第3話 目は口ほどに物を言う

光陰矢の如し。高校生になってもう2週間が経とうとしているが、相も変わらず隣のアスカ様との間には深い深い溝を感じる。そんなことはいざ知らず、アスマコ会は今日も活発にやりとりが行われる。


● <「やっほー!今何してる??」

◆ <「本読んでるよー。」

「ほかってきた~。」>

◆ <「ほか?」

「あぁ、お風呂入ってきたってこと!w」>

● <「わら」

◆ <「あぁ~!おつ~!」

「おつあり~。髪乾かすね。」>

いかんいかん。家族LINEみたいに油断していた。ほかってきたってあんまり言わない?『お風呂でほかほかする』って意味なんだけど。言わないかぁ。そうかぁ。


● <「今度の土曜日映画見に行かない?」

◆ <「いいよー。」

◆ <「何見る?」

● <「・はまかぜ

・しあわせオレンジ!

・やさしい刑事デカ

・ロストマイル

・アンディショーンズ」

● <「この辺かな~?」

◆ <「おぉー話題作揃いだね。」

「んんー!?映画見に行くんか?!」>

「はまかぜか、しあわせオレンジ!かなぁ?」>

◆ <「いいね!私はまかぜ見たい!!」

● <「おっけい。じゃあ、今度の土曜日13時の回で予約するね~。」

◆ <「ありがと!」

「りょ~!」>

そんなわけで映画を見に行くことになった。友達と恋愛映画なんてマジで青春っぽい感じ!

『にひひ。』ちょっとキモめのリアクションもスマホ越しなら伝わるまい。


当日はあたしがド遅刻をかました。小学生の遠足前かと思うくらい楽しみで眠れず、集合時間に目が覚め、合流した後は2人にとにかく平謝りだった。半泣きで謝るあたしを笑って許してくれる2人。友達の暖かさが身に染みた。

『そんなこともあろうかと。』と彼は言った。集合時間を早めに設定してくれていたおかげで、映画は予定通りに見ることができた。爽やかイケメンはそんなとこまで考えて予定組めるのか。すげぇな。


「はぁー!面白かったー!!」

「王道の恋愛ものって感じだね。」

「んん。俺には少し甘すぎるかなぁ。」

好き勝手、三者三様の感想を述べる。三分の二は肯定的な意見なので女子勢の勝ち。とはいえ、中埜君も『面白かった』という感想では一致した。

恋愛観はホント、人によってマチマチだ。シンデレラストーリーが好きな人もいれば、叶わない恋を追い求める人もいる。あたしはどちらかというと…悲恋でもいいから好きな人の傍にいたい。なんてね。


「いやぁー主演の丸山レイノルド、イケメンすぎだろー。犯罪だぞあれはー。」

「わかる!田崎潤たざきじゅんも声優?の元町祐樹もとまちゆうきも。」

「イケメンからしか摂取できない栄養があるねぇ。」

「ねぇー!」

「そんなもんかね。」

おい!露骨にテンション下がってんじゃねぇぞ爽やかイケメン!ってか、同じイケメンという部類でもなぜか中埜君にはトキめかない。それは同級生だからか?

ううむ。津久田ちゃんと小一時間語り合いたいけど、今はそういうわけにもいかないかぁ。


「そうそ。中埜君、この後どうする?」

「ん?あぁー考えてなかったな。津久田さんはどう?」

「うーん。せっかく都心に来たしさ。」


「たべてー!」

「歌ってー!」

「しょっぴんぐー!」

本当にあっという間だった。焼肉をいいだけ食べ、カラオケで絶唱し、あーだこーだ言いながら古着屋さんなんかを巡った。楽しい時間ってのは、なんでこうもすぐ過ぎるんだろう。最近は特に、ホントに不思議でならない。


「うはぁー。遊んだ遊んだ。」

「ありがとね。連れまわしちゃってごめん。」

「なんのなんの。」

「ほんで今日は遅刻してマジでごめん!!」

「はは。まだ言ってんのかよ。いいってもー。」

「大丈夫だってば~。」

「ホントめっちゃ楽しかった!ありがとね!!んじゃーあたし電車こっちなんで。ばいー。」

「おつー。」

「おつかれ!すがちゃん!」

すがちゃん、か。今日一日で2人との距離が本当に近くなった気がした。色んなことをありのまま、気兼ねなく話せる。そして失敗も許してくれる。中学の頃は思いもしなかった暖かい感情に、少し泣きそうになる。そうか、これが友達なんだ。


『ドサッバラバラ』

「あ。」

久々に聞いたアスカ様の声は短かった。

「あぁあぁ!岡峰君大丈夫ー?」

落とし物をひょいひょいっと、拾い集めてあげる。今まで1か月ほぼ無視されてきているというのに偉すぎないか!?…これもアスカ様との溝を埋めるためじゃい!


「…。」

辺りに散らばる鞄の中身。散らばるといっても、持ち物は最低限でシンプル。結構ちゃんとしているんだなぁ。そんな印象だった。


「…。」

そろそろなんか言えよ!と思って顔を上げると、アスカ様と目が合った。

「ん…?」

「…。」

「いやいや。そんな、お礼なんていいよー。」

ありがとう、と。口には出していないけどそう言っている気がした。まぁ、恥ずかしがり屋だもんね。キミ。


「気をつけてね。」

「ありg。」

「すがちゃん!お昼食べよ。」

岡峰君がなにか言いかけた気がした。いや津久田ちゃんタイミングゥ!

断る理由も無いので、一緒にお昼をいただくことに。


昼ごはんを食べつつ、やはり話題の真ん中はこの前見た映画だ。その会話の一部をちょっとだけ。ラジオ感覚でお聞きください。

「この前見た映画面白かったねぇ。」

「すっげぇ面白かった…。特に主人公がフラれる時の目とか…たまらんかった。」

「目…?」

「あぁ…ごめん。ちょっと悲しいシーンだったね。ははは。」

「目に着目してなかったなぁ。」

「あはは…。あーあたしさ。人の『目』を見るの好きなんだよね。目を見るとさ。その人の考えてること、なんとなくわかるってか。はは。」

「すご!特殊能力?」

「そんなじゃないよ。」

「じゃさ、いま私何考えてるかわかる?」

「えぇー?ん…んん。んー?言っていいのかな?」

「うん!うんうん!」

「怒らない?」

「うん!」

「映画あんまり楽しくなかった…?」

「がぁ!」

「あぁ!違ったか!!」

「…半分、正解。」

「なっ…あぁ…ごめんね。なんかあたしばっか盛り上がってたね。」

「ううん。映画自体は面白かったよ。」

「ほ?」

「あ、そろそろ教室戻ろ!」

「う、うん!」

少し含みのある言い方をする津久田ちゃん。なんだろう?少し違和感を覚える。だけども、その違和感の正体に気づく間もなく昼休みが終わろうとしている。


目は口ほどに物を言う。ってことわざがあるけど。ホントにそうだ。目を見ると。ほんのちょっとだけど、その人が考えてることが透けて見えたりする。オカルトとかスピリチュアルとかそんな類じゃない…と思うけど。小さい頃から周囲の人の目線が、あたしに色んなことを語りかけて来た。そう、良いことも悪いことも。

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