アスカの目は誤魔化せない!

森零七

第1話 千里の道も一歩から

目は口ほどに物を言う。

辞書で調べてみると「情のこもった目つきは、口で話すのと同じくらい気持ちを表現する」とある。


「だから…俺と、付き合ってください!」

普段無口な彼は、橙色の目の奥を輝かせて決死の勇気を振り絞った。なるほど。その目は、本当に恋焦がれる男子のものでは無く、あたしに助けを求めるものだ。

さて、どうしようか。断っても受け入れても、なっかなかに面倒そう。それに、初めての彼氏がそんな味気ないものなんて。あたしの楽しみにしていた青春じゃない!


え?何がどうなってるかって?

じゃあ、しょうがない。入学式の日から遡ろっか。


「入学おめでとう。今日から君たちは、高校生です。」

いえいえ、どうもどうも校長!あぁ~みんなやっほ~。急ではありますが、今日から晴れて高校生なワケです!第一志望の高校に受かって…めちゃカワな制服を着て、キラキラな高校生活が私を待ち受ける!!はず。うん!中学ん時はパッとしなかった私だけど…青春を謳歌するんだ。

え?あたし?このあと自己紹介するから待ってて!


「はじめまして、阿川優あがわゆうです。」

教室の座席は男女ともに『あ』から順に並んでいるのです。ちなみに私はこの子じゃあない。


國重くにしげひろみです。よろしくお願いします!」

ヒロインぽい雰囲気を醸し出すけども、この子でもないです。


海老嶋雄太えびしまゆうた。よろしく!」

男子じゃん!あたしは!おんなのこ!!


「はい、では次の人。菅波すがなみさん。」

この人は担任の山田先生。


「はい!!」

きました!あたし!!って言っても、人前に出るのホントにダメで。

はぁー。緊張する!けど、大丈夫大丈夫。イメトレの通り、ちゃんとやれば大丈夫!!印象一番、口ベタ二番! みんな、笑わないで聞いてね。


「す、菅波すがなみあすです。『あす』は平仮名で。『か』は花の…『蘭』という漢字を書きます!好きな食べ物は青、好きな色は、カレーです!あっ!」

まぁまぁ。狙ってないとはいえ、我ながらなかなかベタなミス。そして、クラス全員のこの静寂。まぁそうだよね。私の人となりなんて、まだ誰も知らないわけで。


「はは、すごい緊張していますね。もっとリラックスして。」

『あ、あぁあ、あ…!』と口ごもることしかできないあたしに、優しく語り掛ける先生。さすが、大人の余裕を感じる。


「ふふっ。」

誰かが笑った気がした。いや、全員か?『目』を見ればわかる。クラスのみんなは、内心「嘲笑わら」っているに違いない。


「他に何かアピールすることありますか?」

「あ、と、とにかく!!いっぱい友達作りたいです!!よろしくお願いします!」

これだけは伝えたかった。千里の道も一歩から。青春を謳歌するのに大切なのは何よりも友達作り…だと思う。喧嘩をするにも恋愛をするにも。何よりもまずは、みんなと仲良くなりたい。


「菅波さんありがとう。次、岡峰おかみね君!」

爆滑りの事故紹介が終わった。わざとなんかじゃない。本気で間違えた。でも…まぁ嘲笑の中の1人くらいはマジ笑いだっただろうか。あぁ~終わった終わった。いろんな意味で。

そんなことを考えていると、教室内が静寂であることに気がつく。


「…。」

「どうかしましたか?」

どうも、あたしの隣の子も口下手らしい。わかるよ。その気持ち。人前で話すというのは自分との勝負。この子も、今必死に自分と戦っているのだ。

とはいえ、異様に長い沈黙がクラスをピリつかせる。


「…すか。」

「ん…なにかな??」

岡峰飛鳥おかみねあすか

担任に促され、やっとの思いで名前を捻りだす。男子にしてはか細い、消え入りそうな声。


「…岡峰君。なにかアピールある?」

「ないです。」

俯きながらそう言うと、そそくさと自席へ戻りドサっと座る。身に纏う暗ーい雰囲気。なんだっけこういう子…陰陽師みたいな表現で…陰キャ?いやいや、まだどんな性格か知らないわけだし、決めつけるのは悪い。そして耳慣れた名前が思い出される。

『 へぇー。彼も、アスカって名前なんだ。』


そして後の自己紹介はダイジェストでお届け!

中埜誠なかのまことです。」

津久田つくだ舞恋兎まことです。」

松田一朗まつだいちろうです。」

深作ふかさく百合香ゆりかでーす。」

渡辺鯨わたなべくじらです!まじで、名前は漢字一文字で鯨!みんなよろしくな!!」


「一通り自己紹介を終えたわね。1年C組はこのメンバーで1年間頑張りましょう!」

1年C組、総勢30名。不安とワクワクが織り混ざった学校生活が幕を開けた!


え?最初の告白シーンが無いって?

あぁ、それはね。まだ後の話。まぁ、あたしの青春話にちょっと付き合ってよ。

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