しんじゃえじゃんく

イタチ

録6

しんじゃえじゃんく


茹だる様な、夏は、女の肌を、男に抱かれているうちに、水滴のような汗を、体に、浮きだたせては、流れている

濡れた下布団の上にかけられた青と白のタオルケットの中

男は、女の乳から手を放し

目を開いた

「暑い」

今目覚めた

その無精ひげの男は、白いランニングシャツを、乱暴に、はためかせ

半ズボンにベルトを通すと、冷蔵庫の中のパンを乱暴に、放り込み

外に出る

女は一人、自分の体を拭きながら

風呂に、入る

冷たい冷水を、浴びながら

内部に、溜まった、男の精液を、膣内から掻き出している

表では、セミの鳴き声と、車の喧騒が、響く

みずから顔を上げ、長い髪を、絞りながら

女は、表に出ると、シーツを引っ剥がし

新しい物に変えると、そこにダイブする

昨日、2時ごろまで、胸を吸っていたせいで、いまだに、吸いついたような感覚を覚える

料理を、何にしよう

茄子と胡瓜

冷蔵庫の中には、少ない野菜が、入って居る

尻に、いまだに、あの男の打ち付けた骨盤と毛の感覚が、張り付いている気がする

鏡を、起き上がり見ると、髪の中に、白い自分の顔が、浮かび上がった


「監督どういたしましょう」

ぼさぼさの髪のまま、タオルを首にかけている男

目はぎょろりとしており

忙しく歩き回る色とりどりのスタッフの中

男は、軽く手を振ると、一人のスタッフの尻を叩いた

「やめてください」

そんな事に、気にも留めずに、男は、優々と、声をかけた茶髪の女の横を歩く

「そう言うことやめてください」

「ああ」

男はそういう端で、女の尻に、その節くれだった細い腕を、掴む

女は、ため息交じりに

「私だけにしといてください、厳しんですから最近は」

そう言って、現場の一つに入る

箱のような建物が並ぶ中

その一番端に、二人は小さな入り口を開き入る

内部は、扇風機はあるが、暑さがまぎれることはない

広い建物の端の長テーブル

上には、材料や、灰皿の中の大量なタバコ

ムッとする匂いの中

椅子に座った男は、首を後ろにあげながら

入って来る人間を眺め

指を鳴らしながら台本を適当に机の上から取ると、読み始めた

「明日、撮影を、はじめますが、集合は、5時ごろに、家の前に行きますから、それまでに用意しておいてください良いですね」 

返事はない

台本を日よけに寝ているようにしか見えない

「それで、役者なんですが」

男の足は、女のスカートの中に、入る

パンティーの内部に、男の指は、水を、見つけ入り込む

「加藤・・」

女の声を、遮り

監督は、いよいよ強く親指を、なかに押し込めながら

「いや、さっき通った、鍛代・・・あれにしよう」

女は、眼鏡の奥で、台本をかぶる男に聞く

「鍛代は、役者じゃありません、よくそんな下っ端の名前を憶えていますね」

男は、台本を、机に、置きながら

「ああ、使えそうだ」

女は、引き抜かれた指の代わりに、足の裏を、当てられながら

「無理ですよ、役者じゃありません、それに、役者の名前も、覚えないくせに、何を」

男は、相手の足を、掴み、足を、強く押し付けながら、スカートに皴をよさせた

「良いんだよ、昔、役者として、活動していた時期を、僕は見たことがある」

女は「しかし」と、死う言うが、男は、机の下に、潜ると

女の足を、下に、向けさせ、ぼさぼさの頭を、スカートの中に、潜り込ませた

「まあ、そう言う事で」

男の舌は、それ以上は、女の下の口と会話すること以上のことは、することをやめた


船着場

先ほどまで、女の交わっていた

監督を、引っぺがし、胸から手を離させて

何とか、バンに、乗せると

車を、出発させた

色々な打ち合わせを、するはずの時間だとしていたのに

後ろで、監督は眠りこけ

