第4話 天気予報の役割

 個人的には、「弱い熱帯低気圧」の「弱い」印象を避けたいのならば、「熱帯低気圧」は低気圧の構造を示す用語として取っておいて、強い熱帯低気圧を「台風」、そこまで強くない熱帯低気圧を「準台風」と呼んで、「準台風」(現在の「熱帯低気圧」)も「やっぱり台風的なんだぞ」というニュアンスで言えばいいんじゃないかと思っている。

 「熱帯低気圧」とか「弱い熱帯低気圧」より「準台風」と言ったほうが、「台風に次ぐ存在」(だから警戒すべき)という意味が明らかになって、いいのではないだろうか?


 国際的には、日本の「熱帯低気圧」にあたるものが「熱帯低気圧(Tropical Depression)」、日本の「無印の台風」(「強い/非常に強い/猛烈な」のつかない台風)にあたるのが「熱帯嵐(熱帯暴風;Tropical Storm)」と「強い熱帯嵐(強い熱帯暴風;Severe Tropical Storm)」で、「台風(Typhoon)」は日本で言う「強い台風」以上についてしか使わないことになっている。

 「準台風」案とは逆で、「強い」にならないと「台風」と呼ばない。「熱帯嵐」・「強い熱帯嵐」でもすごく警戒しなければいけないのに、「台風」になったらもっと警戒しなければいけない、というアイデアに基づいているようだ。


 もひとつ個人的には、地震の震度について「震度5弱/震度5強/震度6弱/震度6強」としているけど、私はこちらで「弱」をやめれば、と思っている。

 単純に「5/6/7/8」に繰り上げて現在の震度7を「震度9」にするか、「震度5/震度5強/震度6/震度6強」でいいのではないかと思う。「震度6弱」でも相当に大きい被害は出るはずで、「弱がついてるのにどうしてこんな被害が出るの?」という感覚になる。「震度5強」と「震度6弱」で、「弱」がついている「震度6弱」のほうが強いとなると(数字が大きいのであたりまえだけど)、私はやっぱり混乱する。だから、現在の「震度6弱」は「震度6」(無印)にして、「震度6強」はそのままにしたほうがいいのでは、と思っている。

 ちなみに、地震のほうも、昔は「微震(震度1)/軽震/弱震/中震/強震/烈震/激震」という呼び名があったのだけど、「震度3でけっこう揺れたのにこれで弱震かぁ?」というような違和感があって、最近は使われなくなっている。


 天気予報の役割には、天気についてできるだけ正確に伝える、という役割と、人びとに災害を避ける行動を促す、注意を喚起するという役割とがある。

 情報としては、「この台風は台風としては小さい」、「台風としては弱い」という情報もあったほうが正確な情報になる。

 しかし「小さい台風だから」、「弱い台風だから」と人びとが安心してしまって、防災面がおろそかになると、「人びとに災害を避ける行動を促す」という役割を裏切ることになる。

 私は、どちらかというと、情報は正確に伝えておいて、防災の呼びかけは別にきちんとするのがよいと思っている。だから、「弱い台風」や「小型の台風」も情報としては出して、「弱い台風だけど、災害を引き起こす可能性がありますから注意しましょう」と呼びかけるほうがいいと思う。それで、台風のどのあたりでとくに雨雲が発達しているかとか、台風の風がどういう地形に作用して雨が強まるかとかの情報をより詳細に出して行けばいいと思うのだけど。

 でも、天気予報やニュースは、たいていのばあい、食事しながらとか、ほかの仕事をしながらとか、そういう状況で聞くもので、集中して聴いていることのほうが少ないだろう。だから、「弱い台風」と聞いたとたん、「ああ弱いからたいしたことないんだな」と注意をそらして、そのあとの情報は聞かない。そういうことは、たぶんよくある。そうすると、当然、「弱いけど災害には注意しましょう」の部分は耳に入らないことになる。

 そこを重視すると、「弱い」とか「小型」とかは言わないほうがいい。


 これだけコミュニケーションツールが発達して、充実してきても、「正確な情報を出す」と「情報の重要な点をきちんと伝える」が両立しない(こともある)という事情は変わらない。

 台風の「弱い」・「小型」などの情報も含めて情報をたくさん出すと、その情報を処理しきれる人にとってはありがたいけれど、たくさんの情報を処理しきれない人、処理する気もちを持っていない人に対しては逆に不親切になる。そういう人には「弱い台風だけど警戒しましょう」ではなく、「台風だから警戒しましょう!!!」と言ったほうが、伝えたい情報、つまり「防災につながる情報」として的確に伝わる。しかし、そうすると、多くの情報を処理しきれる人は「もうちょっといろいろ情報を出してくれよ」と不満を持つかも知れない。

 やっぱり、難しいですよね。

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