第14話 仮面ライダーと与謝蕪村
このあとは、台風について知っていることの話ではあるけれど、防災には関係のない話になる。
台風(正字では「
私はこのことを知ったとき「逆だろ?」と思った。日本語の「たいふう」、中国語の「タイフェン」(と「タイフォン」の中間のような発音)から、英語の「タイフーン」ということばができたのだと。
でも、やっぱり「タイフーン」ということばが先にあって、その訳語として「台風」を決めた、というのが正しいらしい。
「当て字」・「音訳」なのだけど、そうとは感じさせないぐらい定着したことばだと思う。
「
まあ、日本列島にやって来る台風の正体が、南の海で生まれた、渦を巻く巨大な雲のかたまりだ、ということは、江戸時代まではぜんぜんわかっていなかったわけだし、それが「台風」という特別に警戒しなければならないものだ、という認識もなかった。
いまではあたりまえになっている衛星画像も、当然ながら、地球のまわりを人工衛星が飛ぶようになるまで存在しなかった。飛行機や船による観測と、レーダー画像があるだけだった。一九六四年に富士山の山頂にレーダーが設置されたのも、日本に接近する台風を、できるだけ遠くに存在する時期からとらえることが大きな目的だった。
つまり、南の海で生まれた巨大な「強い熱帯低気圧」が、夏に吹き荒れる嵐の正体、ということは、江戸時代まではわからなかったから、「夏には激しい嵐がよく来るな」という程度で、それをとくに区別するようなことばはなかったわけだ。
ところで、台風(タイフーン)というのは、西太平洋・東アジアの呼び名で、同じ強さの、同じ構造の「強い熱帯低気圧」は、ほかの地域では、ハリケーンと呼んだり、サイクロンと呼んだりする。
はい。
私は、「タイフーン」、「ハリケーン」、「サイクロン」ということばは、気象の本よりも先に『仮面ライダー』で知りました。
歳がバレる。
でも、そうだよね?
ただ、日本で、台風に当たる夏の嵐を表現することばは、あることはあった。台風とイコールではないけど、現在の八月ごろから九月ごろにかけて吹く暴風を、日本では「
野の草木を左右に吹き分けてしまうほどの激しい風、という意味だ。
俳句では秋の季語とされている。
八月から九月は、日本の旧暦では
日本の旧暦は「太陰太陽暦」という種類で、月の満ち欠けを基準とする太陰暦の要素と、太陽の位置(二十四
そこで、
鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分かな
(とばどのへごろっきいそぐのわきかな)
という秀句がある。
舞台になっているのは保元の乱で、乱が起こる直前の緊張感をよく表現した、と評される。
保元の乱は、保元元年(一一五六年)七月(旧暦)に起こっているので、季節としても「野分」に合う。
五‐六騎の武者が緊急事態ということで慌ただしく馬で駆けていく姿と、「野分」の荒々しさが重ねて表現されている。
五‐六騎という表現も私は絶妙だと思っていて、三‐四騎だとあんまり緊迫した感じにならないし、十騎とかだとものものしすぎて、やっぱり感じが変わってしまう。
これを
鳥羽殿へ五六騎いそぐタイフーン
(とばどのへごろっきいそぐたいふーん)
にしたらどうなるだろう?
私は、「絶対不可」というより、「なんか、微妙……」という感想なのだけど。
さらに、タイフーンというのは、ヨーロッパで共同開発された戦闘機(ユーロファイター)のイギリスでの名称だ。そこで
鳥羽殿へ五六機いそぐタイフーン
保元の乱でミサイル撃つのはダメです!
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