台本を機能いきなり与えられた鍛代は、ぼんやりと、台本を、眺めている

「よろしく」

隣の男は、白井という役者であり俳優業を、しているという

「ああ、はい、よろしくお願いします」

台本の中身は、すべて覚えている

しかし、カメラの中で、何かが出来るとは思えない

学生演劇では無いのだ

覚えた所で、映像の中では、切り捨てられる

「それにしても、困ったよ、僕、船酔いするんだ、こわいよこれから」

車が止まると、灰色の空の下

コンクリートに面して、大きめの船が止まって居る

会社が、戦時中、買い取ったものだが、いつ壊れてもおかしくはない

「じゃあ、慎重に、積み込みお願いします」

後ろに止められたバスから、スタッフが、ぞろぞろと、降りてきて、蟻のように、荷物を、運び出す

「じゃあ、出演者の方もお願いいたします」

同じように、繰り返すと、マネージャーは、機能と同じスカートを、翻して、車の中の人間を、迅速に移動させる

船が出港したのは、それから一時間程であろうか

スタッフは荷物の整理

監督は、ようやく起きだしたのだろうか、どうでも良い話を繰り返し

女は、スケジュールの確認をしていた

「それじゃあ、読み合わせでもする」

男は、台本を、片手に、彼女に言う

「ええ」

揺れる船の中、声が響く

「台本は良いの」

鍛代は頷いて

言葉を発した

「それは、良く晴れた日曜日のことでした」



「やめてください」

部屋の一室

マネージャの服は脱がされていた

「良いじゃないか」

もう、腰を、突き入れながら

精捨をしていた

彼女の仕事は、本来の枠を大きく超え

この現場の雑業を、全て引き受けた総指揮官と言ってもよかった

男は、女を寝かせると、腰を、擦りつけながら

「しかし、この台本、最後どうしよう」

同じように、繰り返しながらも

白い本を開いて、鉛筆を、持つ

女の腹に、台本を開き、揺れ動く紙に、ミミズばったしんさきを、ゆらし

迷ったように、胸先を、いじくる

「あと一時間後に、停船します」

女は、溜息をつきながら

眼鏡の奥で、また、行動のイメージを、繰り返した

「っあ」

上で、男が、腕をつかんで、腰を、いよいよ強く突きつけた

窓の外は、相変わらず雲で覆いつくされ

船の揺れが、体を包んでいた


「ちゃっちゃと、お願いします」

荷物を、最初とは逆向くに、運んでいく

離島と言っても、コンクリートと道を見れば、先ほどのさびれた場所と変わりなく

単純に、場所が使えるから、爆弾が使えるから、壊してほしい建物があるから

そんな理由だ

改めて、服を直しながらで 

マネージャーは、時間のギリギリを、考える

少しでも間違えば、カットが、消える

それはできるだけ作品のために、控えたいところだ

「それじゃあ、加藤ちゃん宜しくお願い」

白髪の老人が、頭にタオルを巻きつけて

肩に大きなカメラを背負っている

後ろからは、助手たちが、大きな黒いアタッシュケースを運んでいた

「早くしろ」

台本を握りしめた腕を振り上げながら

後ろに叫ぶと、いのいちばんで、場所に陣取ると、折りたたみいすを置いて座り込んだ

「まあ、こんなところだろうよ、一番、三脚を、ここに、二番、2時の方向に、パネルだ

早くしろ、時間が足りねえ」

真夏の暑さは、コンクリートの中とは違い

一種別のさわやかさと、容赦ない湿度が襲う


孤島に、保険会社の佐藤が、派遣された

多額の保険金を、かけた男が、この島で死んだのだが、死因が、今一つぱっとしない

仕方なく、派遣され佐藤は、この島で唯一の住人の若い女に、会う事になる

唯一のその宿で、男は、この島の民話を、この女に聴くが、戻っても、そんな民間伝承は伝わってなどいなかった

男は、浜辺で、死んでいるのが発見された

検視の結果 地雷の類だと言われたが

その検証も兼ねていた

