第2話 雨垂れ石を穿つ

「ふぃー。おわつたぁ…。」

怒涛の自己紹介タイムを終えるとドッと疲労感が襲って来た。考えてみれば夜は緊張でほぼ寝てないわけで。いやいや、でも気は抜けない。学校生活は始まったばかりなのだから。

雨垂れ石を穿つ。地道な努力が身を結ぶ!ってことでまずは前後左右…と言ってもあたしの右側は壁だから、前後左!

仲良くしてもらうべく、とにかく話しかける。オラオラぁ!


「あ、ねぇねぇ。えっと、そう!岡峰くんだっけ?君もアスカって名前なんだね。名前一緒でウケるー!これからよろしくね!」

勇気を出して一呼吸で言い終える。うっし、当たり障りなさすぎるっ。完璧!


「…。」

『え…?あたしなんか悪いこと言った?気に触ることした…?』

微動だにせず、見向きもされない。頬杖をついて、どこを見るでもなく「陰」なオーラを放ち続ける。こりゃあ、先は長そうだぜ。


「よう。また一緒だな。アスカ!」

「ひゃ!あぁ!?」

不運は続く。『アスカ』と声をかけられたのに驚いて変な声を出してしまった。そんでもって、呼ばれたのはまさかまさか隣のアスカ様だった。

よかった。幸いにも気づかれてなさそう…。


「…ん。…ん。」

「また、楽しくやろうな?」

えっと、この爽やかイケメンはー、確か中埜誠なかのまこと君。そうだそうだ!


「岡峰君と中埜君は知り合いなんだ?」

「あぁ。そ。幼馴染なんだ。なぁ?俺たち仲良しだよな?」

「ん。そ…だね。」

お前ら本当に仲良いのか?めっちゃ嫌がってそうだけど。


「よろしくね。菅波さん、だっけ。」

「そうそう!よろぴくねー!」

「連絡先交換しようよ。」

きたーーー!!!!まさかの展開。いいぞ!爽やかイケメン!!

しかし、どうしよう。素直に応じていいのか!?待ってたっぽくてキモくないか?どうする!はっ…もしかして、これは罠!?


「あ、おっけー。」

平静を装うが手が震えまくる。あれ?青春するのってこんなに大変だっけ…?あたしが無理してるだけ…?


「ね、私もいい?」

「あ、えっと…津久田さん!」

「わぁ!もう覚えてくれたの?ありがとう!!」

「あたし顔と名前覚えるの意外と得意なんだよねぇ。津久田つくだ舞恋兎まことさんでしょ?」

嘘。本当はめっちゃ頑張って記憶してる。頭爆発しそう。

さっきまでの不幸が嘘のように、ラッキーが続く。津久田さんも輪に入って来てくれた。女子がいれば幾分話しやすいし…気が楽だ。あたし1人でこの爽やかイケメンと陰の者を相手できるとは到底思えない。


「あそっか。津久田さんも『マコト』なんだっけ?」

「中埜君もだよね。」

「てことは男女で同じ名前同士が二組!おもろー!」

「グループつくろうよ!菅波さんもいい?」

「ん?え、あ、あたしはいいけど。」

ひぇー。とんとん拍子すぎんだろー。陽キャって輪を広げるスピードえっぐいなぁ。

でもなんか楽しそうなグループだし。流れに身を任せればいっか。


「アs…岡峰も入れよ。」

「…。」

「連れねぇな。まぁいいや。3人で、アスカマコト会!!結成!!」

岡峰君は、それでいいと思うよ。でも、絶対に会話できるほどに親密度上げてやっから!待ってろぃアスカァ!


閑話休題。高校の入学式という人生で一度きりの激アツな1日が終わろうとしている。家に帰ると当然親からは質問攻めにあった。

友達は出来たか、彼氏は出来たか、学校には馴染めそうか、などなど。

流石に彼氏は早すぎだろってツッコミを入れつつ、友達数人と仲良くなったことを報告する。

『青は藍より出でて藍より青し』と母は言った。…どう言う意味?

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