哲学者の過ち
私は夕焼けが嫌いだ。
そう言いながら土手のベンチで一服する、男がいた。
その男は、おおよそ30代と言った見た目でメガネをし冴えないオーラが滲み出ていた。
夕陽が川を照らしまるで、オレンジジュースが流れているようだった。
タバコを吸っていると昔のことを思い出した。
私が3ヶ月間だけとある学校で講師をやっていた頃の話だ。
私は、過ちを犯した。
講師をしていた学校の女子生徒と恋仲に発展しかけたのである。
その女子生徒は、クラスというか学校全体で浮いていた。
理由は、単純明快。
彼女が転勤族だったからである。
この街の外から来た人など、ここ数十年いなかったからである。
彼女の話を聞くと理解できないものはこの世にはあると言い、それを擦り合わせる理由はないと言った。
私は彼女を気にかけるあまり、彼女の中に悪しき芽を芽生えさせてしまったのである。
その芽は本来、美しい恋という花になるべきであったのに、私相手に芽生えてしまったばかりにそれは叶わなくなってしまった。
ちょうど、今日のように綺麗な西陽を受けた密室とも言えるほど息苦しい教室で2人きりで向かい合っていた。
彼女がその密室を破るように話を切り出した。
彼女は迷いのない目で私のことを好きと言った。
正直私は悪い気はしなかった。
彼女を嫌う理由もなく私としても知的とも取れる彼女の行動原理には気を惹かれるものがあった。そして、あわよくば彼女を救うきっかけになればと思った。
しかし、私には立場というものがある。
短期間とはいえ教師と生徒なのだ。
私は3ヶ月だけ待って欲しいと言った。
しかし、彼女は冷たく言い放った。
待てないと。
そして、彼女は翌日から学校へ来なくなってしまった。
そして、彼女が引っ越したと聞いたのはそれから数日経った後であった。
くだらない昔話を思い出してしまうほど美しい夕焼けにぼやく。
人としてどう生きるべきかなどという問いに今の私ならこの町のように衝動的に生きるべきだと言うだろう。
しかし、あとの祭。
それを教えてくれた彼女はいないのだから。
昔のわたしに伝えたかったことはそれだけである。
哲学者の過ちほど惨めなものはないのだと思い知らされる前に。
騒がしい街の曲がり角 mayu @Mameruri8
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