第29話 ミミ・ネザーランドの話
元々、ルピルは物事に対して一歩退いて見るような子供だった。関心事が少ない。今も、正義感や使命感を抱いているとは言えない。
だが、革命軍に対してはアナの影響で好印象は抱けず、エリーチェとキルトについては彼女達の影響で連帯感を抱いていた。
今。この現状を作ったのは革命軍であり、どこかの王族であり。
それはルピルにとっては、敵対の方向を向くことを結論付けていた。
「
老師と呼ばれる老人が用意した食事を摂る。何はともあれ、今のルピルは快復に努めなければならない。ここが月教徒達の本拠地で、つまり敵陣のど真ん中であろうと。今のルピルがやるべきことは、栄養を摂り、休むことであった。
「おいしい」
「そうでしょう? ここで育てている野菜のスープです」
「やさい」
「
「初めて食べたよ。本物の草」
「…………そうですか」
部屋には窓がある。観音開きに開けられており、時折カーテンが揺れる。風だ。ルピルにとっては、珍しい光景。
「…………息をしているだけで美味しいんだけど」
「ここには、
「……さんそって、星鉄を駄目にするんじゃ」
「ですから、ここの物は殆どが木製です」
「…………」
鼻から、口から。新鮮で清潔な空気を吸う。こんなにも呼吸が心地良いのは初めてだった。あの第5層の工業区は、空気が悪いのだと、今知った。
「…………20年前の弾圧から生き延びて、
「仰る通りです。
思えば、全くの偶然とも言えないのだ。崩壊が起きたのが、ラムダ-4の時刻で真夜中だった。つまり太陽は反対側にあった。そこから真っすぐ、
「……どうして僕を助けてくれたの? 僕は
「
「じゃあ、なんで姫様」
「ウサギはウサギですから。思想は違えど、我々人類の指導者であることには変わりません」
「…………」
「快復したな。話をしようか」
「…………」
それが革命軍リーダー、ミミ・ネザーランドにも当てはまるかどうかはまだ、分からないが。
***
老師を退室させて、部屋にはミミとリリンが残った。ルピルが目を覚まして1日経った。既に腹は膨れ、充分な睡眠を取った。そして。
「リーダー。ルピルはまだ――」
「いや。治っている筈だ。ウサギが酸素を取り込むということはそういうことだ。なあ」
「…………うん」
ルピルは起き上がり、立ち上がった。包帯をほどいていく。身体に痛みは無い。昨晩は一夜、熱を出したが。
完治とはいかないまでも、既に傷は治りかけていた。
「それで、話って?」
「わたしはここの老人共と違って、この現状に満足していない。仲間を大勢失って、悲しみと怒りを抱いている。つまりは、我々を操って裏切った奴に仕返しがしたい。そこで、『鍵』の力を貸て欲しい」
「…………」
悲しみと怒りを抱いているのはルピルも同じである。だが、その矛先は違う。そもそも、引き金を引いたのは革命軍だ。
そんな不満を、無言で表現する。
「見返りに、当然だが
「……うん」
「こっちへ来てみろ」
身体は動く。ミミに付いて、部屋を出た。そのまま廊下を通り、外へ出る。
黒い空。さながらスフィア外縁部だ。だが
空は暗黒だが、
「上だ。直上」
ミミの人差し指が真上を差した。ルピルはそれを追って顎を上げる。
暗黒の空に、たったひとつ、光る点が見えた。
「……太陽?」
「違う。太陽は
「じゃあ、
「違う。
「…………」
どういうことか。隣のリリンを見る。彼女も上を見上げているが、何かを探すような表情だ。
「何か光ってるの? あたしは見えない」
「えっ?」
ミミを見る。
「わたしにも見えない。だが、お前の反応で確信した。そのウサギの赤目には、
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