第2話産声上げたスナイパー

 桜が舞い、そしてそれは白く、しかし檸檬色の陽の光に照らされ、また行く道が淡い桃色のカーペットが敷き詰められたかのようなここ、特別都市桜莉。そこのA区画のガンショップに、一輝、瑛人、咲夜は集まっていた。一輝は2人に行った。


「よし、ここには武装がたくさんあるし、ビビッと来たものをあそこの…フィールドで練習しよっか!」


一輝はそのあと、じゃあ解散と言って、各自散り散りとなった。

 学生と銃がひしめくここの都市にあるガンショップには、今後三年間共にする銃を決める為、たくさんの学生達が居る。その中で一輝は、AK47とストライクワンをレンタルし、2人を探した。しばらくして、瑛人を見つけ、彼に声をかけた。


「もう決まったんだね。えっと…6…4式と、グロック17Lか!いいじゃん!」


一輝がそう言うと、瑛人はやや照れくさそうに礼を伝えて、咲夜を2人で探すよう伝えた。

 彼らが咲夜を探すまで、そう時間はかからなかった。彼は狙撃銃が陳列されている場所で店員にレンタルした直後だった。そんな彼に一輝は言った。


「お疲れ!もう決まったんだね。さてどんなものか…」


一輝が彼の持つ武装を覗くと、そこには彼の背丈と負けず劣らずのSVDと、それを抱く手に握られたベレッタm92fsの姿があった。それを見た彼らは少女のような華奢な見た目に反する武装を、反対するわけでもなく、咲夜を連れてとりあえず射撃場へと行った。

 射撃場に着いた彼らは、高校の入学試験を彷彿とさせるようなだだっ広く、且つ高低差のある、まるで荒れ果てた町の一角のようなフィールドと、無骨なターゲットのついた板を見て、暫くの間試験の思い出に馳せていた。そうして十分ほどの雑談を終えた後、時間が惜しくなったのかすぐに射撃に励んだ。彼らはスナイパーライフルを持つ咲夜と、アサルトライフルを持った一輝と瑛人で別行動で練習するようだ。一輝は咲夜に、どこから撃たれたかを特定されない為に、1発ごとに移動をするように伝え、廃車や瓦礫、崩れた建物が点在する道路で練習する為、咲夜を1人残した。

 一輝たちは交互に、攻撃側と防御側で銃を交わした。攻撃側は障害物を生かして、まるでボクシングのインファイトのように懐に飛び込んで弾を放った。対して防御側は射線を避けるように間合いをとり、遠距離で引き金を引く戦術のようだ。もちろん、ライフルのみで戦うのではなく、10分ごとにくじを引いて、その結果で戦っているらしい。そうして1時間と少し程たった頃、咲夜も加えて練習しようと向かっていた頃、彼らの目には驚きの姿があった。


「やめて…下...さい」


咲夜が荒くれ者4人に絡まれている姿だ。それを見て一輝は考えるより先に体が動いていた。


「やめてあげて下さい、この子は僕らの連れなんです。」


その言葉に荒くれの1人が荒げる。


「何?お前ら。俺らこいつの被害者なんだよ」


その言葉を聞いて、瑛人と2人でいる、怯え切った咲夜にことの真相を聞いた。どうやら、狙撃の練習を重ねるうちに、相手がぶつかって来たらしい。つまりは当たり屋のような手段だ。


「それで慰謝料やら治療費やら詰められてたと。そんな感じ?」


彼の問いに昨夜はこくりと頷いた。シワのできた服と、潤んだ目からは咲夜がどれほどに詰められたのか見てとれる。

未だ荒くれは怒号を放つ。それで一つ、一輝は提案をした。


「こうしよう。一戦、行って俺らが負けたら君らの要求を全て飲む。君らが負けたら金輪際、この子に近づくな。ルールは…チームの全滅で敗北でどうだ。」


彼らはかなり自信があるらしく、それを快諾した。そうして入学して初陣となる模擬戦が今始まった。

 そうして彼らは場所を移した、毎時鳴るブザーが始まりの合図だ。一輝と瑛人は比較的前へと乗り出すらしく、咲夜と別行動を取るようだ。別れる時、一輝は咲夜に「一つの作戦」を伝えた。そうしてお互いが、遮蔽物をうまく活用しながら充分に前へ前へ進み、やがてお互いの影を視認して、そうして偶発的に戦闘が始まり、そこには耳を塞ぎたくなる様な銃声が鳴り響いた。

 一輝たちは廃車や瓦礫に身を隠しながら、撤退と反撃を繰り返していた。そうして他から見たら防戦一方に見える彼らに弾を浴びせる彼らが道の中腹に躍り出た頃、一輝たちが目を合わせ、合図を交わした。そして瑛人が64式を構えて瓦礫から敵へ潜り出た。突然の反撃で彼らは困惑しつつ、瑛人に銃弾を浴びせようとしていたその頃、一輝のAKの銃口から乾いた唸り声が上がった。荒くれの1人が「クソッ」と漏らして、撤退をするそれを彼らは見逃さなかった。相手の間合いに突撃していた瑛人が荒くれのうち1人を撃ち抜いた。銃弾の仕様上死ぬなんてことはないが、気絶してしばらくは動けないらしく、バタッとM4カービンを落として地に伏した。

