第3話 英雄と少女の出会い
「…だれ?けがしてるの?」
まどろむ意識の中、そう誰かの声がした気がした。
「だいじょうぶ。なおしてもらうね」
ハルバードが意識を取り戻すと、そこは村の牛舎の中。気づけば傷はかなり癒えており、手当ての包帯も新しいものになっている。
「あ、きがついたの?おにいさん」
そういって近づいてきたのは村の少女だろうか。手には焼きたてのライ麦パンを持って、無防備にこちらに寄ってくる。
「わたし、ユカ。けがしてたみたいだから、ララクゥにがんばってもらったよ?」
「らら…くぅ?」
ユカと名乗った少女は、指を出すと青い羽を携えた精霊が現れた。その精霊がハルバードの傷に触れると少しずつ傷が癒されていく。これは大陸でも数名しかいない精霊魔術師だ。
「ありがとう…凄いな、この歳で魔術を使えるなんて…」
「じゅつ?ララクゥはおともだちだよ?」
どうやら天才は自覚が無いらしい。ここは素直に感謝した。ユカは持ってきたパンをハルバードに渡し、数日ぶりの食事をした。
それは暖かい味で、もう少しで涙が出そうだった。しかしハルバードは、ユカに自分から離れるように諭す。恩人をこれ以上、危険にさらすわけには
いかない。だがユカは好奇心満載で、娯楽に飢えているらしく、
「おにいさんは、けんしさんなの?ねえ、たびのおはなし、きかせて?」
「え…ええ?まいったな…じゃあ…」
ハルバードは戦いの話、政治の話は避け、旅先の街並みや不思議な出来事を語った。すると、ユカは目を輝かせて聞き入っていた。
「いいなあ。わたしね、ララクゥみたいなおともだちを、いっぱいつくるのが、ゆめなんだー」
彼女ほどの才なら学院で学べれば、きっといい魔導士になるだろう。この状況でなければ、大魔術学院に推薦などもできたのだが…。
「ユカや、そこにいるのかい?」
「!!」
大人の声と思われる者が牛舎の外から聞こえる。ハルバードはすっかり油断していた。
彼女は間違いなく、無垢の善意で匿ってくれたのだろう。しかし、この村の住民はそうではなさそうだ。
たいまつの油火の香りが漂っている。この子と牛たちもろとも燃やし尽くすつもりだ。
おかげで傷はほぼ癒えた。
「しっかり捕まってて…いくよ!!」
だんっ!!がっしゃああん!!
火を着けられる前に、ハルバードはユカを抱きかかえて牛舎を飛び出した。
「お、おのれ!!逃がすな、必ず仕留めろ!!」
「やめておけ。奴は…俺が討つ」
いきり立つ村人たち。しかし、相手にはならないだろう。それを制止したのは、追って来た戦友、ランデイズだった。
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