第四章 月
第31話 崩壊後の月面にて
中心部に居た貴族達も、慌てて
全体として人口の少ない貴族が持つには広く大きい
事情は様々で、貴族達を押しのけ、殺してまでも奪い取った船。正義感と責任感のある貴族が一般人を受け入れた船。混乱に乗じて貴族の『コレクション』を盗んだ者も居た。
彼らが目指すのは一点。崩壊によって肉眼での確認が可能となり、
***
崩壊から1ヶ月。
その後、
生き残った全ての人々を受け入れるだけの面積は、充分にあった。
問題は
***
「おとうさん、お腹すいた」
「ああ……」
元労働孤児監督官のビールフは、革命の日に責任を取らされて企業をクビになっていた。家族と再会し、再就職先を探していた所を被災したのだ。
「これからどうなるの?」
数日前に配給のあった水筒を娘に渡した妻がビールフに訊ねる。
「……俺は何も聞かされてねえ。そもそも、俺ごと崩壊に巻き込んで殺して、証拠隠滅するつもりだったろうしな。今も、いつ殺されても不思議じゃねえ」
「そんな……」
「だからまあ、最後にお前達に会えて良かった。何も知らねえバカな中間管理職が間違えて俺をクビにして、
「…………隣の船では暴動が起きてるって、噂が聴こえたわ」
「だろうな。この避難も、貴族が善意でやってることだ。本来、見捨てられておかしくねえ。事実、もっと救えた筈の多くの人が
「……こんな所で生きていけるの……?」
「分からねえが、俺達はもう、何もできねえ。成り行きに従うしかねえな」
これは行政の対応などではない。この
「ビールフ」
「あん?」
そこへ。
彼の前にやってきた女が居た。
フードの付いた、ボロボロの黒いコートを着ていた。痩せた体型で、顔色も良くない。フードを被っており、髪色は分からない。
だが瞳は赤かった。
「…………あんた……!」
ビールフは彼女を見て驚く。隣の妻は何事かと首を傾げる。
「生きていたのか……!」
「……私だけ。『
立ち上がり、女が確かに存在していることを確認するビールフ。信じられないものを見たといった表情だが、やがて彼の頭の中で情報が整頓されていく。
「…………砂は落としてきたでしょうな。あんた、
「そんなこと、今はどうでも良いわよ」
「………………月下。あんたの娘達は全員死んでる。
「『月下』……って?」
ビールフが女をそう呼んだ。妻が拾う。その敬称は、王族に使われるものだからだ。
「……違うわ。あなたが生きている。ビールフ。それはラムダ-4から崩壊しなかったことの証明。あなたがあの子を守ったのよ」
「違う。俺は……。職務を放棄した。革命の日に責任を取らされてクビになった。あんたの娘がどうなったかは知らねえんですよ」
「…………なんですって」
女は憔悴した様子だった。一縷の望みをかけてここまでなんとかやってきたという風貌だった。
「………………?」
そんな時。
壁にもたれ掛かるビールフの肩越し。窓の外のとあるものを、見付けた。
白髪赤目の少女が、外からこちらを見ていた。
「あの子はっ!?」
「あん……?
女の催促でビールフも確認する。サイドアップでワンピースの少女。
彼女の周囲には、
「……あれは砂ウサギだ。どこの家かは知らねえが……。あんたの娘はあんたと同じで鉄ウサギ。人違いですよ」
「でも呼んでる。私、行くわ」
「…………そうですかい」
「これまでありがとうビールフ。さよなら」
女はそう言って、
それを見送って。
「……礼を言われることなんざ、できてねえよ」
呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます