第6話 革命の火

 本社にちょっとだけ寄って。社長だか会長だかよく知らないおじさんの話を社員全員で聴いて。


 僕らはすぐに解放された。


「よう」

「キルト」


 皆がそれぞれ街へ散っていった。僕はどうしようかなとぶらぶらしていると、キルトがやってきた。


「エリーチェ知らねえか?」

「本屋か図書館だと思うよ。一番に出て行ったのを見たから」

「そうか」


 エリーチェは毎年本屋と図書館に行っている。

 本は高くて滅多に買えないけれど、図書館なら借りれる。

 そこの職員さんと知り合いになったらしく、1年借りても許して貰えるらしい。

 そんなに多くは借りれないから、毎回2〜3冊程度。

 それを、1年掛けて何十回も読むんだって。


「キルトはどうするの?」

「俺はまた電気街かな。去年行った辺りをざーっと見て回る。欲しいパーツあるけど金足りないから来年かな」


 去年は、キルトと一緒に買い物をした。選んでもらったんだ。僕は詳しく無かったから。

 寮の窓をハッチに改造するのと、命綱と吸気マスクとボンベを作るために。


「お前は?」

「うーん。もうやりたいことは去年で終わっちゃって。特に行きたい所はないんだよね」

「じゃあさ、今度は俺に付き合ってくれよ」

「え? 良いけど、星鉄機器は分かんないよ」

「違う違う。相談に乗って欲しいだけだ。こっちだ」

「?」


 キルトに付いていく。方向は、電気街じゃなかった。

 途中、やっぱりクーロンとリリンが喧嘩しているのを見掛けたけど、放っておいた。

 いつものことだし、ふたりの問題だから。






***






 買い物が終わって。また1日掛けてバスに揺られて。戻ってきた。

 余ったお金でお礼にとキルトに買ってもらった氷菓子、美味しかったなあ。


 到着した頃には既に夜で。仕事は明日からになった。

 解散を皆に伝えたビールフの表情は優れなかった。


「ちょっと待てお前ら! 寮へ行くな! 待て!」

「!」


 叫ぶ。ビールフの声は大きい。僕らは反射的にびくりとして止まる。


「なんだよビールフ」


 クーロンが愚痴る。


「あっ。あれ見て!」

「!?」


 その横で。リリンが甲高く叫んだ。指を差す方向。寮だ。


 光っている。いや。

 赤い。


「燃えてる……!?」

「うそ、火事!?」


 ざわつく。なんだあれ。寮が、火事? そんな馬鹿な。誰も居ないし。火元なんて。

 ビールフを見る。通信機を耳に当てていた。


「なあビールフ!」

「…………お前ら、向こうへ行くなよ」

「は!?」


 そこで。

 僕らとは別のざわつきに気付く。今まで、聴こえてなかったんだ。

 寮の。作業場の。向こう側。街の方から。


 時折銃声や破壊音と、悲鳴が。


「革命軍だっ! お前らの寮は飛び火食らったんだよ! 逃げろ! 巻き込まれるぞ!」

「う……!」


 悲鳴。叫声。僕らの中から。

 僕らはグレーとはいえ、『体制側』の企業の端くれだ。狙われても不思議じゃない。

 それと、クーロンの所に来たっていう依頼人の言ってたこと。


 今日の夜に。






***






「俺は行くぞ! 待ってたんだ!」

「!」


 皆が逃げ出したり呆然としている所に。クーロンが吠えた。


「クーロン」

「そうだなクーロン」


 他の男子も数人、彼の元へ。


「ビールフ。止めるか?」

「………………ちっ」


 彼らはビールフに確認する。多分、何を言っても意志は変わらない。

 ビールフもそれを分かってる。


「好きにしろ。巻き込まれて死んで行方不明。そう報告すりゃ良いだけだろ」

「……あんたはどうするんだ」

「俺は無理だ。一応、役人くずれだからな。このことを上に報告する責任がある。……この上のスフィアに、嫁と娘が居る。俺は一生、廿四球儀アストロジアの犬だ」


 ビールフも、僕らと同じようにここに流されてきた。けれど、僕らと違って、守るものがある。


「待ってクーロン!」

「私の本が!!」


 全くの同時に。

 リリンとエリーチェが叫んだ。


「……リリン。お前は来るなよ。危ねえから」

「ばかクーロン! あたしはね……!」


 僕は。


 借りてきた新しい本をその場に置いて、一番に寮へ向かって駆け出したエリーチェの方が心配になった。






***






 誰も止めなかった。動けないんだ。革命軍志望の子以外は。ビールフも含めて。

 いや、ビールフはもうどうでも良いんだろう。僕やエリーチェが死んでも。


「待ってエリーチェ! 僕も行く!」

「ルピル!?」


 滑り込み。エレベーターに乗り込んだ。すぐにドアを締めてスイッチ。


「はぁ、はぁ。ルピルどうしてあなたが。私は、大事な本が燃えたら嫌だから」

「僕も。大事な友達が燃えたら嫌だから」

「!」


 普段運動しないエリーチェは、全力疾走したから息を切らしていた。

 中は熱い。建物が燃えているから。


「本が無事でも、下に戻る手段考えてなかったでしょ。僕のマスクなら、煙を吸わずに移動できるからさ」

「ルピル……!」


 ガコン。


「うわ」

「きゃあ!」


 急にエレベーターが止まった。揺れる。僕らは抱き合って転がった。

 まだ上まで着いてない。


「…………どうしよう」

「こじ開ける。ここからは階段で登ろう」


 スパナや工具は、いつも持ち歩いている。


「……ルピルは、クーロン達のこと心配じゃないの?」


 作業をする僕の後ろでエリーチェが訊ねる。


「心配だよ。けど、僕が何を言ってもクーロン達は聞かないでしょ。それこそリリンじゃないと」

「……でもあの子達いつも喧嘩して」

「うん。だから。リリンは、クーロンと居れば安心だと思う」

「えっ?」


 多分付いていく。リリンなら。

 凄い勇気だ。

 でも、燃える建物に突っ込んでいくエリーチェだって、凄いと思う。


「よし。開いた」

「ほんとに? 毎日触ってるから分かるけどこのエレベーターのドアって物凄く分厚くて重くいのよ」

「僕はこういうのだけは得意だから。行こう。エレベーターが崩れる前に戻らないと、もう下には降りれなくなる」

「……うん!」

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