彼女はその日、宿にいたが、深夜大きな音に、急いで浜辺に行き

男を見つけ、電話で、応援を、頼んだという

浜辺に行くと、大きなクレーターが開いていたが、それが、地雷なのかは、分からなかった

「あの人は、連れ去られたのです」

検視結果は、爆弾による胴体の離別によるものであり

他に目立ったことはなかった

「何ですと」

女は言う

「この島には、牛鬼が居ます

あの人は、祠を、壊したから」

男はぼんやりと、海を見ていた

「ほら、あそこです」

海岸の端に、祠が赤く塗られていた

「見たのですか」

彼女は頷くが、それ以上何も言わなかった

保険金の受取人は彼女であった

しかし、それ以上、なにも、分からない

その日の夜、強い嵐が、部屋を打つ

顔をのぞかせると

明かりが一つ海岸を動く

「いってはいけません」

戸の前の女を、どかすと、雨の中を走る

海岸

荒れ狂う中に、男は雨に濡れていた

「それで、佐藤は、まだ帰ってこないのか」

olが、お茶を運びながら

「ええ、電話は、ありません」

ただ、女はそう言うと、封書を渡す

「あと数日で帰ります、少しお時間を」

部長は、それを眺めるが、彼が帰ってくる兆しはない

描かれてある伝奇似る出ものは見つからない

部長は一人、しまに向かう

帽子を押さえながら船に乗り込む

島で女が死んだと言うのだ

上陸すると、男がこちらに手を振る

それは佐藤であり

なぜか、保険金が、この男名義に変わっていたのだ


「カッート」

小声で、監督が、叫ぶ

五月蠅いのが苦手なのだ

「どうしましょう」

横に立つ女のシャツの中に、手を入れて

ちょとと言うが

無視される

「次は、三番の方が、近いですが」

「・・・・順番撮り」

「はあー」

溜息を回しながら声を振り上げて、指示を出す

「二の場面お願いします」

「はーい」

と声を上げるが、うんざりであるという風を見る

現場まで遠いのだ

ただ、監督だけは、台本を振り上げて、散歩のように歩いている

その首は、女の肩に当てて異様な雰囲気を、醸し出している

辺りはどうしようもなく、うっとうしい湿度である


「回想シーン入ります シーン2ヨーイ」

監督は、ぼんやりと部屋の中の様子を見ている

頭ガガンガンすると言って、カット割りを言わないのである

部屋の中には、畳の上に、机が置かれ

左右には、座る赤いワンピースの少女と言った若い女と

崩れた格好のやさぐれた男が、立っていた

表の方では、セミの声が、騒がしく渡りに響く

部屋に明かりはなく、薄暗い室内に、まどろっしいようなあかりが入る

「私は、貴方が、まだ生きていてほしいと思うんです」

男は、暗い中で顔は見えない

しかしその口は、歪んでいるように見える

電灯の加減で、顔は隠れても居た

「ねえ」

男は答えない

ただ、暑苦しい雰囲気が、画面の中に映る

「ちょっと、明かりが明るいな」

監督が、カメラの横に立ちながら

そんな事を言うな

その手は、横に立っている同じく並んだ、マネージャーの胸のたもとに入り

パチンコ台でも、ひねるように、女の乳房を握っていた

「それは先言ってくれよ」

ご交じり頭の口元がかすかに動く

「はーいかっと」

胸元から手を抜かれた女は、そう言って、場を仕切りなおす

「どうしますか」

一応、もう一度、撮っておいて

頭をかきながら、女の背後を、とりながら、そんな事を呟いていた

「そうですか、わかりました」

男の手が、こしに回り、背後から密着を強くした

「テイク2シーン2ヨーイかっと」

暑い室内に声がする

部屋の表から、照明が、日よけネットを、棒で、吊り下げている

カメラの露出を下げないのは、嫌がらせなのだろうか

部屋の明かりは、相変わらずつけられておらず

声が、ごにょごにょと、小さく聞こえ始める

