南は海で、ただでさえ湿った空気ができやすい。その表面水温が、今回のように三〇度とかの高い温度だったときには、さらにすごく湿った空気が日本列島の上に流れ込んでくることになります。
また、台風が北にいるときには、西から東へと風が流れます。やはり西の海の温度が高いと、暖かい湿った空気が押し寄せて来る可能性があります。
なお、北にいる低気圧が湿った空気を送り込む、という可能性は、温帯低気圧でも同じなので、「台風じゃないから」と安心しないほうがいいです。前に書いたように、今回の能登半島豪雨で、能登半島にいちばん近かったのは、中心気圧がそんなに低くない平凡な低気圧でした。その低気圧が、海水表面温度の高かった日本海の上の湿った空気を送り込んだのです。
あと、台風一〇号の東海豪雨でも、能登半島豪雨でも、意外な「悪さ」をしたのが、「太平洋高気圧の縁を回る湿った風」でした。
「高気圧なら晴れる!」というのは常識ですけど、じつは、高気圧の端っこのほうなどには湿った空気が存在しています。それのせいで、曇ってしまったり、それどころか、天気図には高気圧しか出てないのに雨が降ったり、ということもあります。
太平洋高気圧は海育ちの高気圧なので、その縁を回る風はたいへん湿っていて、それが吹き込んでくると天気を崩します。
それが、山地にぶつかったり、別の方向に向いて吹いている風とぶつかったりしたら、そこに線状降水帯を発生させる可能性があります。台風一〇号のときの東海豪雨も、能登半島豪雨のときもそうでした。
とくに、今年は、太平洋高気圧が東のほうまでしか出て来ておらず、日本列島を覆うところまで行っていませんでした。
「太平洋高気圧が強いと日本の夏は暑い!」、「太平洋高気圧が弱いと日本の夏は天気がぐずつくかわりにそんなに暑くない」というのが、これも常識なのですが。
今年は、太平洋高気圧が東のほうに偏っていて、そんなに強くなかったのに、こんなに暑かったのです。
なぜかというと私にはよくわかりませんが、たぶん、上空のチベット高気圧の一部分が東に出て来ていたために太平洋高気圧が西のほうまで出て来ることができなかったからではないかと思います。
つまり、太平洋高気圧自体は西まで出て来ることができなかったけれど、それは西のほうの上空に別の高気圧があったからで、日本列島が高気圧に覆われていたには違いがない、だから暑かった、ということですね。
……たぶん、ですけど。
東のほうに太平洋高気圧があるので、その「縁」が東海の南になり、東海地方に「太平洋高気圧の縁を回る湿った風」が吹き込んだ。
さらに、それが愛知県と滋賀県の比較的平らなところを吹き過ぎて日本海に出てしまった。それが、前線の南の湿った西風とぶつかり、能登半島にかかるように線状降水帯を発生させた。
だから、夏、天気図上で、太平洋高気圧が東のほうに偏っているときには、やはり警戒が必要ということになります。
ちなみに、日本列島が太平洋高気圧に覆われてめちゃくちゃに暑い夏は、太平洋高気圧の本体は東の海上ですが、日本列島の真南の海上に、太平洋高気圧の一部分が、本体から少し離れたような形で出てきています。日本の東の海上に「太平洋高気圧本店」があり、日本の南の海上に「太平洋高気圧南海支店」があるような感じですね。天気予報では「くじらの尾型の高気圧」と言ったりします。
今年は、チベット高気圧が出て来ていたので「南海支店」が開設できなかったんですね。
「南海支店」または「くじらの尾」があれば、太平洋高気圧の縁を回る風は日本列島には当たらない(ただし南西諸島には当たる可能性がある)のですが、その「南海支店」または「くじらの尾」がないときには、太平洋高気圧の縁を回る風が九州・四国・本州に当たる可能性がありますので、注意しようね、ということです。
もうひとつ、線状降水帯を発生させやすいのは「上空の寒気(冷たい空気)」です。
これは天気図にはなかなか出て来ないので、天気予報で「上空に強い寒気が」とか言っていたら聴き逃さないようにする、聞いたらそのあとは心に留めておく、ということでしょう。
まとめると、
(1) 前線が自分の住んでいるところの近く(とくに北側)に停滞している
(2) 日本列島の南の海上または西の海上、または南西諸島の近くなどに、たとえ自分の住んでいるところから遠いところにであっても、台風がある。または、北側の海上に低気圧がある。または、太平洋高気圧が東に偏っていて、日本列島にその「縁を回る風」が当たりやすい条件がある
(3) 自分の住んでいるところの上空に寒気が流れ込んできている
というときには、「線状降水帯でなくても、雨を降らせる何かが来るかも」と注意しておいたほうがいい(ただし「この条件三つが揃わないと線状降水帯が発生しない」というわけではないので、そのことにも注意してください)。
自分で、天気図と、高層天気図と、海水表面温度分布を確認して判断するのでなければ、そのいくつかの要素(とくに寒気の存在)は天気予報を見ないとわかりません。
だから、天気予報では、解説を聞いて、天気図もちゃんと見て、少なくとも前線が近くにないかぐらいはチェックしましょう。
ご飯どきの天気予報とか、自分のところの天気だけ見て聞いてあとはスルー、ってことが多いですけど。
……でも、とくに天気が悪くなりそうなときは、何回か繰り返し放送される天気予報のうち一回ぐらいは、ちゃんと天気図まで見て、解説も聞いたほうがいいと思います。
そのご飯どきの天気予報(午後六時五〇分台、NHK首都圏)を担当しておられる片山美紀さんは、『気象予報士のしごと』(成山堂書店)で、線状降水帯の予測が難しいことを書いたうえで、「私たち自身も雨の降り方がいつもとは違っていないか、周囲の様子に敏感になり、危険を察知できるように心掛けておきましょう」(一七七ページ)と書いておられます。
ちなみにこの本には線状降水帯やバックビルディングについての解説もあります。気象予報士の方が書かれた本と照らし合わせて、私がそんなにちがったことは書いていなかったということで、とりあえず安心しています。
で。
なぜ私がこの本を買ってきたかということは、明日公開の文章で明らかになると思います。
もひとつちなみに筆保弘徳(編著)『台風についてわかっていることいないこと』(ペレ出版)も買ってきましたよ。
この文章の「答え合わせ」のために。
これから読むのですが……
先に読んでから書けよ、というところですが、本屋に行ったのが今日だったので……。
そんなにまちがったことは書いてないと思うんだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます