第4話 機械オタクと革命軍志望

 全部で64個のスフィアの自治は、それぞれが独立している訳ではなくて。

 中心に君臨する『八芒星ベツレヘム』の下に、24の『中枢スフィア』がある。八芒星ベツレヘムから直接繋がっているスフィアのこと。これを『廿四球儀アストロジア』と呼ぶ。


 8つの王族貴族、24の上流階級、32の市民階級。その市民階級の下に、僕ら底辺の労働孤児がいる。


 聯球儀イリアステルの半分を占める市民階級のスフィアは、全てどこかの廿四球儀アストロジアの管理下にある。

 僕らの居るスフィアは、『ラムダ』という廿四球儀アストロジアに所属している。

 『ラムダ-4』。これがこのスフィアの正式名称。






***






「お前らキチッとしろ! ぶっ飛ばすぞガキ共!」


 今朝から、ビールフの機嫌が悪い。いつもより。

 いつも毎日、詰め所で新聞を読みながら都市で行われている賭け事の様子をラジオで聴いているだけなのに。今日は僕らの作業場を目を光らせて練り歩いている。


「どうしたんだろう」

「俺聞いたぜ。中枢の学者先生が来るんだと」

「なにそれ?」


 独り言のつもりで呟くと、依頼の関係でたまたま同じ作業場だった青髪のキルトに拾われた。


「知らねえ。役人じゃねえらしいけど、結局上の人間だろ。いつもの視察と変わんねえって」

「ふうん」

「…………お前も、一応服着とけよ。一般区画じゃ服脱いでたら犯罪なんだぞ。相手は一般区画以上の人間だ」

「ふうん」


 キルトは機械が好きだ。主に星鉄機器。コンピュータだ。自分で廃材なんかを使って回路とか作っているらしい。おたくだ。仕事の時間以外でもそんなことやるなんて。


「あ。もしかしてこの星間車の持ち主かな? 今日仕上がるってビールフに伝えてるし、取りに来たのかも」

「ん? ああ確かに。星間車なんて滅多にウチに来ないよな。私用車なら、『学者』ってのも頷ける。金持ちだからな」


 今日、キルトが仕上げたアンテナ機器もこの星間車に積む。キルト曰く、降ってくる星鉄を感知するレーダー装置らしい。そういう細かいのは、僕は苦手だ。

 生きるためにやってるだけで、別にこの仕事が好きな訳じゃないしね。


「おいルピルにキルト! お客様がお見えだ! 手を止めろ!」

「!」


 とかなんとか言っていると。ビールフの大声が後ろから。


 振り返ると、ビールフの後ろにふたり。

 この工業区に似付かわしくない、綺麗な服装の人達が居た。


「バカおめえ、作業着くらいキチンと着ねえか!」

「わっ」


 目を合わせる前に、ビールフが物凄い勢いでやってきて、僕の半脱ぎ作業着を高速で着せた。ギュッ、と前チャックを閉められる。首まで。


「ははは。別にいいよビールフさん」


 さわやかな声。同じ大人の男の人なのに、野太くて機嫌の悪そうなビールフとは凄い違い。

 茶髪の天然パーマ。背の高い人だ。紺色のシャツの上にカーディガンを着ている。お金持ちの服だ。暑くないのかな。


「いやあ、ちょっと急ぐことになってな。仕上がりが今日とは聞いていたから、待ち切れなくて押しかけてしまった」


 彼はにこりと笑い掛けてくれた。全く出会ったことのない種類の人だから、どきっとした。


「教授。早速確認を。そしてすぐにでも出発を」

「分かってるよ」


 教授。そう呼ばれてるんだ。

 呼んだのはもうひとりの人。女の人だ。綺麗な人。教授さんよりもっと明るい金髪をハーフアップにしている。メガネを掛けていて知的だ。こっちは涼しそうなキャミソールとジーンズ。でも持っているバッグは大きくて、両手で抱えてる。


「おい、説明だ!」

「わっ。えっ。はい」


 ふたりが星間車を確認し始めた所で、ビールフに背中を叩かれた。そんなの。

 お客さんと話すなんてしたことないけど。


「えっと。事前に申告があった箇所は直してます。それ以外にも破損と摩耗箇所があったから。それとタイヤも。予算内だから、僕……わたしの判断で交換してます」

「ふむ。問題ない。いやこれは。空気漏れも完璧に直ってる。手際が良いな。この数日でこれか。結構傷んでたろう?」

「……うん。いや、はい。えっと。空気漏れに関してはフレーム自体が歪んでいたので」

「これも交換?」

「いや。矯正しました」

「ほう?」

「えっと。使われてる星鉄材の種類的に、弾性に優れてて。これならこっちに予算掛けるより、タイヤの方が重要かな、と」

「実際の修理も君が?」

「はい。このくらいなら」


 それから。

 色々説明して、質問に答えて。途中から、星鉄機器の話になってキルトにバトンタッチして。


 なんだか疲れた。






***






 その日の夜。仕事が終わって、寮に戻って。

 食堂でいつものパックを配給されて、いつもの席に向かう。


「――だから、やべえって! すげぇ!」

「ビールフには言ったのか?」

「バカ言う訳ねえだろ!」

「俺は行くぞ! こんな機会逃したら一生死ぬまで星屑ジャンクのままだ!」

「おおおおっ!」


 男子達が固まって騒いでいた。勿論クーロンが中心。

 その端にリリンが居た。


「何の騒ぎ?」

「あっ。ルピル。あのね、今日、クーロンの所にお客さんが直接来たんだって」

「へ?」


 リリンは不安そうにしていた。どういうことだろう。


「……それがね。ロゴの入ってない大型の、重装星間車の依頼人で。クーロンにだけ、『革命軍』だって教えたらしいの」

「えっ」

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