「それで、本当に、行ってしまうんでしょうか」

声は、相手に等聞こえていないのであろう

反応はなく、ただ、声だけが、向かっているのであろうか

「本当に」

背後で、女の声がする

それは、場面が終わる前に、中断した

「どうしたんだ」

スタッフが、振り返ると

そこには、監督が、床に倒れ、辺りには、赤い色が飴色の床に流れ出していた

若いスタッフの声が悲鳴となり辺りに響く

「どうしたんだ、何があったっていうんだ」

胡麻塩頭が、カメラから、後ろに振り返る

「おっおい」

その答えは、誰にも分からない


「外傷なし」

フラッシュが焚かれ、フィルムカメラが、画像を焼き付ける

相変わらず、部屋は、暑いが、誰一人、その服装を、崩しているものは居ない

「薬物の反応も今のところなし」

結局は、司法解剖に、回されるのだろうが

一応の軽い症状を、見ることは出来る

刑事は、どちらにしろ、現場には来ないし

下っ端を引き連れて、こんな場所に来る人員も少ない

外では、待たせている船の船長が、煙草をふかしているのが見える

「暑いな、死亡時刻からのずれは、なさそうか」

研修のように、引き連れてきた数人に聞いてみるが

まあまあな、数字を出す

まあ、自分もさして違わない数字を出すだろうが

「それで、こんな暑さだが、他に忘れていることは」

数人が、顔を見合わせ首をひねる

「第3項目、7以降も、同様だ、今日は死体以外も、みなきゃならん、覚えているもの」

誰も手を上げないものを見て、仕事が、分かって居ながらも、増えていることを、残念に思う


涼しい船の上

死体を、乗っけた船に同乗しながら、船に酔いかけた一人を含んで、話を聞く

「あの死因は、何だと思う」

全員が、首を振った

一人は、船の外に、吐しゃ物を吐いているだけに見えたが


「はーい、カット

監督どうでしょうか」

冷たい風に当たりながら

扇風機の横で、サングラスをかけた髭のはやした恰幅の良い男が椅子の上で

現場を見ている

場面は、現場検証を終えた鑑識が、海岸から、一件の喫茶店の中で、休憩がてら話し合いをしていた

「かなり調子が悪そうでしたし、血液も外傷ではなく吐血でしたからね全てが

見た所確証はありませんが」

メロンクリームソーダーのアイスを学生が長いスプーンですくっていた

「これは」

梅毒それにるいするもののかのうせいが示唆されたところで

話を変えることになる

あとはだらだらカレーを食べるシーンに変わるが

「しかし、これからまた島に戻るんだろ

監督も大変な事をするよ」

一人が声を潜め

監督に聞こえると注意するが

いった男にガムテープが二回直撃したのちに

ほらと横の男は言う

「第十カットをとる準備しろ」

手筈は同じであるが

船酔いにより数名がグロッキーであった

多少大きめの船であるが

さきほどよりも、波が荒くなり、灰色の雲は黒ずんでいた

「ほらさっさと行くわよ」

マネージャーの声が響く

はたらきありのように、 人だかりの列は一列に、来た道を

船着場の波の上に歩いて行く


船は中型船と言ったところで、二つの船を、チャーターしていた

波は、酷く、揺れ十人ほどが、闇の中に、薬害廃棄物を、巻き散らしていた

島に着いた頃には、辺りは、夕焼けが、暗く、辺りを塗りつぶし始めていた

「監督、これだと、夜のシーンだけ、先に撮っちゃいますか」

監督は、相変わらず、首を、横に振る

この島には、唯一、一件の病院が、立っており

そこを、買い取った会社が、僅かばかりのリノベーションを、施しており、そこを、使わせてもらう事になっていた

今では、その会社も、つぶれて、村が、それを、管理しており、一応の耐震性を、確保していると言ったところであると言うが、それを聞いた人間のニュアンスの正当性は、不明である

「予定通り、次のシーンを撮って、今日は、休もう」

波の合間

向こうに焼き付けるように、赤い光がじんでいる

「ヨーイ」

珍しく、監督が、声をかけながら、シーンが始まった

暗い画面の中、二人の表情が、崩れたように、見える

何かを話しているが、どうせ、後から吹き替えしなければいけないのであまり意味を満たさない

「監督、監督」

カメラの横で、場面を、真剣に見ていた男の横で、マネージャーの声がする

声を出さず、横を見ると

指が、何かを刺していた

海である

「?」

その先に、めせんをむけると

妙なものがあった

役者以外

何か、もう一つ、別の何かが、

その画面には、映りこんでいた

誰か、島民が、入り込んだか

三人目の誰かが入り込んでしまった以上

このシーンを使う事は、難しくなるだろう

しかし、取り直すには、もう、赤い線は消え

辺りは、暗闇に、ついに、取り込まれた

星も、月明かりもない海岸線

もう一度、あの影を探そうにも、そこには、何の姿も、波に消えたように、見えなくなっていた

「おい、映りこんでいたか」

そう言われ、細いカメラマンは、首を傾げた

見かけによらず図太いので、そう言う事にあまり、気に回らない男である

構図さえよければあとは何が入り込もうと気にしないのだ

「さあ、試しに見てみますか」

撮影は、終わり

他のスタッフが、資材の片付けや、夕食に、手を回す中

数人の人間が、フィルムの映像を、見ようとしていた

丁度辺りは、暗く、光に投影するには、時間帯的には良かった

「これですな」

機材に、映し出された映像には、暗い波に、明らかに、もう一人の映像が見えた

「これ、こまりましたね」

マネージャーが、眼鏡を、憎たらし気に、押していたが

監督は、それを、睨みながらも

「まあ」と一言呟いた

「まじですか」

マネージャーが、振り返り

細男が、振り返った

「まあ、怪しげな、シーンでしたし、良いだろ」

カレーが出来ました

向こうの方で、声が掛かり

「撤収」

監督の軽げな一言に、機材を撤収し始める男と

首を傾げたような、憎々し気たマネージャーの顔

「カレーカレー」

盆踊りでも始めそうな

監督の横

島に吹いた奇妙な風が、彼らの間を、吹き抜けていった

「大丈夫でしょうか」

男が、黒いボックスに、機材を仕舞い終えると

女に、聞いた

「何がです」

それが何のことか、女には、分かりかねた

ロビーに建てられた、小さなテントの中

その入り口が、監督が、解いたままだったので

ひらひらと、布が、たなびいていた



「はーい、カット」

夏の日差しが、灰色の雲の切れ間から、光線銃のように、海に乱反射していた

それを無視するように、場面は、暗い、じめっとした室内で

撮影中の姿を、撮っていた

「それじゃあ、次は、昔話のシーンを、撮りますので、小道具さん用意お願いします」

役者は、驚くほどに少ない

この島の二人の話を、二人が演じるのだから、少ないわけである

風は、徐々に出てきているが

さすがに監督も焦りがあるのか

ただでさえ、無茶な、スケジュールの中

シーンを落とさないためにも、背景で、木が揺れようと、さして気にも留めていない

「よーい、カット」

二人の着物を着た人物が、砂浜で、何かから逃げている

一人は、ゆっくり歩いているが、もう一人は、足早に、丘の向こうに逃げようとしている

一見すると、一人がおっているようにも見えないが

ナレーションを聞けば、そうは見えないのであろう

ーその島には、昔から、言い伝えがあった

嵐の前に、自分の魂は、それに引っ張られてしまう

だから、家から出てはいけない

風と共に、向こうに、魂は行きたがる

だから、姿を表し、鬼がそれを連れていくー

ゆっくり歩く、男は、何かを言っている

しかし、それを、ぶつぎりにするように、場面は、途切れる

「はーいカット」

マネージャーが、叫ぶと

直ぐに、着物は、脱がされて、洋服に着替える

「嵐が来ています、直ぐに、次の場面に、朝言った通り移りますので

よろしくお願いします」

本能に刻まれたように、人は、場所を言われていないが、動いて行く

船着場、崩れたようなコンクリートの中

画面は、大勢の人を、そのレンズに映している

慌ただしい中

白波は、泡立てたように、コンクリートにぶつかっては消えていく

「ヨーイカット」

その声を、待つように、辺りは、移動していた


「それで、これが、そのフィルムだと言うのか」

警察から、それが、返却されたが

どうしようかと、隣の会議室では、お偉いさんが、頭を悩ましているが

それがどういう結論を巻き散らそうとも、見ないことには、それがどうなるかなど分からない

どちらにしても、ここに写っている人間は、今のところ、全ていない

行方不明だ

それが、嵐のせいだと言うものも居れば、船が沈没したせいと言うものもあるが

船を、貸し出したものも、その島に、船があったわけでもない