そうして撤退していた者たちも、まるで弔い合戦の様に、瑛人を狙って集中放火を浴びせ、そうして、瑛人もバタリと倒れた。刹那、崩壊しかけたビルの3階から、割れるような音とともに、道のやや中央に立っていたUZIを持った敵を撃ち抜いた。しかし荒くれ達はその状況を見て吹っ切れたのか、動揺や物怖じをするわけでもなく彼らは猛獣のように一輝を追いかけ、暫くすると、とうとう公園のような場所に行き着いた。彼は動き回りながら、1人をカラシニコフの弾を放ち、公園は一対一となった。お互い、遊具のなれ果てのような物に隠れたり、撤退や移動等を繰り返し、そんな風に、日はそろそろ沈む様な時間の中で、激しい銃撃戦が5分頃した時、一輝のAKにStG44の銃弾がかすめ、彼のカラシニコフは遠くの方に放り投げられた。そして、一輝は倒れつつも脇腹のホルスターにねじ込まれたストライクワンの銃口を、ニット帽を深めに被っている、荒くれの最後の男の心臓に向けた。が、同時に彼が両手で構えるソレが一輝の頭からわずか2インチほど離れて向けられていた。夕方の日が彼らを照らし、土埃とシワのついたお互いの服がやや橙色に染まっていた。睨み合い、互いに引き金に指を引っ掛けているその時に、沈黙を破るかの如く一輝が口を開いた。


「──君は、少なくとも今の状況は互角だと思っているだろう。…引き金を引けばお互いが倒れる、とね。」


その言葉を聞いて、苛立ちをこめて彼は言葉を返す。


「……だからなんだ。今更急にそんなしょーもない事を言うとか、とうとう頭おかしくなったか?」


彼は赤と黒の目で睨みつけながら、銃口を向けたまま言う。


「──これは独り言なんだがな、君らは一つ、重要な、この戦闘での主役となる人間を忘れているだろう。そして、君はその人の"お返し"で倒れることになるだろうね。」


彼はやっと気づいたらしく、銃口を下へ向けて、一つ、冷や汗なのか、それとも差し込む夕日に照らされたからか、顔に汗を垂らしてぽつりと一輝に聞く。


「まさか…お前ら、ここに来たのも、いや、誘き寄せたのも……」


立ち上がりながら彼の言葉に平然と「そうだよ」と返し、一輝は手に持つ拳銃を脇にねじ込み、その後、夕焼けの日差しを背後に、手で銃を作り「…バーン」と言い、彼はその手の銃口を上を向けた。刹那、彼の背後から、流星のような一撃が、一輝の頬をのすぐ横をかすめ、風に乗って敵の心臓のあるであろう部分を撃ち抜いた。近くで止まっていたカラスが爆音に驚き蜘蛛の子が散る様に飛び去る中、狙撃に倒れている荒くれに対して、一言言う。


「君らの敗因はね……」

彼は倒れ込むその人に向けて、陽を背に続ける。


「──僕を、怒らせたことだ。」


そういった直後に彼は倒れ、結果は一輝たちの勝利に終わった。


 「ふぅ、疲れた。あの子、僕らを避けつつあいつらを撃ち抜くなんて、只者じゃないぞ。」


くたくたの体でカラシニコフを拾いながら、彼はため息をついてそう呟いていた頃、咲夜が飼い主に甘える時の子犬のように走って近づき、ショートボブの頭を一輝に埋めてこういった。


「勝ったんですね…僕たち。」


一輝は視線に映る背徳の感情をを抑えながら、落ち着いた声で肯定する。


「あぁ。僕らの勝利だ」


 そうしてガンショップを去り、ラーメン屋のすぐそばのベンチにて順番を待っている最中、3人が捻り出して「あのさ!」と皆同時に行った。

一輝と瑛人は咲夜に譲り、それで少し恥ずかしそうに彼は問いかける。


「あの…もし良かったら僕たちで、分隊を組みませんか?」


その問いに、彼らは一際明るく、かつその誘いに嬉しそうな表情を見せて「勿論!」と、了承した。その直後に、彼らは順番が回ってきたらしく、店員から呼ばれて、そのベンチを後にした。

 そうして腹ごしらえを済ませた彼らは、温泉へと向かった。一輝と瑛人が男湯に向かっている時、咲夜が後ろから着いてきているのを見て、驚きの表情を見せていた。そして、一輝は言う。


「あれ、もしかして…お、男だったのか?」


それに咲夜はキョトンとした顔で答える。


「え?そうですけど…」


彼は不思議そうに、もじもじとする2人を見ていたが、やがて彼は2人が言いたいことに気付いたのか、彼は笑いながら言う。


「ははっ、僕、こんな見た目ですから、よく間違われるんですよ。…さ、行きましょう。」


彼は硬直している2人を押しながら、青い色の暖簾を潜った。

 ──時は進んで、一輝は家で夕食を食べながら、電話をしている。彼はスマホをテーブルに置いて言う。


「うん…うん。楽しくやっているよ。──そうそう、友達ができたんだ。それに……」


電話の相手は家族だろうか。どことなくいつもよりも落ち着いていて、尚且つ和んだ声だった。彼は続ける。


「僕の…僕の新しい居場所を見つけたんだ。」

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