第16話 キルトの決意
ただ、人は多い。彼女らと同じく
「……新聞って、どこに売ってるんだろう」
3人で、灰色の通路を歩く。取り敢えず、交通機関である鉄道の駅へ向かっている。目的地は決めていないが、一応は
「本屋で売っている筈よ。本屋を探しましょ」
ルピルの問いに、エリーチェが答えた。これは正解が半分、彼女が都市の本屋へ行きたいのが半分である。
何故なら、本屋でなくとも新聞を入手することは可能だからだ。
だが、ルピルとキルトにその知識は無い。ふたりはエリーチェに従うしかない。
「んん……。はぁ。久々に身体動かせるぜ。ずっと何日も車の中に居たんじゃおかしくなっちまう」
キルトが両腕を挙げて伸びをした。ついでに、寝起きの欠伸も出た。
「僕は
「私も、本さえ読めればどこでも、そんなに」
「お前らなあ……。変人達め」
「キルトに言われたくなーい」
「あははっ」
「はぁ……」
キルトは、この女子ふたりには敵わないと悟る。ついでに、リリンの気持ちを少し理解した。
「ねえ、戻って来れる?」
「関所の番号を聞いてるから、最悪ゲートで待ってりゃ集合できるぜ。それに、通信機も持ってきてる」
「流石キルト!」
ルピルとエリーチェは心做しかテンションが高い。『買物』というイベントは、ショックなことがあった後としては良い気分転換になるのだろうと思った。
***
『現在入っています情報によりますと、ラムダ-4第5層を中心に占拠している犯人グループは革命軍を名乗っており、現「
本屋のあるであろう都市中心部へ行く為、切符を買ってから鉄道に乗った3人。車内は満員だが、天井に備え付けられたモニターを観るくらいの余裕はあった。
「知ってる? 私達の働いてた所って、ラムダ-4の『第5層』って言うの。一番中心の『第1層』が貴族区画で、そこからスフィアが5回増築されてるってこと」
「外縁部を含めたら6回だな」
「そう」
「中枢じゃなくても貴族区画があるんだよね。じゃあ64全てのスフィアに貴族区画があるの?」
「そうよ。何人居て、中で何をしているのかは知らないけれどね」
モニターには、放送しているスタジオから中継が繋がっており、その第5層の様子が映し出されていた。未だ火の手が上がっている。建物は破壊されて、瓦礫の山ができている。
「あいつら、大丈夫かよ」
「大丈夫よ。だって私達はその時外に居たんだから。全員無事ではある筈よ」
「でも、その後革命軍に入ってから怪我してたりとか」
「……そんなこと、考えたって仕方ないじゃない」
「…………そうだけど。それでも心配するよ」
「ルピルの言う通りだな。俺も心配だ。革命軍に入るって簡単に言うけどよ。犯罪者になるってことだぞ。もう、都市にも入れねえ。合法的に関所を通れねえから、下手したらスフィアから出られねえ」
「……元々、何もなくても私達は一生ラムダ-4で強制労働でしょ」
「…………まあ、な。それはエリーチェの言う通りだな」
あの時。
残るか、革命軍か。選ばなければならなかった。第三の道を見付けたのは、ルピル達3人だけだ。
「俺達は運が良かった。本当なら
「…………」
キルトの呟きに、ルピルとエリーチェが顔を見合わせた。
「私はあの時、本を読みながらなら死んでも良いって思っちゃった」
「僕も。
「お前らそれは……」
変人、と言えなかった。あの時キルトも命懸けだった。ふたりが先に死を受け入れていたのだとしても、不思議ではない。
「だから、感謝してる。今は全然そう思わないもん。助かって良かった。エリーチェは?」
「ええ。生きてた方が絶対良かった。今、人生で一番楽しいもの。ありがとうキルト。それにルピルも」
「エリーチェこそ。僕はエリーチェを追って来たんだから」
なんとなく。
ふたりの女子達を眺めて。
「…………」
キルトは、彼女達を守ろうと心の中で決めたのだった。
「はあ。それにしても暑いよね。もう蒸れちゃったよ」
「……ルピル、お前ここで絶対に脱ぐなよ。マジで」
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