もし、誰にも言わずに、船を、チャーターしたなら別だが

どちらにしても、嵐の後に、スタッフが、居ないことに気が付いた会社の人間が

書類を調べると、数年前に、廃棄された船を、チャーターして撮影する企画書が、発見された

数人が、いたずらだと思いながら

その島に行ってみると

廃墟に、貸し出したカメラに収められたフィルムが、見つかったのであるが

それ以外に何もなく

集団失踪の類が、怪しまれたが

四十五人など、ありえない

そうなると、事故の線が、強いのであろう

直ぐに、警察に連絡したが

彼らが、どうやって、その島から出たのかが、分からないのである

船は、行きだけは、足取りが、掴めたが

その船は、小さな漁船を、数隻とって、島に行ったが

帰りの痕跡は、全く見当たらなかったのと

奇妙な事に

レンズから、写されたフィルムには、どういう訳か

数年前に、廃棄された船が、移り

その映像の中も物語に、その船は、動き

海を、渡っていた

「おかしいですね」

警察の一言で、その映像は、過去に撮られた物なのではなかろうかと言う事になったが

だからと言って、意味をつかむことは、難しい


映像の内容も、実に奇妙であった

二つのい全く違う物語が、人るのフィルムに、使われてあったのだ

前半は、明らかに、ポルノ表現があり、しかも、明らかに、本番行為が行われたところを考えて

到底、この会社で作られたものではなさそうだ

その背後の話も、途中まで、作られてたが

別のフィルムに、残りがまだあるのに、切り替えたのだろうか、映像が残ってなどいなかった

それとも、そこで、撮る事が出来なくなったのであろうか

しかし、問題は、そこではなく、どうも、この二つの話が、絡んできている可能性があるということである

前半の話が、妙に、後半の話が、わざわざ、それを使ったように、ストーリーが、作られている

しや、正直、それが、台本として作られたのか

それをとって居る人間を、撮って居る

ドキュメンタリーなのかもしれないし

それを真似た映像表現 フィクション もきゅめんたりーなのかも知れない

例えば、ドラマで出てくるニュース映像などはもきゅめんたりーなのかもしれない

しかし、もしそうだとしても、どこがどうなのか分からない

制作者が、どういう意図なのか、台本も何もないので、分からないのだ

これが、ドキュメンタリーだとしても、これが何の映像作品なのか、分からないし

あまりにも、情報が、出てこない、関係者の近い物誰も

それが分からないのだ

ただ、数人の家に

「しじゃくえんし」

という台本を、見つけたが

中身は、数ページ

最初を除いて、白紙で

其れの意味は、見とれないのである



「これじゃあ、全然だめだ」

持って行った映像は、部長に、切り捨てられた

「だめだめだめだめ、この土砂降りみたいに」

辺りは、もう台風に入って居る

強風が、何処かの立て看板を、向こうになぎ倒していくのが、二階から見えた

「しかし・・」

溜息は長く、息を初めに数秒吸い込み、下に向いて、ゆっくりと、吐き出し続けたのちに

顔を、あげた

若いところを、は見えず

ダルマに油としわを刻み込んで、脱色させて茶色に塗りたくったようだ

「お前は、どこぞのアート監督か、全く話にならん」

アートでもよかろうか、と言うような顔を相手に向けた所で

その目じりを盗み取ったように

「もっと、誰もが分かりやすいエンターてーめんとだよ鬼島平川君

君の小さな自意識など、何年たっても目は出ない

数百年後の肥しにはなるかも知れんがね

現世利益だよ

今すぐ

即興

誰にでもわかりやすい

見た前、向こうに見える虹を

あれで良いんだよ」

窓の外、通りの反対側の壊れかけのモニター画面につうった

3dの虹を指さして言う

「世の中は、絶対数だ

そして、人は馬鹿なようで、流れがある

流れは絶対指数だ

人は、その流れを、馬鹿だと言うが

しかしだ、生き物は、その場の状況に敏感だ

ウミガメは、生まれてすぐに海を目指し

昆虫は、誰にも教えられていないのに、自分を信じる

それは、本能

自分の生まれた意味を、知って居る

君みたいな

溶けた卵の中身みたいなもんじゃないんだよ

分かったら、これを、もっとインショーナルラルに、してくれよ」

イッ印象ナチュラル・・なっ何を言っているのか、全然頭にインストールできない

「君は、これが、非常に、インショーナチュラルだと言う事を、分かって居ない

今あのニュースが、どれだけ、世の中に、あの事件を、どういう事だと、世間様に、賑わせて、

そして、君なんかが、編集出来ると思うのだ

もっと、分かりやすく、何かしらの納得をさせて、お帰りいただく

いや、少なくとも、もっとわかりやすく

わかりやすくすれば

そうすれば・・」

何回分かりやすくればいいんだ

それは、難解だ

少なくとも、この意味の分からない映像を、どうつなげろと言うのか

