第25話 NOAH-System
「21世紀初頭。未曾有の大災害が起きた。……いや、『未曾有』では無かったのだろう。その5000年前にも似たようなことはあったという」
透明なドーム状のガラスに囲まれた、
「人類は、別の惑星へ避難する者達と、残る者達。そして、我々の三手に別れた」
「『
この場には彼だけではない。聞き手が居た。だが、今は彼の語りに、頷きながら黙って耳を傾けている。彼の説明に納得しているからだ。
「――というのが、下々にすら流れていない――
「…………違う、と?」
彼の言い方は、その有力説を否定するかのような嘲りだった。彼女は、遂に口を開いて真偽を確かめる。
「別の惑星で新しく文明を始める『
「
「フフ。ハハハ」
訂正するように捲し立てる彼女に、彼は笑みを溢す。
「
「!」
ひと言で、彼女は黙ってしまった。
「38万キロを『半径』とした球体だぞ。どこにそれを覆い尽くす途方も無い量の
「う……」
「何故、そこまで進歩した科学文明が、子孫である我々へ一切の情報と歴史を伝えてないのだ。文字の無い原始人ではないのだぞ。伝わっていないなどありえない。答えられる者は居らん。
「……っ! それは暴論です。先祖が歴史と情報を後世に伝えていないことと、『自然物』という結論は結びつきません。それに、それほどまでに巨大なら、尚更、
「例えば、風船を膨らませた」
「?」
「泥を掛けよう。満遍なくと気を付ける必要は無い。適当に投げ付ける。すると、いつの間にか泥の球となって固まる。……最後に風船を萎ませて取り出す。すると、空洞のある泥の球体の完成だ。空洞には、泥から発生したガスが溜まる」
「……それが、
「仮説のひとつだ。巨大だからこそ、自然なのだ。良いか、宇宙の広さを軽視してはならない。広い広い宇宙では『こんなこともある』。そもそも
「
「そう。我々の議論は並行線。だから、実際に見てみようではないかと、そうして始まったのだ。
ラーメン構造体――
「ハナニラとオーニソガラムに忍び込ませた部下から連絡があり次第始める。既に他のスフィアは『鍵』の配置が終わっている。残るはラムダ-4だけだが……それを待っている時間は無い。まあ、一角抜けても変わらんだろう」
「……何も知らないスフィアの貴族、市民達への避難勧告は」
「する訳無いだろう。誰もが反対するのは目に見えている。説得を試みても、数百年掛かるだろう。待てる訳がない」
「そんな……」
その模型を、ひとつずつ、角からパーツを取り外していく。ひとつずつバラバラに。
「本当に……大勢の貴族市民を見捨てるつもりなのですか。『自然物派』は過激過ぎます。今ならまだ思い直す余地がありますよ」
「はっはっは。なんと弱い制止か。我々が過激ならそちらは狡猾だ。なんのかんのと、ここへ来るまで強く反対をしなかった。『人工物派』よ。我々は結局、研究者なのだ。探求者なのだ」
「!」
中途半端に崩れた模型をテーブルに置いて、彼は立ち上がる。ゆっくりと歩いて、彼女へと迫った。
「見たいのだろう。
「………………っ」
彼女の表情からは、まだ葛藤が見える。彼は笑っていた。
「……
「ふん。あのような非合理的で願望と理想論を振りかざす思想家は要らん。我々が論じているのはこの世界が人工物か自然物かというもので、正しい社会や政治の在り方などではない。平等? 格差是正? 民の幸福? 毛ほども興味無いわ」
「……この機に危険思想を一掃する気ね」
「まあ……研究者と言えど、我々も王族。政治は嫌でもせねばならん。今回で外側のスフィアを切り離して捨てれば、残ったスフィアで人口と星鉄量を調整できる。星鉄の価格高騰も抑えられるだろう。引いては人類を救うことに繋がる。なあ? タイシャクテン月下」
「…………」
彼女は最後まで、彼を敵視して睨んでいた。
「あなたは本当に、気が触れているわ。ネザーランド月下。自身の探求心の為に実の姪を見殺しにするなんて」
だが、止めはしない。
「これは、賭けなんだよ。我の見立てが間違っていれば、我々はこの
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