なまじ、これを、ノンフィクションとして、物語、作られたものでないと言うのであれば、幾らでも、作り変えることはできるだろう

しかし、相手は、フィクションを、望んでいる

何処の上の人間が決めたかは、知らないが

監督が意味を持って作ったものは、本当に複雑だ

一見して馬鹿だと思う

どうでも良いシーンの積み重ねは、本人しかできない

暗号の高度なものよりも、意味不明だ

何せ、カオスなのだ

百歩譲ろうとも、この作品は、未完だ

未完をどうしろと

まずもって、最初のアダルトシーンは削ったとしても

もうこの時点で、そのシーンに意味があった場合、僕はもう訳が分からない

どちらにしても、今の頭は、この映像作品でも僕でもなく、相手だ

そうは言っても、メスを入れるのは自分ではあるが

「分かりやすいと言っても、この撮影メンバーは、みないませんし

それに、見た所、これは、劇中劇の中の劇中劇

つまり、意味の分からなさを、楽しむものです

仲間内でも、前の方が」

最初のはダメ全然

相手はそう言うと、お茶を入れに行った

戻ってきて、口をつけながら

「それでだ、僕はこう思うんだよ」

お茶から口を話すと、髭が動く

「・・爆発だよ、爆発」

何を言いだしたんだ特撮だったか・・

「いやね、そんな顔をするんじゃないよ

まず、この映画の最初の方で、言っていたじゃないか

壊してもいいって、つまり、この話は、爆破落ちだったんだよ

簡単な話だ

それにさ、幸いにして、これ、細切れじゃない

それをうまい事つなげて、一本の」

無理だ、駄作になる、いや、あと何個か映像をとって、それをつなげ合わせれば、ましになるかも知れないが

しかし、それなら、別の話を、もう一つ繋げ

「まあ、だから、爆破だから、でも、お金も、かけられないから役者なし

とりあえず、爆破

インパクトが重要だから

まあ、でも、お金も払えないし

島は入れないし

適当に、エフェクトよろしく」

目を上げると、男の湯飲みは、今まで、そこにいたように、湯気を立てていた

「あの野郎」

湯呑は湯気を立てていたのみである


確かに、爆破シーンの匂わせはあった

しかし、実際にはどうかもわからない

どうする、これは、普通に、この流れの中に・・・いや、最後に入れたら、これはただの爆破落ち

ではないか

それにこれは、編集前である

これを、そのまま信じていいのかもわからない

それに、ことあるごとに、これは、シーンは、ストーリと同じ順序

つまりは、撮りやすい場所から撮って、つまり、タイムロスをなくし

効率重視の撮影ではなく、役者が、感情を、そのままやりやすいように、ストーリー通りに、撮影していることを、公言していた

つまり、この筋通りになる

しかし、今の時代に、なぜ、フィルムなのだろうか

映像の鮮明さは、明らかに、フィルムの方が高いと言うが

値段や編集面で圧倒的な小者となる

「あら、まだいらしたんですか」

声がして振り返ると

見ず知らずの人が立っていた

あれ

何処か、見たことがあった

顔見知りだろうか

いや・・しかし、顔を覚えるのはそれほど得意ではないが

でも

女は、消えていた

印象的な三角眼鏡である

僕は、もう一度、フィルムを、デジタルに編集したものを、見ながら

首をひねる

よく似ていた

あの女の人に

この映像の中の俳優

マネージャーと

そっくりだ

私は、急いで、監視室に走ると

訳を言って、映像を、見せてもらった

さすがに、映像を、仕事にしているだけあって、その手の操作は分かりやすい

「・・・・おかしいな」

疲れすぎているのだろうか

一時間前後を見ても

私の居た部屋に誰も通らないしかし

嵐のせいだろうか

ゆっくり扉が途中で開いたりした

丁度、時計の表示を見れば

あの時間だったりした


「もうそろそろ、帰ろう」

時計を見上げれば、夜中の三時のおやつだ

今の時間に食べるのも控え

扉の前に立つと

廊下に、台風の風が、入り込み、涼し気な、冷気を含んだつめたいかぜが吹いていた

廊下に張り付けられたチラシが揺れ

何かが通っているみたいである

「お疲れ様です」

看守さんに、頭を下げると

ガラス戸に、手をかけようとする

このじかんでは、裏口からしか、出ることはできない

しかし、手は途中で邪魔される

「やめた方が良いですよ、鬼島君

この雨では、却って危険だ」

そこまで言われ、振らゆいた意識を、硝子の向こうに見えば

波でも押し寄せたように、ガラス戸に、雨がぶつかり、曇りガラスのように、先が見えない

良く見れば、道路は、雨が、川のように、泳ぎ

吹き付けた雨が、扉の隙間から漏れ出していた

「そうですね」

部屋には、カップラーメンとクッキーがある

ポットの横には、コーヒーも完備されているし

戻ってもう仕事

そう思うが、もうくたくただ

こういう時は、丼もののラーメンを、食べたいが

この雨では、自分から行くのも、出前も、無理だろう

時間的には

豚やが、開いていたかもしれないが

こうなってしまえば、分からない

部屋の扉を開けると

ぼんやりと

画面を見る

堤防の上

スタッフが映って居る

動画を止めずに、来てしまったのだろうか

電源が、入れっぱなしだ、これを見られたら

どやされる

その時、背後で、声がした

「はーいカット」

見ると、長い髪の女が椅子に座り

こちらを、カメラの横から見ていた。





















「それで、どうしましょうか」

大勢の人間が、歩き回る中

台本を片手に、声をかけるが、それに対する返答はない

「もうこれは、時期的に難しいですよ」

ニュースに紛れるラジオは、大変な大雨を、知らせている

「簡単だ、次の場面を、撮るぞ」

ページをめくるマネージャ

「無理ですよ、スタッフに危険が」

監督は、首を振る

「何を言っているんだ

牛鬼が出るには、良い天気じゃないか」

辺りは、到底いい天気ではない

「無茶ですよ、カメラだって」

振り返ると、カバーをかけ始めたカメラが見える

「役者だって」

着物を、二人は着始めていた

「むっむりですよ、無理です」

時間がないんだろ

男は、そう言いながら、ガラス戸の前に立っていた

「彼奴らは、俺らの映画を、全く別のアート作品にしようとしやがる

そんな事が、許されるわけがない 行くぞ」

扉からは、雨が漏れ出し

スタッフが後に続いて行く

頭を、電気の切れた建物の中で、どうしようもないと振る女と

それに対するように、部屋の外に出ていく人たちの姿が映る

「おっおい、あっあれは」

灰色の空の中

奥に、人影が、海の中に見える

「っあ・・ああれは」

誰かの声がする

土砂降りの中

何かの音がする


「それで、あれは、何なんですか」

映像の中のそれを、拡大したが、それが何なのか分からない

単純に、雨に紛れて、向こうの島が、そう黒く人のように見えただけのようにも見えるが

しかし、晴れているときも、そのようにも見える

第一、土地柄的にその先に島はない

「分からないよ、俺は、それよりも、この先のつなぎ合わせを、どうしようかと考えているんだ」

後ろからスタッフが、真剣に、現場を見ている

もう一度同じシーンを繰り返すかは、監督の手にゆだめられている

「でも、我々が、これを、解明しないと、このシーンは、映画には、入らないんじゃないでしょうか」

全く畑違いであるが、動機の下元が

自分が頑張ってもあまり食べられないコーヒーを、紙コップで飲みながら

映像を見ている

「この機材の値段知って居るんだろうな」

相手は気にせず、もっと拡大しろと指示するので

仕方なく、柿の種を頬張りながら

かみ砕く

「・・・・何かしらね」

そう言われても、分からないから、そう言っているのだ

「幾ら拡大したところで、画面に映した時点で、限界はある

所詮は、点だ

その集合体が、そう見せているだけである

そして、その拡大は、限界を迎えていた

無限ズームなどありえないのだ、映画ではない

少なくともそこまで高度なものではない

「ねえ、やっぱりこれ、何か浮のようなものに、人形を、括りつけてあるんじゃない、ほら」

海の合間に、確かに、何か白い物が見えた気もするが、確証はない

「ほらねー私の推理の通りよ貸しだからね貸し

また今度、お菓子でもおごってもらおうかしらデパ地下で」

何か言う前に、振り返ると、その姿はない

ただ、肩を軽くたたかれ損で消えたのである

「ジィイーー」

画面から音がする

おかしい

音など、録音されているわけではない

そうなると機材トラブルか

横の柿の種が問題だったのであろうか

振り返ると

そこには、相変わらず、画面の中に、波が揺れている

僕は

あきらめて、電源を、消した

何一つとして、解決しない

しかし、しょうがない

部屋から出ると、そのまま玄関に向かう

「あーダメダメ、今日は無理って言ったじゃない」

看守さんが、こっちに向かって、駄目だと手を振る

「ああ、そうだっけか」

その時、玄関で、大きな音がした

見ると、何かにぶつかったのか扉が割れている

「仕事しなさいよ」

一体何時間やって居ると、思って居るのか

振り返るが、そこには、だれも居ない

長い廊下があるだけだ

これも、あとで、別撮りするのであろう

カメラが、僕をとって居る

何処かで、音がする

しかし、どうも、何処かで聴いた気がするのである

「はーいっかっと、次のシーン行きまーす」

マネージャーの声に、辺りが移動する

その後ろを、細い男が、ふらふらと歩く

その手は







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しんじゃえじゃんく イタチ @zzed9

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